マクラーレンのオスカー・ピアストリは、F1シンガポールGPの決勝レーススタート直後にチームメイトのランド・ノリスに接触され、不満を露わにした。この不満は正当なものだったと言えるのか?
ピアストリはノリスに接触された際、無線で執拗に不満を訴えた。しかしピットウォールはその不満を重要視せず、「レース後にリプレイを見れば、故意でないことが分かる」と伝え続けた。
ピアストリには、不満を訴えるだけの根拠はあったのだろうか? motorsport.com各国のライターたちが検証する。
■NO:ピアストリの反応は、マクラーレンへの反抗だった?|フィリップ・クリーレン
ノリスのオーバーテイクは、フェアなものであった。ノリスは素晴らしいスタートダッシュを見せ、ピアストリのマシンの横に並び、エイペックスを捉えた。しかしノリスは、前を行くマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の後輪に軽く追突。挙動を乱してしまうことになった。そしてアウト側にいたピアストリと、軽く接触することになった。
ノリスとしては、フェルスタッペンがエイペックスで、予想よりも遅かったのだろう。これはノリスの判断ミスであった。しかし、ピアストリへの敵意の表れのようには見えない。ピアストリは、たまたまノリスのアウト側にいたというだけだ。
ではピアストリはなぜ当時それほどまでに動揺したのだろうか?
もちろん、F1マシンのステアリングを握った時のアドレナリンの高まりを過小評価すべきではない。またコクピットに乗っている時の視界は限られており、全容を把握できていなかった。テレビでその当時の模様を見ていたなら、ピアストリは別のことを言ったかもしれない。
また、ノリスが飛び込む隙間を与えてしまった自分自身に憤慨していたのかもしれない。
ただ私には、別の仮説がある。それはピアストリが、マクラーレンに対して行動を起こしてほしいと、暗に主張したのではないかということだ。
もちろんこれは、F1イタリアGPでマクラーレンが、ピットストップを失敗して後退したノリスを先行させるよう命じた事例に起因しているだろう。ピアストリはこの時の判断に深く不快感を覚えている。基準についてはチーム内で明確にされているものの、もし同じことが再び起きてしまえば、ピアストリにとっては不利になりかねない。
ピアストリは結局のところ、抜け目のないドライバーだ。イギリスGPでは、セーフティカー中の違反によってタイム加算ペナルティを受けたことでチームメイトの後方になってしまったが、その時チームオーダーを出すよう求めた。この時ピアストリは、マクラーレンがその求めに応じないことは分かっていたものの「相談してみようと思った」と語っている。
マクラーレンはシンガポールでのノリスのオーバーテイクは、何の問題もなかったと考えている。ピアストリはそれを踏まえ、残りのレースで再びコース上で相対することがあった時に備えて、今回のことを心に留めておくだろう。
YES:しかし怒りの矛先は自分自身だ|スチュアート・コドリング
もし隙間を作ってしまえば、誰かがそこに飛び込んでくる。それは高速道路であろうと、シンガポールのターン3のイン側であろうと変わりはない。自然界が真空を嫌うのと同じだ。
ピアストリが怒るのは無理はない。しかしその怒りは、相手のドライバーやピットウォールに向けるのではなく、自分自身に向けるべきだ。そもそもグリッド上で最速のマシンを持っているのならば、フロントロウをキープすべきだろう。気まぐれなマシンから素晴らしいパフォーマンスを引き出そうとして難儀しているドライバーたちに、自分の輝きを奪うようなチャンスを与えてはいけない。
ピアストリとノリスは土曜日以降、やるべきことが山積みだった。ノリスは特にそうだった。そしてその結末は、日曜日に明らかになった。
シンガポールでは、前を走るドライバーが居眠りしたり、メカニカルトラブルに見舞われたりしない限り、オーバーテイクを成功させるチャンスはほとんどない。トラックポジションが全てであり、土曜日にポジションを失ったのであれば、チャンスがあれば日曜日にそれを取り戻さなければいけない。
ノリスのターン3での動きは、やるか、やらないかのいずれかであった。ピアストリは、その隙を与えてしまっただけだということだ。
今シーズン序盤、ピアストリはノリスよりも冷静でいい仕事をし、ランキング首位を維持している。しかしシンガポールではノリスの方が、ずっと良い仕事をしていた。一方でピアストリは、1周目の出来事をずっと嘆き続けた。歴代最高のドライバーの仲間入りを目指すなら、全くもって不相応な行為だ。
NO:ピアストリはタイトル争いのプレッシャーを感じているだけ|オレグ・カルポフ
正直なところシンガポールでのピアストリの無線での不満は、少々大袈裟であるように感じられた。まるでスーパーマーケットのレジで、「前回の買い物の時、お釣りが足りなかったんだけど」とものすごく前のことでクレームをつける客のようだ。
これは憶測にすぎないが、シンガポールGPのでのピアストリは、まだイタリアGPでノリスのポジションを譲らされたことを根に持っているように感じられた。
しかしシンガポールGPのターン3でのノリスの動きは、ピアストリが無線で訴えたほど「不公平」なモノではなかった。確かに激しい戦いではあったが、接戦であったことも確か。それ以上ではない。ピアストリだって、オーストリアやハンガリーで、ノリスをパスしようとしてブレーキングを遅らせ、タイヤをロックさせたではないか!
ピアストリは、自分だけは厳しいレースしていいと思っているのだろうか? いやピアストリがそんなリスクを冒すはずはない。リアイアすれば、失うモノが多いのはピアストリだ。
ピアストリは、タイトル争いのプレッシャーを感じ始めているのだろう。その結果、持ち前の冷静さを少し失い始めている。無線での会話は、いつもの落ち着いたピアストリとは異なっていた。
もし彼が不当な扱いを受けていると感じているのであれば、声を上げるときなのかもしれない。レース終了後、彼はメディアからの「パパイヤルールの下では、チームメイトの方が優遇されているのではないか」という質問の全てに口を閉ざした。しかしマシンに乗っている時には、チームの判断に疑問を呈し続けている。
もしそうだとすれば、解決策はある。マクラーレンが今年のコンストラクターズタイトル獲得を確実にして以来、外部の誰もが「パパイヤルールの撤廃」を求めてきた。コンストラクターズタイトル獲得が決まった今なら、ピアストリは自ら首脳陣に立ち向かい、これ以上の干渉はしないように訴えるべきなのかもしれない。
YES:彼の観点からすればそうかもしれない。しかし、それだけではない|ジェイク・ボクソール-レッジ
シンガポールGPのスタートでピアストリが置かれた状況に、苛立たない人がいるだろうか? 1マイル(いや最初の数百メートル)を彼の立場で考えてみよう。まずまずのスタートを切ったものの、フェルスタッペンやジョージ・ラッセルを追い抜くほどの蹴り出しではなかった。一方で別のオレンジ色のマシンが、ピアストリのミラーには映っていた。ノリスである。
ピアストリはこれに対抗すべく、ターン3で守備的な位置どりをした。しかしノリスの方が立ち上がりの加速に優れており、横並びになった。
ピアストリはノリススペースを残した。しかし、それでも接触してしまった。フェルスタッペンがターン3の立ち上がりで鋭い加速を見せられず、そこにノリスが追突したことを彼は知らない。コクピットからの視界は狭く、ピアストリは正しいことをしたにも関わらず、接触してしまったのだ。
もちろんピア苛立っているだろう。しかし彼がもう一度このレースを見たら、きっと違う視点から見ることだろう。腹を立てるのは、別に悪いことではないと思う。でもピアストリがそのことで不満を抱き続けるならば、とんでもないことだ。
コンストラクターズタイトルを確定させた今、ドライバーズタイトルに関する優柔不断なアプローチは終わらせるべきだ。ノリスとピアストリは、毎レース自由に戦う権利を持つべきだ。
結局のところこの戦いは、ドライバーズタイトル争いなのだ。善悪の論争は、この状況下ではますます曖昧になる。シンガポールでの争いは、ノリスが覚悟を決めていたのに対し、ピアストリが覚悟を決められていなかったように見える。
中立的な立場から見ると、物語の変遷に気付くのは楽しい。数レース前までは、ノリスはチャンピオンに必要な闘志を欠くおとなしい青年だったのに対し、ピアストリは揺るぎない鋼のような決意の持ち主のように見えたのに……。

