
ポーランドのSWPS大学が5か国4456人を対象に行った研究によって、恋愛や対人関係への不安が強い人ほど、フェラーリやロールスロイスといったステータスを象徴する車や住宅を欲しがる傾向にあることが明らかになりました。
さらに、その原因は単なるモノ好き(物質主義)でも、一般的な負けず嫌いでもなく、これらを差し引いても効果が残ることが確認されています。
いったい、なぜ恋愛の不安が高級車への渇望に変わるのでしょうか?
研究内容の詳細は『Journal of Personality and Social Psychology』にて公開されました。
目次
- 高級品で「武装」する人の心の奥とは?
- 恋の不安を思い出させるだけで、フェラーリが欲しくなる
- 見せびらかしは「支配」の衝動だった
高級品で「武装」する人の心の奥とは?

SNSで高級時計を見せる人、タワマンの夜景を映す人、さりげなく車のエンブレムが写り込んだ写真を投稿する人。
そうした「見せびらかし」を目にしたとき、「お金持ちなんだな」で終わる人もいれば、モヤっとした反感をおぼえる人もいるでしょう。
けれど今回の研究が示しているのは、あの誇示の裏側に「自分は十分に愛されていないかもしれない」という不安が隠れている可能性です。
高級品という「鎧」で身を固めているように見える人ほど、その内側は意外なほど傷つきやすいのかもしれません。
ここで鍵になるのが、心理学でいう「愛着不安」と呼ばれる概念です。
人は幼い頃の親や養育者との関わり方をベースに、大人になってからの対人関係の「クセ」を無意識に身につけていきます。
愛着不安が強い人は「相手に見捨てられるのではないか」「本当は愛されていないのではないか」と慢性的に不安を感じる傾向があります。
恋人の返信がいつもより少し遅いだけで落ち着かなくなったり、「嫌われたかも」と頭の中がぐるぐるしたり――そんな経験に心当たりがある方もいるのではないでしょうか。
哲学者アラン・ド・ボトンは著書『ステータスの不安』の中で、地位不安の根本原因は「愛されないこと」にあると論じました。
今回の研究チームは、まさにこの洞察を科学的に検証しようとしたのです。
これまでの研究で、愛着不安が強い人は物質的な価値観が高い傾向にあることは知られていました。
しかし、なぜ愛着不安が地位への執着につながるのか、そのメカニズムまでは十分に解明されていませんでした。
そこで研究チームは、「恋のライバルへの対抗心」という、これまで見落とされてきた中継地点に注目したのです。
恋の不安を思い出させるだけで、フェラーリが欲しくなる
フェラーリが欲しくなる瞬間とは?

研究チームはまず、英国・南アフリカ・カナダでの大規模調査で基本的な関連を確認したうえで、因果関係を確かめるための実験に進みました。
米国の382人を2グループに分け、一方には「自分が十分に愛されなかった関係」を、もう一方には「自分が相手と距離を置きたかった関係」を思い出してもらいます。
そしてフェラーリ、ランボルギーニ、ロールスロイスからトヨタ、キアまで10ブランドの車について、「どれくらい所有したいか」を0〜100点で答えてもらいました。
注目すべきは、2つのグループの間に現れた差のパターンです。
「愛されなかった記憶」を呼び起こされたグループは、フェラーリやロールスロイスのような高ステータスブランドをより強く欲しがりました。
ところが、トヨタやキアのような日常的なブランドでは差が出なかったのです。
つまり彼らが欲しくなったのは「車」ではありません。「自分の格を周囲に見せつけられる車」です。
しかし、これだけではまだ、同性間競争という中継地点そのものを実験的に操作したわけではありません。
問題は、不安と高級志向をつなぐ「回路」の正体です。
恋のライバルという「スイッチ」
研究チームが見出した回路、それが同性間競争でした。合コンで気になる相手がいて、隣にもその人を狙っている同性がいたら「負けたくない」と感じる――あの感覚です。
これを強く裏づけたのが、1,358人を対象にした最後の実験でした。
参加者をまず、愛着不安を思い出す群と、見知らぬ人との嫌な経験を思い出す対照群に分け、続いてあるシナリオを想像してもらいます。
「ずっと独身だったが理想の相手を見つけた。しかしその人を狙っている同性のライバルが3人もいる」。これが競争強化群です。一方で「ライバルは誰もいない」と告げる競争低減群も設けました。
そのうえで、あらかじめステータスの高低が検証済みの住宅写真6枚を見せ、「この家をどれくらい欲しいか」「この家のオーナーをどれくらいうらやましいか」を100点満点で答えてもらいました。
同性間の競争を操作しないベースライン条件では、恋愛不安を刺激された人だけが高級住宅を強く欲しがりました。
しかし同性間競争を強化すると、どちらの愛着条件でも高級住宅への評価が高まり、愛着不安による差は見えなくなりました。
逆に競争を低減すると、愛着不安の効果もまた消えたのです。
しかも普通の住宅では、どの条件でもまったく差が出ませんでした。
つまり同性のライバルへの対抗心こそが、愛着不安と高級志向をつなぐ本当の回路であることが、この実験で裏づけられたのです。

