実家で頼まれた、ある夜の話
秋の連休に帰省した夜、母が台所で「やっぱり一人っ子だしねえ」と父にぼやいているのが聞こえました。父は黙ったまま新聞を読んでいました。寝る直前、母が改めて「いつかでいいから、こっちに戻ってきて一緒に暮らせないかしら」と俺に伝えてきたのです。
その場では「妻と話してみる」とだけ答えました。具体的な時期も、生活設計も、何も決めずに東京に戻りました。それなのに自宅に着いた夜、俺は夕妻に「俺の親と同居してくれ」と切り出してしまったのです。今思えば、自分の中で何ひとつ整理がついていない状態でした。
「考えておいてほしい」を繰り返した僕
妻は最初に「ごめん、それは難しいと思う」と落ち着いて返事をしてくれました。けれど僕は、その言葉の重みを受け止める前に「親も歳だしさ」「考えておいてほしい」と繰り返してしまったのです。
頭の中では「同居=親孝行」という単純な式が回っていただけで、妻の生活がどう変わるか、自分が何を担うのか、まったく具体的に思い描けていませんでした。それでも数日間、寝る前にしつこく同じ話を蒸し返した自分のことを、今ではかなり恥ずかしく思い返しています。
