
【今さら聞けないサッカー用語:リトリート】組織的な守備へ移行するための重要なプロセス。「切り替え」の一部として重視されている
聞いたことはある、何となく意味も分かる。でも、詳しくは知らない。そんなサッカー用語を解説。第35弾は「リトリート」だ。
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ボールを失った際に、自陣へ素早く撤退しながら守備組織を整える戦術的なアクションを指す。英語の「retreat(後退・撤退)」が語源で、日本では「撤退守備」や「守備ブロックを下げる」などの表現に近い意味で使われることが多い。
リトリートは単純に“引いて守る”ことではない。相手の攻撃を遅らせながら、自チームの守備陣形を素早く回復させる点にある。つまり、ボールを失った瞬間に無秩序に追いかけ回すのではなく、危険なスペースを消しながら、組織的な守備へ移行するための重要なプロセスなのだ。
世間的には、ボールを失った直後に前線から激しく奪い返しに行く「ハイプレス」や「即時奪回」が注目されやすい。しかし、常に前から奪い切れるわけではない。相手がプレス回避に優れていたり、自チームの陣形が崩れていたりする状況で無理にボールへ突撃すると、背後に大きなスペースが生まれ、一気にカウンターを受ける危険性が高まる。そこで必要になるのがリトリートだ。
たとえば、攻撃時にサイドバックが高い位置を取っていた場合、ボールロスト直後に即時奪回に失敗すると、サイドの背後に広大なスペースが生まれる。その際、サイドバックやボランチ、ウイングの選手が素早く自陣へ戻り、相手の前進を遅らせながら守備ブロックを形成できれば、相手は簡単に中央へ侵入できなくなる。
逆にリトリートが遅れると、守備の人数不足や立ち位置のズレが発生し、数的優位を作られて決定機へ直結する。
そのため、現代サッカーでは「切り替え」の一部としてリトリートが極めて重視されている。攻守のトランジションの局面では、単に戻る速さだけでなく、誰が中央を閉じるのか、誰がボール保持者へ寄せるのか、どこまで下がってラインを設定するのか、そういった役割分担が重要になる。優れたチームほど、ボールを失った瞬間の判断基準が整理されており、選手たちは迷わず同じ方向へ動けるのだ。
リトリートは守備的なチームだけの戦術ではない。むしろ、攻撃的なチームほど質の高いリトリートが求められる。前掛かりに攻める時間が長いチームは、ボールを失った瞬間に広大なスペースを背負うため、撤退のスピードと整理能力が失点リスクを大きく左右するからだ。
近年はハイラインを採用するチームが増えているが、その背景には「前から奪う力」だけでなく、「奪えなかった時に素早く戻れる力」も含まれている。
優れたリトリートは、単なる防御で終わらない。守備ブロックを整えたうえで相手のパスコースを限定し、サイドへ追い込み、狙った場所でボールを奪い返すことで、次のカウンター攻撃へ繋げられる。つまり、リトリートとは受け身の撤退ではなく、守備を再構築しながら、次に奪う準備をするためのベースでもある。
現在はトランジションからの攻撃戦術の高度化によって、一度、守備バランスを崩すだけで致命的なピンチに繋がる。そのなかで、ボールを失った瞬間にチーム全体がどれだけ素早く、整理された形でリトリートできるかは、チームの成熟度を測る大きな指標となっている。
派手なプレーではないが、リトリートは失点を防ぎ、試合の安定感を支える現代サッカーに欠かせない共通ワードの1つだ。
文●河治良幸
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