
夜の海で、波が青白く光る光景を見たことがある人もいるかもしれません。
その幻想的な輝きの正体の1つが、生物発光する藻類(そうるい)です。
米コロラド大学ボルダー校(UCB)の研究チームは、この「光る藻類」をハイドロゲルに閉じ込め、3Dプリントによって青く光る立体構造を作製しました。
近い将来、この技術を利用した環境にやさしい「生きたランプ」が誕生するかもしれません。
研究の詳細は2026年5月6日付で科学誌『Science Advances』に掲載されています。
目次
- 一瞬だけ光る藻類を「長く光らせる」には?
- 3Dプリントで作る「生きている発光材料」
一瞬だけ光る藻類を「長く光らせる」には?
今回使われたのは、「ピロキスティス・ルヌラ(Pyrocystis lunula)」という海洋性の単細胞藻類です。
この藻類は、波に揺られたり、物理的な刺激を受けたりすると、青白い光を放ちます。
【海面で発光するP. ルヌラの画像がこちら】
浜辺に打ち寄せる波が、まるで星屑を散らしたように光ることがありますが、そこにはこうした生物発光藻類が関わっている場合があります。
ただし、自然な状態での発光は非常に短いものです。
P. ルヌラは刺激を受けると光りますが、その光は通常、数ミリ秒ほどしか続きません。
これでは、照明や発光材料として使うにはあまりに短すぎます。
そこで研究チームは「藻類の発光スイッチを別の方法で入れられないか」と考えました。
最初に試したのは、波のような機械的刺激を再現する方法です。
しかし、藻類をゆっくり押しつぶすように刺激しても、思うような発光は得られませんでした。
機械的な刺激は自然界では発光のきっかけになりますが、実験室で安定して制御するには難しい面があります。

そこでチームは、酸性や塩基性の溶液を使う方法に切り替えました。
過去の研究から、P. ルヌラの発光には、細胞内の発光に関わる部分のpH変化が関係していると考えられていました。
つまり、外から化学的な刺激を与えれば、波で揺らさなくても発光を引き起こせる可能性があったのです。
実験では、トマトジュースに近い酸性度を持つpH4の溶液と、ハンドソープに近いpH10の塩基性溶液が使われました。
その結果、どちらの条件でも藻類は光りました。
特に酸性溶液を加えた場合、P. ルヌラは明るい青い光を最大25分間にわたって放ちました。
一瞬で消えてしまうはずだった海のきらめきが、化学刺激によって「しばらく点灯する光」へと変わったのです。
研究者は、暗い実験室でフラスコ内の藻類が光り始めた瞬間、最初はノートパソコンの光が反射しているのかと思ったと語っています。
しかし実際には、フラスコの中の藻類そのものが、生きたラメのように青く輝いていました。
3Dプリントで作る「生きている発光材料」
チームはさらに、光る藻類を材料の中に組み込む実験を行いました。
使われたのは、天然由来のハイドロゲルです。
ハイドロゲルとは、水を多く含むゼリー状の材料で、生きた細胞を閉じ込める素材としても使われます。
チームはこのハイドロゲルの中にP. ルヌラを封入し、それを3Dプリンターでさまざまな形に成形しました。
作られた構造物には、丸みを帯びた不定形のものや、顕微鏡で見たP. ルヌラの姿にちなんだ三日月形のものが含まれていました。
【実際の画像がこちら】
そして、そこに酸性または塩基性の溶液を加えると、構造物全体が鮮やかなシアンブルーに光りました。
これは単なる「光る液体」ではありません。
藻類という生きた生物を材料に組み込み、形ある立体物として発光させた点が重要です。
いわば、電球や発光ダイオードとはまったく違う仕組みで光る、「生きているランプ」の原型と言えます。
しかも、酸性や塩基性の溶液は、少なくとも実験条件下では藻類をすぐに死なせるものではありませんでした。
ハイドロゲル内の藻類は数週間生き続け、酸性刺激を受けたサンプルでは、4週間後でも発光の明るさの75%を保っていたと報告されています。
この性質は、将来的な応用の幅を広げます。
たとえば、環境中の有害物質を検出すると光るバイオセンサーに藻類を組み込めるかもしれません。
水質の変化や毒性物質の存在に反応して光る材料が作れれば、目で見て異常を確認できる環境センサーになります。
また、電池を使わない小型の発光デバイス、自律型ロボット、深海や宇宙探査機器などへの応用も考えられています。
もちろん、今すぐ家庭の照明を藻類ランプに置き換えられるわけではありません。
実用化には、明るさ、発光時間、藻類の長期生存、刺激の制御、現実環境での安定性など、多くの課題が残っています。
外部の専門家からも、pH4の酸性環境は藻類にストレスを与える可能性があるため、長期利用には慎重な検証が必要だと指摘されています。
それでも、この研究の面白さは、照明を「電気で光る装置」としてだけでなく、「生き物の働きを利用する材料」として考え直した点にあります。
P. ルヌラは光合成を行うため、光や海水、二酸化炭素を利用して生きています。
従来の照明が電力を消費し、その発電過程で炭素排出につながる場合があるのに対し、このような生物発光材料は、光を生み出しながら炭素を取り込む可能性もあります。
夜の海に一瞬だけ現れる青いきらめきは、これまで「見るもの」でした。
しかし今回の研究は、その光を材料として閉じ込め、形を与え、必要な時に光らせる道を示しました。
未来のランプは、スイッチを入れる家電ではなく、静かに生きながら光る小さな生態系になるのかもしれません。
参考文献
Glowing algae could power the lamps of the future
https://www.popsci.com/environment/glowing-algae-lamps/
Bioluminescent algae’s blue light harnessed to make 3D-printed shapes
https://www.theguardian.com/science/2026/may/06/bioluminescent-algae-blue-glow-harnessed-3d-printed-shapes-science
元論文
Chemical stimulation sustains bioluminescence of living light materials
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aee3907
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

