西部劇に象られた神話のカウボーイ像と、リアルなワーカーの声から生まれたディテール。ヒップポケットやスレッドリベットに込められた工夫は、100年の歴史を経ても色あせない。単なる作業着を超え、アメリカ文化の象徴として私たちの心を捉え続ける「リー」について「エドウイン」クリエイティブディレクター・細川秀和さんに伺う。

本物と憧れの狭間で魅力を育てる。
カウボーイが穿いたデニムは数多く存在する。だが、カウボーイのために生み出されたデニムとなれば話は別だ。「リー」は、数あるアメリカのデニムのなかでも、とりわけ西部との結びつきを色濃く宿す存在である。
その象徴が1925年に誕生したモデル「101」。以来100年にわたり、カウボーイやロデオライダーと共に歩み続けてきた。「リー」の歴史は、単なる作業着の系譜にとどまらず、アメリカ文化そのものと交差し、民衆の心に刻まれてきたのである。ブランドの歩みについて、クリエイティブ・ディレクターを務める細川秀和さんに伺った。
「まず、カウボーイの本来の定義についてお話しします。もともとカウボーイというのは南北戦争後、1800年代終わりのゴールドラッシュ期に入植してきた人たちが、野生のテキサスロングホーンという角の長い牛を捕まえて鉄道駅まで運ぶ。いわゆるロングドライブをしていた人々のことを指します。現代の一般的なカウボーイ像は西部劇に出てくる格好いい存在を思い浮かべますが、実際は自然の中で何日も暮らし、風呂にも入らず、下着すらつけていないような非衛生的な人たちでした。当時は全盛期で10万人ほどの人口がいたそうですが、鉄道の発達によってその職業は衰退し、『リー』の[101]が生まれる1925年には本来の意味でのカウボーイはすでにいません。
彼らは牧場で牛を飼育する“ストックマン”という職業へと移り変わっていったのです。1920年頃、数万人規模のカウボーイやストックマンを相手にデニムを売るのは、冷静に考えれば難しい商売です。それでも『リー』とカウボーイの結びつきが強く語られるのは、当時のアメリカの潮流に理由があります。映画などの娯楽や流行の中心にあったのが西部劇であり、本来のカウボーイではなく、神格化されたヒーローのような姿が描かれることで、憧れの象徴として広まっていった。そうした世間のカウボーイ像を利用したマーケティングによって成功したのが『リー』なのです」
ロデオボーイやストックマンといったリアルなワーカーたちに、馬に乗る際のデニムの問題点を聞き取りながら生まれたものが[COWBOY PANTS]。当時の憧れであった“映画の中のカウボーイのためのデニム”という打ち出し方がマーケティングとして大きな成功につながった。
「本物のロデオマンやストックマンから話を聞くなかで、ディテールはどんどん本物志向へと変わっていきました。例えば、ヒップポケットの金属製のリベットは、馬に乗ったとき鞍を傷つけるためX型のスレッドリベットと呼ばれるクロスステッチに変更。ヒップポケットの位置も鞍に座ることを想定し、外側に大きくずらされるなど、リアルな仕様へと進化していったんです。こうした積み重ねがあったからこそ、西部劇に憧れた人々が『リー』を選ぶようになったのです。

こう聞くと“実際には本物のカウボーイが使っていたわけではないのか”と残念に思う方もいるかもしれません。しかし私はむしろ巧妙で斬新だと感じますし、『リー』の懐の深さを強く感じます。当時デニムを穿いていた主要な職業は鉄道従事者やストックマンであり、そこまでの機能は必須ではなかったかもしれません。ですが『リー』はあえて機能を削らず、魅力として打ち出した。その結果、人々は“映画で観た憧れのカウボーイのためのデニム”として購入していったのです。
重要なのは、ただ売れたことではなく、リアルさを追求した先に人々から求められたという点なのです。『リー』とカウボーイの関係性とは、実はマーケティングの上手さによって築かれたもの。私たちが先人たちの遺したものに憧れるように、当時の人々も過去に憧れていた。そうした背景を知ると、『リー』のアイテムはより一層面白く見えてきますよね」


歴史を感じる、[101]復刻モデル3選
The Archives RIDERS 101-Z 1948Model

実在したアーカイブ品を完全復刻するライン「The Archives」。1948年に作られたアーカイブを元に、タグや縫製に至るまで忠実に再現した1本となっている。2万8600円
The Archives RIDERS 101-Z 1954Model

1954年のアーカイブを再現したモデル。ウエストの縫い方が現代とは縫製が違う為、内側から見るとベルト部分から落ちている、細川さん曰くその不完全さが魅力なのだそう。2万8600円

The Archives RIDERS 101-Z 1962Model

1962年のアーカイブを復刻したモデル。この年代となると、織機が新しいものに変わり、より幅の広い生地を織れるようになったことから片耳のものが増えてくる。2万8600円
