ホワイトソックスの村上宗隆が黒い毛糸の帽子をかぶって、本拠地レイト・フィールドに姿を現すのは試合開始数時間前のことだ。
チーム全体でのウォーミングアップ、キャッチボールが終わると、他の内野手とともに内野に散らばって、守備練習を行うのが日常となっている。
正面のゴロをさばいて、仮想一塁カバーの投手へのトス。逆シングルから、もしくは一塁線のゴロを捕ってクルリと身体を反転させての二塁送球。いわゆる「3-6-3」のダブルプレーといった具合に粛々とこなしていく。
最後に前進ダッシュから三塁への送球で締めくくると、彼はチーム期待の24歳コンビのコルソン・モンゴメリー遊撃手とチェイス・メイドロス二塁手、そしてキャッチボール相手で仲の良いミゲル・バルガス三塁手らとハイタッチして、日毎のルーティンのほんの一部を終了する。
「自分がやるべきことを、しっかりときちんとやってるだけですね」
村上が言葉少なにそう語ったのは、4月24日のナショナルズ戦で、メジャー最多タイ(当時)の11号本塁打で、チームの勝利に貢献した夜のことである。
アスレティックスとダイヤモンドバックスとの敵地での6連戦で、5試合連続本塁打を含む、27打数12安打(打率.444)、4四球・10打点・7得点でOPS.1.516と活躍した直後だ。1万7千人あまりの少ない観客ながら、打席に登場する度に大歓声を受けた主砲は試合後、自身の本塁打よりチームの勝利を喜んでいた。
「まあ、常に楽しいんですけど、こうやって勝ちきれるチームになるのがとても大切ですし、その中で少しでも貢献したいなと思う」
会見ではアメリカのメディアから、直近7試合で6本塁打を打ってるが日本でもそういうことはあったのか? という質問が飛んだ。日本での8年間で、シーズン最多で56本塁打も打ったスラッガーへの、あまりにも勉強不足な質問だったが、苛立つような素振りもなく、村上はこう言って苦笑いするだけだった。
「…一応、5打席連続で(本塁打を)打ったことはあるんで…」 なんでもないひとコマのようだが、彼は今、そういう状況の中でプレーしている。つまり、日本での実績はメジャーリーグ(MLB)ではあまり勘定に入ってない。
東京ヤクルトスワローズにおける8年間で通算246本塁打、647打点。セ・リーグの首位打者を1回、本塁打王を3回、打点王を2回も獲得したことや、2021年から2年連続リーグMVPを受賞したこと。22年に日本人及びアジア人打者のシーズン最多記録となる56本塁打、NPB史上最年少(22歳)で三冠王を獲得したことなどは、英訳文字では認識していても、MLB的な「上から目線」の中では何一つ理解されていない。
村上もそれを分かっているからこそ、嫌な顔一つ見せず、メディアの取材に応じているのだろう。昨季、ナ・リーグ最多本塁打と同打点の二冠王に輝いたカイル・シュワバー(フィリーズ)やアーロン・ジャッジ(ヤンキース)や、ヨーダン・アルバレス(アストロズ)といった強打者と比較されるなど、MLBで最も取材される打者となった証である。
「まだ始まったばかり。終わった時に何とかいい成績を残せていればなと思います」
慣れない一塁守備や空振りの多い打撃に対する懸念はどこへやら。日毎の練習の成果もあって、一塁守備は無難にこなしている(28試合でわずか1失策!)し、空振りの多さも、時には1.000を超えるOPSに埋もれている。
とりわけ守備に関しては、余裕のない内野手の粗い送球がショートバウンドになろうが、上に逸れようが、上手くミットに収めて、日増しに信頼度を高めている。それは偶然でもなんでもなく、冒頭に書いたような日進月歩の努力の成果なのだ。
「毎日、自分のやるべきことをやるのが僕の課題でありますし、結果として打つことはもちろん大事ですけど、その前の準備段階とか、自分のやるべきことはしっかりやろうと心がけしている。もちろん、課題が出て、自分で感じることがあって、それを潰していくってことが大事だと思ってる。まだまだシーズンは長いし、初めてのいろんな投手と経験するので、自分のアンテナを張って成長していければなと思います」 日本プロ野球のベテランでありながら、メジャーリーグの新人でもある不可思議な立場。今まで渡米した日本の選手たちが経験してきたことを、彼もまた、経験してるわけだ。
たとえば、クリス・ゲッツGMはこう話している。
「打線の一員として、あるいは打者として成功を収めている姿……まさに今、ムネが示しているような活躍ぶりを目の当たりにした時、人は自然と「なぜ成功しているのか」という点に注目し、それを心に留めるものです。もちろん、誰もがムネのようなパワーを持っているわけではありません。しかし、その「忍耐強さ」……つまり、ストライクゾーンから外れた球や自分が痛打を浴びせられないような球をあえて見送る能力こそ、我々が日頃から、強く重視している要素なのです」
3年連続100敗以上という屈辱的なシーズンを過ごしてきたホワイトソックスに日本のスラッガーが加入し、結果を出すことのみで起こる良質な「化学反応」かもしれない。
「そうした理想的な姿勢を日常的に体現している選手がいれば、その振る舞いは周囲のチームメイトにも確実に良い影響を及ぼすのです。これほど短期間で、いとも簡単にそれを実践できているのは、まさに彼の『DNA』に組み込まれた資質ゆえでしょう。確かに、彼には天賦の才が備わっていると感じます。彼は生まれ持った『エンジン』――つまり、天性のパワーというギフトを授かっていますが、それに加えて、最高峰と呼ぶにふさわしい『勤勉な姿勢』が組み合わさっているのです」
「単に周囲の動きに気を配るだけでなく、フィールド上でのプレー――守備や走塁、さらには相手投手が自分をどう攻めてくるかを分析するためのビデオ研究に至るまで、自身の技術やプレーに対する理解を深めることを最優先事項として捉えています。つまり、彼には『勤勉さ』と『技術』という二つの要素が揃っているわけですが、これこそが、この競技において成功を収めるための最高の『レシピ』だと言えるでしょう」
「Work Ethic」=直訳すれば「労働倫理」。今の村上にとっては、とてもフィットする言葉ではないか。そんなGM談を本人にぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。
「(姿勢は)もちろん大事だと思いますけど、才能のある選手が多いので、僕の背中と言うよりは個人個人がしっかり準備して試合に勝つんだという思いでやってるので、良い結果になってると思う」 青木宣親や山田哲人ら、かつては村上自身もチームメイトの背中を見て学んだようで、彼はこう言っている。
「毎日、自分のやるべきことをやるのが僕の課題でありますし、結果として打つことはもちろん、大事ですけど、その前の準備段階とか、自分のやるべきことはしっかりやろうと心がけしているので。そういうのは日本の時からやってましたし、と言っても、いざこっち来てやろうと思ってもできないですし、日本で8年間、いろんなことがあって、いろんな経験をして、いろんな方に教えてもらった中で自分なりに成長できたのかなと思います」
打球の飛び出し角度が48度という高弾道アーチで話題になった4月27日の12号本塁打は、4対5の8回に飛び出した逆転3ラン本塁打だった。
三振が多いのは想定内。いいように言えば、それは彼が決して「当てに行かず」、自分の打撃を貫いている証である。たとえば同じエンジェルス戦では、凡退しても打球初速100マイル超の大飛球がいくつもあった。それらは飛び出し角度さえ低ければ「一体、どこまで飛んでたん?」という外野フライであり、「高い放物線」という意味では12号の伏線になっていたような気がする
「(野球は)10回中7、8回は失敗するスポーツなので、その(アウトの)成り方っていうのは非常に大事になってくると思いますし、そこは大事かなと思います」
今のペースなら年間67本塁打だとか、大谷翔平(ドジャース)を超える好成績だとか。我々メディアの「空騒ぎ」についても、すでに日本で経験済み。一笑に付すのみだ。
「メディアの方が盛り上げてくれるのはありがたいですけど、僕は地に足着けて、やるべきことをしっかりコツコツとやっていきたいです」
シカゴよ、そして、アメリカよ。村上宗隆はまだまだこんなもんじゃないぜ。
日本でそう思ってるファンの人は決して少なくないだろう――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO【画像】大谷真美子さんら世界の美女がずらり! 常勝軍団ドジャースの名手たちを支える“ゴージャスでセレブな妻&パートナー”を一挙紹介!

