
「もし選ばれなかったらごめん」ナーバスな大迫敬介を勇気づけた妻の言葉。W杯の舞台でも“挑戦”する姿を見せてくれるはずだ
北中米ワールドカップの日本代表メンバーに名を連ね、予定されていた記者会見に出席したサンフレッチェ広島のGK大迫敬介は、開口一番「ホッとしました」と語った。
5月15日のメンバー発表の日を、大迫は自信を持って迎えられたわけではなく、不安の気持ちの方が大きかった。それは会見で明かした奥さんとのやりとりからも分かる。
午前中には週末の京都サンガF.C.戦に向けたチームの練習がある。大迫は家を出る前に奥さんに「どこで見る?」と聞かれ、「1人で見ようかなって思っている」と伝えると、奥さんは「いいんじゃない」と応じ、練習に向かったという。ただ、練習が終わってから大迫はやっぱり家族と一緒に見ることに決めた。
「選ばれる、選ばれない、どっちになったとしても、夢が叶う瞬間はやっぱり家族に立ち会ってほしいなと思った。だから練習が12時くらいに終わってから『やっぱ帰るわ』って言ったんです」
ただ、すぐに自宅に足は向かわなかった。
「結局、帰ったのは1時50分過ぎ。早く帰ってもソワソワするだけだったので、1人でご飯を食べて、ちょっと時間潰しながらギリギリに家に帰ったんです」
それほどナーバスになっていたのは、この半年間のパフォーマンスが決して満足いくものではなかったからだった。
昨年をもって4年間を指揮したミヒャエル・スキッベ監督が退任し、今年からバルトシュ・ガウル新監督のもとでチームは新たなスタートを切った。そして、大迫は新監督のもとで、これまでフォーカスしてこなかったビルドアップにも力を入れて取り組んでいくことになる。
ワールドカップイヤーに新たな挑戦をしてきた大迫は、J1百年構想リーグを戦ってきた今年を「正直、キャリアの中でも一番難しい半年だったと言っても過言ではない」と言い、葛藤しながら過ごしてきたことを明かした。
「結果を求めるだけなら、去年までの自分のプレースタイルを貫けばよかった。そうすれば、チームとしても個人としても結果を出せたと思いますし、代表に対しても結果を持ってアピールできたと思うんですけど、チームが新しいサッカーをするなかで自分だけ“安パイ”なプレーをするのは違うと思ったんです。なので、勇気を持って新しいチームのスタイルに自分を合わせていくことにしました。
もし、それで評価されなかったらしょうがないっていう思いでやっていましたけど、自分のミスで失点が多かったりして、すごく悩んだ時期もありました。それでも自分の意志を曲げずにやり続けて、そのおかげで選ばれたかどうかは分からないですけど、今こうやって選ばれた後には、やり続けて良かったなと思っています」
キャリアにおいて極めて重要な半年も、大迫は勇気を持ってチャレンジすることをやめなかった。彼も言っているとおり、その結果として選ばれたのかどうかは定かではない。ただ、大迫らしくチャレンジして夢を掴んだことに大きな価値があることは間違いない。
GKはリアクションが大半を占め、ミスをしないことが評価につながりやすいポジションでもありながら、大迫の最大の特長はいつもチャレンジを恐れないメンタリティにある。
プロになって林卓人とポジションを競うなかで、自分のスタイルも試行錯誤してきた。
「自分は卓人さんの背中を見て、いろんなことを学んできましたし、ちょっと人を寄せ付けないような怖い雰囲気を持つ卓人さんへの憧れもあった。ゴールキーパーにはそういう要素も必要だと思って、卓人さんの立ち振る舞いを自分にもうまく取り込みたいと思った時期もありましたけど、自分はそういうタイプじゃないことに気づいただけでした」
その背中を追ってきた林から背番号1を引き継ぐことが決まった時、大迫が清々しい表情で語っていたことが忘れられない。
「広島の1番を付けてきた選手は、本当に偉大な選手ばかりなので責任を感じていますけど、自分なりに背番号1のスタイルをまた築いていきたい。自分はどんどんチャレンジしていくようなプレースタイルをしていきたいですし、僕の背中を見て、子どもたちが憧れるようなゴールキーパーになれれば嬉しいです」
チャレンジし続けてきた大迫をいつも間近で見て、支えてきた奥さんは、大迫がメンバー発表の当日に「もし選ばれなかったらごめん」と漏らすと、こう言ったという。
「ここ数か月じゃなくて、この4年間の積み上げが評価されて、今があるんだよ」
その言葉に大迫は救われた。「一緒にこの夢を叶えられたので、家族にすごく感謝しています」と話していた大迫は、ワールドカップでもチャレンジしていく姿を見せてくれるはずだ。
自分に言い聞かせるように、大迫はワールドカップに挑む心構えを語った。
「いつも通りの自分のパフォーマンスを発揮する準備をするだけかなと思います。ワールドカップだから、何か特別なことをやろうとするとテンパっちゃうと思うので、いつも広島で出しているパフォーマンスを大舞台で発揮する準備をするだけだなと思います」
大迫はワールドカップでも“安パイ”なプレーをするようなことはないだろう。だからこそ、余計に楽しみでならない。
取材・文●寺田弘幸
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