
全世界で3億ドル超えの興行収入を記録した大ヒット映画「プラダを着た悪魔」(2006年)から20年。続編となる映画「プラダを着た悪魔2」が、5月1日に日米同時公開された。同作は、アン・ハサウェイ演じるアシスタントの“アンディ”ことアンドレア・サックスが有名ファッション誌を仕切る“悪魔”のような編集長ミランダ・プリーストリー(メリル・ストリープ)の下で奮闘する姿を描いた映画の第2弾。かつてジャズ雑誌で編集長の経験があり、舞台であるアメリカ・ニューヨークにもひとかたならぬ思い入れを持つ音楽ジャーナリスト・原田和典氏が同作を鑑賞し、独自の視点でレビューを送る。(以下、ネタバレを含みます)
■メリル・ストリープ&アン・ハサウェイが再タッグ
物語の中心となるのは前作に引き続き、ストリープ扮(ふん)するミランダと、ハサウェイ扮するアンディの、何ともスリリングで味わい深いコンビネーション。ミランダは有名ファッション雑誌「ランウェイ」の編集長を続けているのだが、20年という時の流れは、この世の中をすっかりデジタル優勢にした。
雑誌に限らず、紙媒体そのものにさまざまな試練を与えてきた。休刊・廃刊も少なくない中、それでも「ランウェイ」は以前のような規模ではないにせよ、しっかり生き残り、進行形のファッションを雑誌で伝えようと奮闘している。その現場に、ふと戻ってきたのがアンディだ。
かつての彼女は、青臭いまでに真っすぐだった。ニューヨーク・マンハッタンのド真ん中に編集部を置く「ランウェイ」でミランダの第二アシスタントに選ばれたことは、ジャーナリストになるために地方都市から出てきた彼女にとっては十分にうれしい出来事であったはずだが、なにしろミランダは業界内で恐れられているカリスマ的存在。尊大で人使いが荒く言葉もきつい。
「これは仕事ではないよなあ。身の回りのことは自分でやったら?」とスクリーン越しにツッコみたくなるようなことも平気で命じる。だがどうにか、この悪魔であり鬼であるベテランの下で、アンディは持ちこたえ、どんどん成長していった。ミランダの胸中は「私には最初っからアンディの伸びしろが見えていたのよ」といったところか。
だが、アンディが志していたのは、あくまでもジャーナリストだった。「ランウェイ」を離れた彼女は報道記者となり、第一線で活躍。一刻が争われる報道現場における上司の横暴ぶりはミランダの比ではなかったのではと思われるが、とあるきっかけから、彼女は特集エディターとして「ランウェイ」に戻ってくる。
■あれから20年…2人にも変化が訪れた
たくましさ、骨太さ、ひるまなさ、まさに20年の歳月すべてを養分にした“ニュー”アンディの登場である。そしてミランダもまた、昔のミランダではない。新たなメディア環境の中で、どう「ランウェイ」を輝かせていくかという課題にも取り組んでいる。とはいえ、20年の流れは、良くも悪くも彼女を円熟・安定させた。
その点、往年のミランダの年齢に近づいてきたであろうアンディの存在は実に頼もしく感じられたに違いない。この年齢がどれだけイマジネーションの湧く、パワフルに動ける時期なのか、経験上ミランダは知っているはずだからだ。
20年前とは打って変わって“対等感”、“バディ感”を増した2人は、エミリー(エミリー・ブラント)のもとを訪ねる。かつてアンディがミランダの第二アシスタントを務めていた頃の第一アシスタントだった彼女も、今では独立してラグジュアリーブランドの幹部を務めるまでに。
「ランウェイ」の存続を左右するほどの影響力を持つに至った彼女と、元・鬼上司であるミランダのやりとりは、一見おだやか、だが発言の節々に刃がギラリと光るものに。アンディに関しては、エミリーの意識の中では、いまだに“自分より格下の新入りアシスタント”なのだろう。エミリー、アンディ、ミランダ、誰の立場に自分の心を投影して鑑賞するかによって、いろんな味わい方ができそうなシーンといえる。
ほか、個人的にはナイジェル(スタンリー・トゥッチ)が引き続きムードメーカー的な存在感を発揮しているのもうれしかった。かつて、ミランダとの接し方に戸惑うアンディを大いに手助けした優しさは健在だ。

■音楽好きもうなる1作に
原作者のローレン・ワイズバーガー氏は、アメリカ版「VOGUE」のカリスマ編集長であるアナ・ウィンター氏のアシスタント経験を持つ人物。デヴィッド・フランケル監督、脚本のアライン・ブロッシュ・マッケンナ氏も続投だ。適度にどんでん返しが来るストーリー展開とともに、着こなしに目を見張らせるという点でも観客を満足させてくれる。
前回はロングブーツ、シャネル風スカートなどが話題となって“映画におけるファッションの見せ方を革新した”と評されたが、今回はどのコスチュームがセンセーションを集めるのか、早くも楽しみになってくる。
また、音楽好きの皆さんに力を込めて伝えたいのは、サウンドトラックの充実ぶりだ。ジョン・パティトゥッチ(チック・コリアのバンドで名を高めたベース奏者)、テッド・ナッシュ(ウィントン・マルサリスのオーケストラで活動したサックス奏者)などニューヨーク・ジャズの第一線に立つ面々を含むバンドによる劇中音楽はもちろん、画面を一層華やかにするレディー・ガガのパフォーマンス、レデシーやデュア・リパなどの楽曲採用と、前作を飾っていたKTタンストール、U2、マドンナの楽曲に勝るとも劣らない。
ほか、日常の効果音にも「おっ!」と心の中で声を上げてしまうほど鮮明なところがあり、つまりこれは劇場で音を浴びるに限るのだ。前作「プラダを着た悪魔」(ディズニープラスで配信中)を先に見ておかなければ話の展開についていけないのでは?と思う読者もいらっしゃるかもしれないが、どちらにしても最終的に両方見たくなるだろうから、まずは“とれたて新鮮”な「プラダを着た悪魔2」を大画面で見てから、遡ってみると面白そうだ。
「第3弾でまたみんなに会いたい!」という声はもうすでに各地で高まっているが、とにかく今度は20年も待たせないでほしい。こういう悪魔ならいつでも大歓迎だ。
◆文=原田和典

