大ケガをきっかけに、騎手としての価値観が大きく変わったという戸崎圭太。かつては「勝たなければならない」と結果に縛られていたが、復帰後は「馬と親友になること」を何よりも大切にするようになったという。その変化はなぜ起き、どんな結果をもたらしたのか。新著『やり抜く力』に込めた思いとともに、“技術ではなく人間関係でここまで来た”と語るトップジョッキーの本音に迫った。
勝ち負けよりも「馬と親友になることを選んだ」
――2019年に大きな怪我をされて、そこから復帰された後は、騎手としてモデルチェンジをされたというお話がありました。その中で、「勝ち負けよりも馬と親友になることを選んだ」という言葉が、すごく印象的でした。
はい。怪我をしてからどうもうまく乗れない感覚があったんです。馬とのコンタクトを取る中で、それまでとは全然感覚が違ってしまって。そのときに馬のことをすごく考えたというか、感じなきゃなっていうのをそれまで以上に思ってたんですよね。
そうするうちに、「あれ、こうしたら馬がすごい気持ちよさそうに走ってくれたな」とか、「のびのび走ってくれたな」みたいな経験を積み重ねることができて。それで、とにかく馬を気持ちよく、のびのびと走らせたら結果につながるんじゃないかっていう感覚になったんです。
――それまでは違ったのですか。
今まではリーディングを取る、勝ちたい、勝たなきゃいけない…と、もう勝ちばかり意識していました。でも、それを変えたことで自分もすごく気持ちよく乗れるし、結果にもつながっていって。「あれ、これいいことばかりじゃん」っていう感じで、そっちにシフトしたところはありましたね。
――それはやはり、ご経験を重ねられたことも大きいですか。
経験もありますが、それでもあの怪我がなかったら、そこは感じられなかったかもしれないです。より繊細に感じたいな、アプローチしたいなと思ったから、そういうふうになったんじゃないかなと思います。
――以前は勝てないと不安になったり焦ったりすることもあったのですか。
そうですね、ありました。そういう気持ちが怪我につながることもあると思うんです。今はなんか(不安が)あっても、我に返ってすぐ持ち直す作業ができているかなと思います。
自身が思う、騎手としての最大の武器は?
――ところで、ご自身のジョッキーとしての最大の武器は何だと思われますか。
まあ人に好かれることが多いかなと思います。
――それが一番最初にきますか。
はい。僕は技術でここまできてるんじゃなくて、コミュニケーションというか、人間関係でここまで来てると思ってるので。周りもそういうふうに思っているんじゃないですかね。
――それはかなりご謙遜も入っていると思いますが、「技術」「メンタル」「人間関係」で人間関係が一番だとすると、次は何がきますか?
メンタルですかね。なかなかへこたれないっていう面はあると思います。で、さっきからお話しているとおり、技術は最後です。ほんとにこうたくさんの人に支えられて、助けられて、ここまでこられたなっていうのはあります。
――書籍のタイトルにもなっている「やり抜く力」という言葉に込めた思いを教えてください。
この本を書くにあたって自分を振り返ってみて、いくつかタイトルを出していただいた中で、「これだ」ってぱっと決まったんです。ずっとジョッキーとしてリーディングを取りたいって思ってから、何があってもやり抜いてきたなっていうのが自分の中にあって。だから本のタイトルにもぴったりかな、と。
――それはやはりメンタルが強いということでしょうか。ご自身を天才ではない、努力の人だと思われますか。
天才ではないですから、そういう意味では努力の人なんですかね。ただ、僕の中に「努力」って言葉はなくて。努力というか、なんか当たり前のことだと思ってるんですよね。
つらいことでもきついことでも、ジョッキーでうまくなりたい、リーディング取りたいってなれば当たり前のことだと思っていて。それが努力とはまったく思わないです。やりたいことをやっていればそうは思わないというか。

