
マンUがCL出場権を確保。輝きを取り戻したメイヌー。キャリックは、選手たちが迷わず走り、戦い、勝ち切れるだけの土台を作った【現地発】
コビー・メイヌーの右足が、マンチェスター・ユナイテッドのシーズンにひとつの答えを出した。
5月3日、オールド・トラフォードで行なわれたリバプール戦。ユナイテッドは3-2で競り勝ち、来季のチャンピオンズリーグ出場権を確保できる5位以内を確定させた。
昨季はリーグ戦で15位に沈み、今季も序盤に14位付近でもがいていたチームが、3年ぶりに欧州最高峰の舞台へ戻ることになった。しかもその決勝点を決めたのが、一時はクラブでの将来すら危ぶまれていた生え抜きのメイヌーだった。
試合は、ユナイテッドにとって理想的な展開で始まった。リバプールの悪癖である「立ち上がりの悪さ」を突き、序盤に2点を先行する。マテウス・クーニャが先制点を奪い、さらにベンヤミン・シェシュコが追加点を挙げる。前半のユナイテッドは、前からの圧力と中盤の切り替えでリバプールのリズムを断ち、試合を自分たちのものにしていた。
ただし、今のユナイテッドはまだ完成されたチームではない。後半、その不安定さも顔を出した。アマド・ディアロのパスミスからドミニク・ソボスライに1点を返されると、今度はGKセンヌ・ラメンスからのビルドアップのミスでコディ・ガクポに同点弾を許した。2点のリードは、あっという間に消えた。
だが、そこで終わらなかったことに、今のユナイテッドの変化がある。77分、左からのクロスの流れで生まれたこぼれ球を、メイヌーが豪快に蹴り込んだ。2024年以来となるリーグ戦でのゴールは、リバプール戦の決勝弾となり、チャンピオンズリーグ復帰を決める一撃にもなった。
この場面だけを切り取れば、若手の劇的な勝負強さという話で終わる。だが、メイヌーの今季を振り返れば、意味はもっと深いだろう。
昨夏、メイヌーはイタリアのナポリへのレンタル移籍を自ら希望したと報じられていた。出場機会を求めての判断だったが、クラブはそれを認めなかった。しかし残留後も、ルベン・アモリム体制で状況が好転したわけではない。リーグ戦での先発は長く与えられず、冬には将来について難しい話し合いが必要になっていた。イングランド代表としてEURO2024決勝のスペイン戦に先発したメイヌーが、クラブでは居場所を探す立場になっていたのである。
流れを変えたのが、1月に暫定監督として就任したマイケル・キャリックだった。
キャリックは、メイヌーを中盤の中心へ戻した。ブルーノ・フェルナンデスを本来のポジションであるトップ下に。チーム全体のバランスも整えた。難しいことをいくつも詰め込んだわけではない。守備ではブロックを作り、奪ったら短い距離で一気に前へ出る。ショートカウンターを軸にした、かなりシンプルな設計だった。
しかし、そのシンプルさが効いた。迷いが消えれば、選手は早く動ける。早く動ければ、寄せも強くなる。ユナイテッドの伝統であるハードワークの精神もプレーの中に戻った。
メイヌーは、その変化を最もはっきり示した選手だ。アモリムのもとでは、どこでどう使われるべきかが曖昧に見えた。6番なのか、8番なのか。守備的に構えるのか、前へ運ぶのか。だがキャリックのもとでは、まず中盤で立ち位置を守り、必要な時に前へ出る役割が与えられた。
リバプール戦の決勝点も、まさにその延長にあった。守備的MFとして構えながら、機を見てボックス付近に顔を出し、最後の局面に関わった。
解説者たちも、メイヌーの変化を評価している。元マンチェスター・シティのミカ・リチャーズは、アモリム前監督が信頼を与えなかった一方で、「キャリックがメイヌーに自信を与えた」と指摘した。
現役時代にリバプールやチェルシーでプレーしたダニエル・スタリッジは、アモリムはメイヌーにとって「悪夢」だったが、キャリックは「夢」のような存在だと表現する。元ミッドフィルダーであるキャリックが、同じポジションの若手に道筋と役割を示せたことは大きい。
一方で、ロイ・キーンの見方は少し違った。苦しんだ数か月も、メイヌーにとっては「悪い経験ではなかった」という。若い選手は、試合に出て称賛される時間だけで成長するわけではない。外から試合やチームを見て、自分の立場を考える時間も必要になる、という見方だ。当のメイヌーはその期間を経て、今週、新たに5年契約を結び、リバプール戦で結果を出した。
試合後の本人の言葉も印象的だった。
キャリックについて「監督についていきたいし、戦いたい」と語ったメイヌーは、自分だけでなく選手全体が自信を与えられていると明かした。これは監督賛美というより、チーム内の雰囲気を示す言葉として捉えるべきだろう。
もちろん、キャリック体制を手放しで称賛するにはまだ早い。
たとえばリバプール戦の2失点は、どちらもユナイテッドのミスから生まれた。ディアロはアフリカ・ネーションズカップから戻って以降、本来の鋭さを取り戻していない。GKラメンスから始まったビルドアップのミスも、後方からつなぐプレーに課題を残した。
それでも、キャリック体制での「14戦10勝」という数字は評価されるべきだ。しかもその中にはシティやアーセナル、チェルシー、リバプール戦での勝利が含まれている。昨季は15位。今季も、序盤は6節終了時点で1勝1分け3敗の14位。そこから3位争いに加わるところまで戻したのだから、キャリックとコーチ陣の仕事は評価されて当然だ。
だからこそ、クラブがキャリックを正式監督に昇格させるのは自然な流れに見える。ファンは結果を見ている。選手も信頼を口にしている。少なくとも今、別の監督を探すことは大きな賭けになるだろう。
ただし、ここから先に別の問いが待っているはずだ。立て直すことに成功したが、プレミアリーグやヨーロッパ最高峰の舞台で勝ち抜くことは、それとはまた別の話である。
たとえばルイス・エンリケ監督が率いるパリ・サンジェルマンのような完成度の高い相手に対し、現時点で正面から太刀打ちできる姿は想像できない。そこでは、守備ブロックとショートカウンターだけでなく、ボールを持った際の支配力や試合中の修正力など、複数の戦術が必要になるはずだ。
それでも、ユナイテッドは前に進んでいる。メイヌーの決勝弾は、ひとりの若手の復活であると同時に、チームが再び自信を取り戻しつつあることを示すものだった。キャリックは、選手たちが迷わず走り、戦い、勝ち切れるだけの土台を作った。
その土台の上に、どれほど大きな絵を描けるのか。キャリックの残留が決まるなら、来季のチャンピオンズリーグは、その答えを確かめる舞台になるはずだ。
取材・文●田嶋コウスケ
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