
インタビューに応じるジェンコの中尾幸彦氏
【画像12枚】え、ホントに新作? 『おねティ』新OVAと旧シリーズの「画」を見比べる
リメイクではなく「追加」 その意図
20年以上前のアニメ作品が、続編でもリメイクでもなく、「追加エピソードの新作OVA」というカタチでまもなく復活します。
リメイクが相次ぐ近年のアニメ作品においては、スタッフを一新し、キャラクターも今風に刷新して新規ファンを取り込む、といった手法が主流になるなか、アニメ『おねがい☆ティーチャー』(以下『おねティ』)の新作OVAは、まったく逆の方針で作られました。
その企図するところはどのようなものなのでしょうか。制作プロデューサー兼監督を務めるジェンコの中尾幸彦氏に話を聞きました。
「変えない」という選択
「昔のファンが変わらず愛してくれている作品を、そのまま届けたい」
中尾氏は、これが今回の『おねティ』新作OVAの出発点だといいます。旧シリーズを長く愛してきた既存のファンに向けた作品であり、新作リメイクアニメの多くが若い世代への訴求を意識して作られるなか、その方向性をあえて取らなかったのだとか。
きっかけは、2024年に放送20周年のイベント開催に向け実施されたクラウドファンディングで、1400万円もの支援が集まり、イベントも大きな盛り上がりを見せたことといいます。そこで改めて根強いファンの存在が浮き彫りになったからこそ、その人たちにもう一度『おねがい☆ティーチャー』を思い出してもらうことを優先しました。
OVAという形式もそうした思いの延長線上にあり、すなわち物理メディアでパッケージを手にとってほしいという意図だそうです。かつてDVDやビデオを買い揃えた世代のコレクター文化に、素直に寄り添った形といえるでしょう。中尾氏は「ファンに向けた、新しいコレクションアイテムを1個追加するようなイメージ」と表現しており、このひと言に今回の制作姿勢が凝縮されているといえそうです。

本編キーパーソンのひとり「森野苺」。画像はキャラクター原案の羽音たらく氏による、新作OVA描きおろしジャケットイラスト (C)Please!/バンダイビジュアル
続きではなく、隙間を埋める
新作OVAは、AパートとBパートそれぞれに1エピソードずつという構成になります。いずれも旧シリーズ本編の時系列に収まるエピソードです。
Aパートは「エピソード0」とでもいうべき、「森野苺」と「縁川小石」の出会いの経緯が描かれます。旧シリーズ本編では、ふたりはすでに知り合った状態から物語が始まりました。「あれだけミステリアスな苺が、なぜ小石とあんなに仲良くなれたのか」というファンが長年、抱いてきた疑問に、正面から向き合う内容になっています。
Bパートは、TVシリーズ第4話と第5話のあいだ、「第4.5話」的な位置づけで、「草薙桂」と「風見みずほ」の新婚旅行前夜を描きます。
「旧シリーズを見ていたら、『あ、1話の前の話だな』とか、『この話とこの話の間の話だな』というのが分かるようになっています」
後日談でも続きでもなく、旧シリーズをしっかり観ていた人にこそ刺さる内容といえるでしょう。「勝手に話の続きを作るのは違う」という判断もあり、こうした形になったといいます。

お話の内容はもちろん、絵作りも徹底して旧シリーズを踏襲しているという。画像は主人公の草薙桂(右)と風見みずほ (C)Please!/バンダイビジュアル
旧スタッフ結集と“同窓会”アフレコ
制作方針と同様、スタッフの顔ぶれもなるべく「変えない」スタンスが貫かれました。背景美術は草薙社、撮影・編集は田中恒嗣氏、演出は旧シリーズにて各話演出を担当した八谷賢一氏と、旧シリーズゆかりのスタッフが参加します。
声についても、井上喜久子さん(風見みずほ役)、保志総一朗さん(草薙桂役)、田村ゆかりさん(森野苺役)、川澄綾子さん(縁川小石役)ら主要キャスト4人全員そろっての掛け合い収録を優先しました。アニメの音声収録はコロナ禍以降、数人ずつに分けて行うスタイルが定着してきていますが、「当時のテンポ感そのままにいきたい」という実利的な判断もあったそうです。
ところが全員のスケジュールが合う日を探したところ、3か月待つことがわかったといいます。それでも、まずは4人で同じ空間に集まって掛け合いで録るという方針は変えませんでした。
そうして迎えた収録当日は井上さんの喉の調子が優れず、掛け合いでの収録を終えたのち井上さんのパートだけもう一度録り直すという、二段階の収録になったそうです。そのような手間をかけても「可能な限り旧シリーズのままのスタイルで」という方針を貫いた、というわけでしょう。
「昔の線」を現代デジタルで再現…?
こうした方針は、画作りにも徹底されました。
「最近のアニメって、デジタルになってから各パーツなどの描き込みがどんどん増えたので、トレス線がすごく細いんですよね。なので昔のキャラクター設定画のままだと淡泊に感じてしまうんです」と中尾氏はいいます。デジタル作画は線が均一かつ細くなりやすく、情報量の多い繊細な映像が生まれる一方で、どうしても今風の印象になってしまいがちなのだとか。今回はそこに手を加え、輪郭線を太めに処理することで、かつての手描きアニメが持っていた「線の重み」を取り戻したといいます。
キャラクターデザインも、合田浩章氏による旧シリーズの設定画をそのまま採用しました。
「いわゆるリメイクであれば、昔のキャラクターデザイン設定画を誰かにリライトしてもらって作るんですが、今回はそれをやっていないんです」
近年のアニメ制作では、キャラクターの正面、横、斜め、表情のバリエーションまで何十枚もの設定画を用意するのが主流ですが、『おねティ』制作当時の設定画は1、2枚程度しかありませんでした。角度や表情の細かい指示がないぶん、パートを担当するアニメーターの裁量が大きくなります。それが難しさでもあり、同時に「味」を生む要因にもなっていた、と中尾氏は振り返ります。
とはいえ画面の縦横比は、今どきのTVモニタにあわせ16:9になりました。その違いが顕著に見て取れるのは、オープニングとエンディングでしょう。kotokoさんによる楽曲はそのまま、内容としても旧シリーズと変わらないものの、映像は旧シリーズのものをリフレーミングして再撮しているのだそうです。かけるべき手間が、かけるべきところに、惜しみなくかけられました。
※ ※ ※
中尾氏は、『おねがい☆ティーチャー』と世界観を共有するアニメ『おねがい☆ツインズ』についても「サイドストーリーを作ってもいいのかな、という気もします」と話します。今回の『おねティ』新作OVAは、シリーズを次へつなぐ一手でもあり、そして「変えないこと」への意志が作品を生き続けさせる力にもなっている、といえるでしょう。

『おねがい☆ティーチャー』新作OVAでは監督を務めた中尾氏
中尾幸彦(なかお・ゆきひこ)
スタジオぴえろにて制作進行を務めた後、東映アニメーションで『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』『ドラゴンボール超』『美少女戦士セーラームーンCrystal』など多数の作品の演出を手掛ける。ジェンコ移籍後はプロデューサーとして『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』『放課後さいころ倶楽部』などの企画に携わり、『おねがい☆ティーチャー』新作OVAでは監督を務めた。
