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メンタルヘルスに強烈な影響を与える「感情体験」とは

メンタルヘルスに強烈な影響を与える「感情体験」とは

※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

言葉を失うほど美しい夕焼けを見たとき。

巨大な山を前にして自分の小ささを感じたとき。

あるいは、荘厳な絵画の力に心打たれ、陶然と立ち尽くすとき。

こうした感情は単なる「感動」や「驚き」ではありません。

自分の理解を超えるほど大きなものに触れたとき、私たちは「畏敬/畏怖(awe)」と呼ばれる複雑な感情を経験します。

この畏敬は、宇宙飛行士が宇宙から地球を見たときに感じる「オーバービュー効果」としても知られています。

しかし、畏敬は宇宙まで行かなければ味わえない特別な感情ではありません。

自然の中を歩くこと、美しい芸術に触れること、音楽に身を委ねることでも、私たちは日常の中で畏敬を感じることがあります。

近年の神経科学や心理学では、この「自分より大きなものに触れる感情体験」が、メンタルヘルスや幸福感に良い影響を与える可能性が注目されています。

では、畏敬とは一体どのような感情で、なぜ心に強い影響を与えるのでしょうか。

目次

  • 「すごい」と「恐い」の境界にある感情
  • なぜ畏敬はメンタルヘルスに影響するのか

「すごい」と「恐い」の境界にある感情

畏敬と聞くと、多くの人は美しい山、壮大な星空、荘厳な音楽のような、ポジティブな体験を思い浮かべるかもしれません。

息をのむほど大きく、美しく、自分の悩みが一瞬小さく感じられるような感覚です。

しかし、畏敬は必ずしも心地よいポジティブな感情だけで成り立っているのではありません。

心理学では、畏敬は「喜び」と「恐怖」の境界にある感情として説明されることがあります。

なぜなら、私たちの体は、深い感動を覚えたときにも、恐怖を感じたときにも、心拍数の変化、鳥肌、ぞくぞくする感覚といった似た反応を示すことがあるからです。

それが「美しい」と感じられるか、「恐ろしい」と感じられるかは、その場面の文脈によって変わります。

たとえば、雄大な滝を安全な場所から眺めるとき、人は自然の大きさに圧倒されながらも、静かな感動を覚えるでしょう。

一方で、雪崩が自分に向かって迫ってくる場面では、同じように自然の巨大さを感じても、そこには恐怖や無力感が強く混ざります。

このように畏敬は、「すごい」と「恐い」が重なり合う場所に生まれる感情です。

また、畏敬が起こる条件として重要なのは、目の前の体験が、私たちの持っている「世界の理解の枠組み(日常レベルの常識)」を超えることです。

人は普段、経験したことを既存の知識に当てはめて理解しています。

たとえば「滝」と聞けば、岩、水、流れ落ちる景色といったイメージを思い浮かべます。

しかし、ヴィクトリアの滝のような圧倒的な轟音、規模、水しぶき、光景を前にすると、普段の「滝」のイメージでは処理しきれなくなります。

そのとき脳は、既存の理解の枠組みに当てはめるだけでは足りず、世界の見方そのものを少し組み替える必要に迫られます。

畏敬とは、心の中の地図が一瞬で広げられるような体験なのです。

この感情が強烈なのは、ただ「美しいものを見た」からではありません。

自分の知識、自分の感覚、自分という存在の大きさを、目の前の体験が揺さぶるからです。

なぜ畏敬はメンタルヘルスに影響するのか

畏敬がメンタルヘルスに関係すると考えられる理由の一つは、脳の注意の向きが変わることにあります。

専門家は、畏敬を感じると、内面的な処理や自己参照的な処理に関わる脳領域の活動が低下すると説明します。

これは簡単に言えば、「自分のことばかり考えるモード」が弱まるということです。

私たちは普段、過去の失敗、将来の不安、人からどう見られているか、自分は十分なのかといった内向きの思考にとらわれがちです。

もちろん、自己反省は大切ですが、それが過剰になると、悩みやストレスを増幅させることがあります。

一方、畏敬を感じると、意識は自分自身から外の世界へ向かいやすくなります。

壮大な自然、音楽、芸術、集団の一体感、あるいは宇宙や生命の複雑さに触れたとき、「自分の悩みが少し小さく感じられる」ことがあります。

これは単なる気分の問題ではなく、脳の情報処理の向きが、自分中心から外界中心へ切り替わるためだと考えられます。

また、ポジティブな畏敬は自律神経にも関係している可能性があります。

ネガティブな畏敬は「闘争・逃走反応」に関わる交感神経系の活動と関連するとされています。

これは、危険を前にしたときに体を緊張させ、すぐ反応できるようにする仕組みです。

一方、ポジティブな畏敬は副交感神経系の活動の増加と関連するとされています。

副交感神経は、心拍数や身体の興奮を下げ、体を落ち着かせる方向に働きます。

つまり、美しい自然や芸術に触れて「圧倒されるけれど、なぜか落ち着く」という感覚には、神経系の働きが関わっている可能性があるのです。

さらに、畏敬には人とのつながりを強める働きも示唆されています。

自分を大きく見せたい気持ちや、目先の悩みにとらわれる感覚が弱まると、人は他者や社会とのつながりを感じやすくなる可能性があります。

畏敬は他人を助けようとする傾向を高めたり、他者との結びつきを強めたり、人生の意味の感覚を増す可能性があるのです。

ただし、ここで注意したいのは、畏敬がすべての人に長期的なメンタルヘルス改善をもたらすと断定できる段階ではないことです。

現時点では、畏敬がストレスの軽減、満足感、幸福感に役立つ可能性があるとして研究が進んでいる段階です。

それでも、日常の中で意識的に畏敬を探すことには、試してみる価値がありそうです。

たとえば、ただ散歩するのではなく、美しさ、広がり、不思議さに気づくことを意識して歩く「畏敬の散歩」が挙げられます。

空の広さ、木々の細かな形、雲の動き、街の光、人々の営みなど、普段なら見過ごすものに注意を向けるだけでも、世界は少し違って見えるかもしれません。

また、音楽を聴く、美術館に行く、自然の中に身を置く、新しい学問や宇宙の話に触れる、大勢で同じリズムや歌を共有することも、畏敬を呼び起こすきっかけになります。

畏敬は、遠い宇宙や絶景だけにあるものではありません。

それは、日常の中にある「自分の理解を少し超えるもの」に気づいた瞬間にも生まれる感情なのです。

参考文献

One Complex Emotion May Have a Powerful Effect on Your Mental Health
https://www.sciencealert.com/one-complex-emotion-may-have-a-powerful-effect-on-your-mental-health

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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