新幹線大爆破未遂事件
東映からの協力の申し出に、国鉄は口頭で、この映画の設定は大きな社会不安をもたらすものだけに協力できないし、可能ならば製作中止にしてほしいと申し入れた。
たかが映画に神経質すぎるのではないか――と思いそうになるが、国鉄には国鉄の言い分もあった。新幹線に爆弾を仕掛ける事件が現実に存在したからだ。
1967年4月15日に起きた「ひかり21号爆破未遂事件」では、東京駅発の「ひかり21号」の7号車16D席に箱入りの「源氏物語 下巻」(河出書房新社)が置かれているのを、熱海付近を走行中に車掌が発見した。しかし、この近辺の席は売られておらず、不審に感じて箱の中を調べてみると、本の四隅がテープで固定されており、中身が見られないようになっていた。爆発物の可能性ありと判断し、新幹線総合指令所に連絡を取り、名古屋駅到着時に鉄道公安職員に引き渡し、そのまま愛知県警と中村署へと渡されたが、その後、中身を改めると、本の中は鋭利な刃物でくり抜かれており、ダイナマイト3本と発火装置が装填された時限爆弾と判明した。幸い、設置されていた時計が壊れていたことに加えて、車掌が本を箱から抜き出したときにコードの接触が悪かったこともあり、不発に終わった。もし爆発していれば、一車両が吹き飛んでいた可能性があった。
捜査は意外に手こずったが、事件から1ヵ月後の5月17日、有力な手がかりを捜査本部は入手した。事件当日、「ひかり21号」の7号車付近を撮影した8mmフィルムである。提供したのは当日、10号車に乗車した団体旅行の1人で、発車前のホームで約5分にわたって8mmフィルムを回しており、7号車の様子も写っていた。捜査本部が解析すると、10号車から7号車に向かって、キョロキョロ周囲を見回しながら歩く不審な若い男が写っており、重要参考人として行方を探すことになった。また、この時間にホームにいた人々もフィルムには写っているだけに、これらの目撃者を探し出すことで事件解決につながる可能性があった。
しかし、期待された犯人につながる情報にたどり着くことはなかった。
迷宮入りかと思われた捜査に進展があったのは、事件から10ヵ月後。福島県須賀川署に窃盗の容疑で逮捕されていた18歳の無職少年が犯人と判明した。
少年は須賀川市内で数件の窃盗を行った疑いで指名手配されており、1968年2月16日に逮捕されていた。取り調べに当たった捜査員が、前年4月の「ひかり21号爆破未遂事件」の同日同時刻に少年が修学旅行で東京駅から「こだま」に乗り込んだことを知り、警視庁に指紋を照会したところ、爆破装置となった「源氏物語 下巻」に付着していた指紋と一致したことが決め手となった。
同月18日に少年の部屋を捜索すると、導火線、木炭、カーバイドなどの黒色火薬を作る際に用いられるものが発見され、少年が火薬の作成を行っていた嫌疑が高まった。そして少年が友人に保管を依頼したとされるダイナマイト131本、雷管62個も発見された。
これらの証拠を突きつけられた少年は、「学校で習ったことを実験してみたかった」(「毎日新聞」68年2月20日)と供述。前年の1月に工事現場から工事用ダイナマイト134本を盗み、爆破装置のテストを3月頃から始めていたという。本を左右に開くと爆発する仕掛けを施し、4月15日に修学旅行で上京した際に、本に偽装した時限爆弾をボンストンバッグに詰めて持ち込み、東京駅の新幹線ホームで隙を見て新大阪行き「ひかり21号」に乗り込み、7号車16D席に時限爆弾を置いて立ち去ったという。
1969年5月、爆発物取締罰則違反、電車破壊未遂、殺人未遂に問われた少年は、東京地裁刑事二部でひらかれた論告求刑で懲役13年が求刑された。
実際に爆弾を仕掛けないまでも、脅迫電話は後を絶たなかった。1971年2月4日には、赤軍派を名乗る男から、東京駅の駅長室に「新幹線ひかり号に時限爆弾を仕掛けた」と告げる電話が、午後2時18~47分にかけて、計4回かかってきた。犯人は、それぞれ、ひかり49、309、53、55号に爆弾を仕掛けたと告げた。
すでに東京駅を発車していた「ひかり49号」は熱海駅で臨時停車させ、鉄道公安官を乗せて車内点検にあたったが、不審物は発見されなかった。後発の新幹線も東京駅や小田原駅で検査したが、異常はなかった。ところが、「ひかり49号」が米原駅の東500メートル付近を走行中、前から4両目の車両の窓に接触音と共に直径3ミリの穴があき、放射状のひびが入った。1時間後、同じ場所を通過した「ひかり55号」の前から3両目の車両の窓にも直径5ミリの穴があき、8本のひびが入った。その後の検証で「ひかり49号」は空気銃によって狙撃されたことが断定され、「ひかり55号」は空気銃か投石か判然としなかったが、いずれにしろ脅迫電話との関連があるものと見られた。
こうした事件以外にも、いたずら電話も含めた脅迫が頻発していただけに、国鉄が模倣犯を生み出しかねない映画の製作に神経質になったのは無理もないと言えるかもしれない。
文・吉田伊知郎
素材提供:東映
【参考文献】
『キネマ旬報』『映画撮影』『映画時報』『週刊映画ニュース』『大泉スタジオ通信』『映画情報』『東邦経済』『財界』『鉄道ジャーナル』『日本国有鉄道 広報第186号』 『東映企画製作発昭50年第33号』『朝日新聞』『毎日新聞』『読売新聞』『報知新聞』『デイリースポーツ』『スポーツニッポン』『サンケイスポーツ』『日刊スポーツ』 『週刊サンケイ』『週刊ポスト』『サンデー毎日』『週刊文春』『アサヒ芸能』『週刊明星』『週刊平凡』『週刊宝石』
『少年非行の実態 昭和51年』(京都府警察本部防犯部少年課)、『関根忠郎の映画惹句術』(徳間書店)、『終生娯楽派の戯言(上)』(マルヨンプロダクション)、『クロニクル東映』(東映) 『東映の軌跡』(東映)、『映画監督 佐藤純彌 映画 (シネマ) よ憤怒の河を渉れ』(DU BOOKS)、『東映スピード・アクション浪漫アルバム』(徳間書店)、『高倉健 メモリーズ』(キネマ旬報社)、『SFX-CM大図鑑』(講談社X文庫)
第2回に続く
映画『新幹線大爆破』
9時48分、約1500人の乗客を乗せた新幹線ひかり109号博多行は、定刻どおり東京駅19番ホームを発車した。列車が相模原付近に差し掛かった頃、国鉄本社公安本部に、この109号に爆弾を仕掛けたという電話が入った。特殊発火装置を施した爆弾は、スピードが80km以下に減速すると自動的に爆発するという。止まることのできないひかり号は、東京から博多までの1100km超をノン・ストップで疾走する。緻密な計画のもと500万ドルを要求し着々と計画を実行する犯人・沖田と、捜査当局との息もつかせぬ駆け引き、そして運転司令室の頭脳操作……。逃げ場のない極限状態の中、犯行グループ、警察、国鉄職員、乗客、それぞれの人間模様がドラマチックに展開し、全国民が注目する中、列車は驀進する!
監督:佐藤純弥
出演:高倉健、千葉真一、山本圭、織田あきら、竜雷太、田中邦衛、郷鍈治、川地民夫、宇津宮雅代、藤田弓子、藤浩子、松平純子、多岐川裕美、志穂美悦子、志村喬、山内明、渡辺文雄、永井智雄、鈴木瑞穂、丹波哲郎、宇津井健
© 東映
1975年7月公開
Amazon Prime Video / Netflix / U-NEXT / HULU にて配信中
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