
2026年2月にデビュー1周年を迎えたアイドルグループ「ハルニシオン」。2年目をさらに盛り上げるべく、春からの新展開「ハルキャン」がスタート。その特別企画の一環で、WEBザテレビジョンではハルニシオンに楽曲を提供した豪華作曲家陣4名とメンバーによるスペシャル対談を連載でお届けする。
第3弾のゲストは、ハルニシオンに『夜明けを合図にして』『仮初花火』『何だったんだろう』の3曲を提供し、その奥深い世界観と複雑なメロディーで多くのファンを魅了してきた矢野達也氏。今回は、メンバーの来海とい、福間彩音を迎え、楽曲に込められた制作秘話や矢野独自の作詞哲学、そして楽曲を通して進化し続けるハルニシオンの表現力について、たっぷりと語り合ってもらった。
■「こんな難しい曲この世にあるんだ」予測不能な『夜明けを合図にして』
来海とい:今回は矢野達也さんと、私、来海といと福間彩音で対談させていただきます。よろしくお願いします!
福間彩音:まず、1周年ライブで私たちのパフォーマンスを生で初めて見てくださったと思うんですけど、そこで抱いた印象をお聞きしたいです。
矢野達也:ライブが終わった後にもSNSにポストしたんですけど、「こっから先の景色が楽しみになるな」というのが一番印象深かったです。もっと大きなところで一緒に楽しめたらなって思っています。
来海・福間:ありがとうございます! これからもご一緒させていただけるように頑張ります。
矢野:僕の曲、難しい曲が多いと思いますけど(笑)。
来海:めちゃくちゃ難しいです!
福間:初めていただいた楽曲『夜明けを合図にして』を聴いた時は、「こんなに難しい曲がこの世にあるんだ」って衝撃を受けました。メロディーも複雑で何度も転調したりと、曲がどうやって生まれたのかが未知すぎて、ぜひ伺いたいです。
矢野:『夜明けを合図にして』は、青春の歌詞が得意な新谷さんにお願いしまして。歌詞をお願いするにあたって、僕が先に曲を作ったんです。歌詞がないからやりたい放題できるというか(笑)。オーダーも「矢野さんの好きにやって」という感じだったので、じゃあ聴いていて退屈しない形にしようと。色々変化を加えることは意識的にやりましたね。
来海:メロディーラインがすごく複雑な上に、ポエトリーも入っているじゃないですか。あれはどういう意図で入れられたんですか?
矢野:曲の間奏の“尺”をどう使うか考えた時に、楽器を聴かせるのか、ステージでメンバーさんに何かやってもらうのかを悩んで、僕からポエトリーを指定しました。最初のオーダーが「青春」だったので、この複雑な曲の中で、感情や思いを思い切りぶつけてもらう手段として採用したんです。
来海:『夜明けを合図にして』は、変則的で疾走感があって、感情と物語が目まぐるしく移ろいでいく曲ですよね。私たちが表現する上で、矢野さんが求める理想を伺いたいです。
矢野:自由にやってほしいっていうのが最初にあるんですけど。その前に自分の中では、お客さんが退屈しないように、アイドルのライブが一本調子にならないようにしたいな、っていうのがあって。だからステージの情景がコロコロ切り替わって、メンバーさんのいろいろな魅力を見せられるように、ミュージカルみたいな作り方をしてるんです。初めて聴いた人も「なんだこれ」って思ってもらえるような形ですね。
福間:歌詞に「君」が出てきますが、疾走感のあるメロディーと相まって、君を追いかけてるような感じに受け取りました。
矢野:僕の曲では「追いかけてる感じ」っていうのはすごくあって。追いかけながら、もしかしたらそれはもう取り戻せないかもしれないけれど、それでも進んでいく感じを曲でも歌詞でも意識していますね。人は失いながら進んでいくものだし、でもその先で得るものもある。追いかけた「君」がモチベーションになっていくので、無駄だと思わないでその時その時を全力で駆け抜けてほしいなって思ってます。
福間:『何だったんだろう』にも、そういう意図が汲み取れました。すごく素敵です。
来海:『仮初花火』にも通ずるものがありますよね。
■「女の子がハジけるだけの時代じゃない」…アイドル夏曲の定石を打ち破る、江ノ島がモチーフの物語
福間:『仮初花火』はアイドルの夏曲って青空、炭酸、タオル回し…みたいな定番のイメージが多い中で、この情緒的な曲になったのはなぜなんでしょうか?
矢野:プロデューサーさんから夏の曲のオーダーをいただいたんですけれど、“アイドルの夏曲”とはまったく違うものを出してしまったんですよね。最初は「オーダーと違うやん」となったらしいんですが、でもこの楽曲を気に入っていただけて。「グループと一緒に成長する、挑戦する価値がある曲だ」とおっしゃっていただきました。僕自身、アイドルが楽曲でただキャピキャピすることに少し飽きていた部分もあって。今は女の子がハジけるだけの時代じゃないと思っていますし、ハルニシオンさんならこの表現ができるだろうなと思っていました。
来海:『夜明けを合図にして』も『仮初花火』もデビューしてすぐのタイミングでしたが、その早い段階で「こういう情緒的な楽曲でもハルニシオンはいけるな」と思っていただけたんでしょうか?
矢野:『夜明けを合図にして』の時点ですでに感じていました。ダンスMVを見た時や音源を聴いた時に、振りが洗練されてるし表情のコントロールもしっかりしていて、「このパフォーマンスができるならこういう曲も必要だろうな」と思ったんです。1人1人がちゃんと考えて悩んでやっている人たちなんだなっていうのを感じました。
来海:『仮初花火』は矢野さんに作詞・作曲・編曲すべてを手掛けていただきました。夏の終わりで、ちょっと憂いを帯びたような表現がメロディーからも歌詞からもすごく伝わってくるんですけど、表現する上でのこだわりを教えていただきたいです。
矢野:まず新谷さんが作詞した『夜明けを合図にして』があった上で、今回(「仮初花火」)は僕が作詞になったので「負けられないな」というのがありました。普段はあまり書かないんですが、ちょっとだけ物語っぽくしようかなって思ったんです。電車に乗って、落ちのところで花火を見てっていう物語の中で、過去を振り返ったり自分の若かりし頃を考えた時に、「青春って年齢によるものじゃないんだな」「あと何回この感情を体験できるのかな」と思ったことを曲にしました。
来海:サビで繰り返されるので、すごく印象に残ります。私は「あと何回の」っていう歌詞が、見てる花火の打ち上がる回数だと思ってしまっていました。
矢野:それもあります。花火大会って見ていたら終わっちゃうかもしれないっていう瞬間の連続じゃないですか。でも、花火大会だけじゃなくて、その季節、その年かもしれないし、もしかしたら人生かもしれない。いろいろなスケールで見えると思って歌詞にしています。「終わってしまうんだろうな」って思うかもしれないけど、青春そのものは終わらないんですよ。だから「次の夏へ」って続くんです。
福間:『仮初花火』は細かな情景描写がすごく思い浮かびやすいです。私、小説を読むのが好きで背景を考えたりするんですけど、一番スムーズにイメージがつきました。
矢野:1つモデルになってる場所はあるんですけど、どこだと思いますか?

来海・福間:江ノ島…ですか?
矢野:正解! 現地の景色が印象的でモチーフにしたのと、歌詞の中にどうしても“移動時間”を作りたかったんですよね。だから電車に乗ってる1人の瞬間と、友達が来たりするその時間も作りたくて江の島を想像しました。
来海:江ノ島で聴きたい! ファンの方も多分聴きながら江ノ島に行くと思います(笑)。もう一つ質問なんですが、「聞こえないサヨナラは 宇宙を、染めた」という歌詞は、私の解釈だと「自分の世界=宇宙」というイメージで聴いていたんですけど、矢野さん的にはどういう意図ですか?
矢野:だいたい合ってます。わざといくつかの意味で取れたり、「これってこういうことかな」って思ってもらえるように意味をぼかして使うことが多いので。宇宙が自分の世界だし、同時に夜空でもある。未来の感情かもしれない。音楽全般、言葉にできないことっていっぱいあると思うんです。そういうものを1対1で汲み取るんじゃなくて、歌詞表現の外の輪郭を感じながら歌ってもらえたらいいなと思っています。
来海:自分が表現するにあたって、これはこういう表現で正しいのかなって手探りなところもあったので、お聞きできて嬉しかったです。
■ワープロで紡ぐ詞先の世界。『何だったんだろう』制作秘話
来海:作詞をする際に、自身の体験したものを反映させていることが多いですか? それとも架空の人物から生まれるのでしょうか。
矢野:僕はエッセイを読むのが好きで、作詞する時も大きな物語というより、エッセイ的な瞬間の感情を切り取る書き方が多いです。作詞から入るんですけれど、実はコレを使っています(ワープロを取り出す)。
来海・福間:わー、すごい! これだ。ワープロ!
矢野:「自分自身がこれを体験したらどう感じるだろう」っていう、仮の自分みたいなものをどこかしらに置いている歌詞になっています。だから「君」の視点で作るとどうなるんだろうって考えたり。ここ(ワープロ)にブレスト用のノートがあって、「ドラマティックなきっかけなんてない」みたいな楽曲テーマのハンドアウト、使えそうなワードで韻を踏む練習をした跡があったりします。
福間:矢野さんの紡がれる歌詞や言葉のチョイスが本当に私にもドカ刺さりしてて。そういうふうにして生まれてるんだって知れて嬉しいです。
矢野:嬉しいです。『何だったんだろう』も、自分の体験から生まれました。確かオーダーは「新しい出会い」「新しい世界に行きたい」みたいなものでした。去年参加したイベントがすごく自分の中でエネルギーになってて、それ以来今まであんまり向かおうとしなかったものに向かえるようになったりしたんですが、「こういう体験って昔もあったよな」って。それをを題材にしたんです。知らないものだと薄っぺらくなりがちですし、自分なりの思索にふけることが好きなので、体験からエッセンスを引っ張ってきています。
来海:3曲の中で特に気に入っている歌詞やメロディーのフレーズ、「来たー!」と思ったようなフレーズってありますか?
矢野:勢いではめた言葉なんですけど、『仮初花火』の2サビの「短いモラトリアム~」のところはお気に入りです。もう1つは『何だったんだろう』の2サビ、「不確かな言葉におののいて僕らは後悔重なる」というところですね。乱暴な言い方をすると、3曲の中で一番自信なかった曲なんですよ。連続リリースの中で、もう2段階くらい上の曲を作らなければってプレッシャーがあったんですが、いざみなさんの声が乗ってみたら「めちゃくちゃいい曲じゃん」って(笑)。
来海:SNS投稿でも拝見しました! こんなにいい曲なのにどうして、と思っていました。私もあのフレーズめちゃくちゃ好きです!
矢野:そもそも言葉って大体不確かなんですけど、でもそんな他人の不確かな言葉とか、自分にかけちゃった呪いとかで進めなくなったり後悔したりするんですよね。でも「まあしょうがないよね」みたいな日常の諦めもいっぱいあって。ちょっと反抗的で、諦め、悟りを振り払うような気持ちは忘れたくないなと思って書きました。メロディーで言えば、「ほこりかぶったビンテージ」のところも矢野達也っぽい曲ができたなと嬉しかったです。
福間:歌詞はふと思いつく感じですか? それとも時間を設けて?
矢野:オーダーをもらって、思いついたアイデアをざっと並べて、しばらく寝かせます。で、机に向かってみてアイデアを書き足して、また寝かせてっていうことが多いですね。他の作業が2〜3日で終わっても、作詞は1〜2週間かかることもあります。でも、気分が乗ると一気に書けたり、曲と一緒に自分が走ってるみたいな感覚になって勢いで言葉が出てくることもあります。
福間:『何だったんだろう』のラストとか、走ってますよね。
矢野:こんなにも爽やかな終わり方をしてるのって、ハルニシオンさんの曲だけなんですよ。ちょうど『何だったんだろう』の製作時期が、MVが出始めた時期でもあって、「アオバ」にめちゃくちゃ影響を受けて、「あ、この爽やかさはいいな」と思ったのが頭の中にもあったんだろうなと思います。
福間:『何だったんだろう』の落ちサビの「それは、それは」という言い直しも、強調したいという意図からですか?
矢野:普通に落ちサビに流れちゃったらフックが少ないなと思って、1回言い直しを入れてみたんです。
福間:私がそのパートを担当させていただいてるんですけど、すごい気持ちが乗りますね。
矢野:作った自分が言うのもなんですが、聴いた時にハッとしますよね。この3曲が完成して、6人の歌声が乗った時のパワーや感情が乗るエモーショナルな感じがすごく出てて難しい曲なのに頑張って歌ってくれて嬉しいなって思っています。
福間:最初の頃に比べて、私たちへの印象で変わった部分ってありますか?
矢野:曲の解釈が深くなった感じがします。一生懸命さはずっと伝わってくるんですけど、解釈を乗っけるのが上手くなってきたイメージ。アイドルっていうよりアーティストっていう感じですね。これからも、情緒的な曲を書く意味があるなって思いました。
■黒歴史から生まれた作詞の哲学と、長く愛される曲づくり

福間:矢野さんが初めて作詞をされたのっていつ頃なんですか?
矢野:高校生ですね。ずっとピアノをやっていてJ-POPを弾くのが好きだったのが、ある時に「作曲したい」に切り替わった感じです。最初に書いたやつは、1980年代のドラマみたいなダサい歌詞書いちゃってて恥ずかしいです。
福間:えー!読んでみたいです!!
矢野:本当に読み返したくないです(笑)。今の自分の歌詞のスタイルが固まってきたのは、ここ数年ですね。言葉になる手前の感覚を持ってきたいなって思いがあって、一つの意味に絞られる前の言葉をわざと置いたりしています。「分からない」と思ったらそれは正解です。
来海:ちょっと安心しました。自分に自信がないと歌詞にも正解を求めちゃうところがあって、模範解答がほしいと思っていましたが、今の言葉を聞いて楽になりました。
矢野:「人生でこういうことあるよな」って要素をいっぱい入れるので、100%沿った回答っていうのはないかもしれない。だからこそ、3年後になって「あの時言ってたのはもしかしてこういうことかもしれない」って解釈が変わるかもしれない。そういう言葉を選んでいるつもりです。
来海:もっと大人になって年を重ねていった先でも、また新たな見方ができると思うと楽しみです。
矢野:歌ってるみなさんもリスナーさんも僕も、見返して自分の成長を振り返れるような曲になってたらいいですね。「昔バズって聴いていたけれど今は聴かなくなった」とならないような、耐用年数が長くて、歳をとっても聴いてもらえる曲にしたいです。10年後にライブで歌っても恥ずかしくない曲がいいな。
来海:もう何歳まででも、動ける限り歌わせていただきたいです!
福間:私はお会いする前から、「矢野達也さんってどういう人間なんだろう、どう育って何を考えて生きてきたんだろう」ってすごく深く知りたくなっていました。
矢野:伝記書くのを求められてる(笑)。
来海:私は矢野さんの楽曲が日常に溶け込みすぎていて、どういう風に聴いたらいいのかわからなくなっちゃう時があったんですけど、今日お聞きできて嬉しかったです。作家さんとしてどういう瞬間が一番嬉しいですか?
矢野:ライブでみんな盛り上がってくれることが一番です。難しい曲だけど頑張って盛り上がってほしいなと思ってます。いろいろな感情を持ち寄って、一緒に体を揺らして楽しみたいですし、できればもっとでかいところで一緒に騒ぎたいですね。
福間・来海:ありがとうございました。またご一緒させていただけるようにこれから頑張ります!よろしくお願いします!
ーーハルニシオン×豪華作曲家陣の対談企画第4弾は「⾳速少⼥」「Jumpin`」「アノソラヘ」「ツインレイ」を手掛けたエンドウアンリとの対談を、5月14日(木)21時公開予定。
(取材・文/WEBザテレビジョン編集部)

