
有言実行のWEリーグ初得点――ベレーザ一筋26年の岩清水梓が日本女子サッカー界に残した財産。引退後はどのような道に進むのか
元なでしこジャパンで日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓が5月16日、東京都内で引退会見を行なった。
センターバックとして女子ワールドカップ・2011年ドイツ大会で優勝に貢献し、なでしこジャパンを世界一に導いただけでなく、名門ベレーザのキャプテンとして、なでしこリーグ5連覇を含む黄金期を築いた岩清水は、これまで国内のリーグ戦300試合以上に出場してきた。特に13年連続ベストイレブンという偉業は、我々が生きているうちは破られることがないだろう。
それだけでなく、出産を経て育児をしながら競技を続けたレジェンドの国内最終戦は、多くの人の記憶に残るものとなった。
この日の2025/26 SOMPO WEリーグ 第22節のアルビレックス新潟レディース戦で今季初先発した岩清水は、久しぶりにキャプテンマークを巻いて81分までプレー。絶え間ないコーチングとカバーリング、そして持ち前の厳しいディフェンスで、リーグ最終節の勝利に貢献した。
『守備職人』の本業であるディフェンスだけでなく、CKからのヘディングシュートで積極的に得点を狙い、3,156人が集まった味の素フィールド西が丘のスタンドを大いに沸かせた。
筆者は岩清水の引退発表後、インタビューの機会を得て、その中で最終節に向けた意気込みを聞いていた。
現在はチームの主力とは言えないため「まずは試合に出場して、勝って笑顔でみんなに手を振りたい」と控えめだったが、「実は私、WEリーグではまだ無得点なんです」と切り出した。「だからあわよくば(得点を)狙ってますよ。まぁ、そんな簡単じゃないことは分かっているんで、まぁ、チャンスがあれば」と笑いながら続けた。
WEリーグ開幕5年目まで無得点だった選手が、その最終節で得点を挙げるのは、無謀な夢のように思えた。新潟Lも引退を発表した川村優理の花道を飾るべく、120パーセントの力で戦ってくるのだ。しかし、サッカーの神様は岩清水の有言実行の手助けをする。
72分、ドリブルを仕掛けようとしたベレーザ眞城美春がペナルティエリア内で倒されてPKを得ると、キッカーを務めた岩清水が右足でゴール左上にPKを成功させた。PKのキッカーとして岩清水を指名したベレーザの楠瀬直木監督は「実はイワシ(岩清水)がクラシエカップ決勝でバーに当てて(PKを決めて)から、毎日のように練習後にこっそり(PKの)練習をしていたのを知っていた」と明かし、岩清水が『PKを勝ち取った』ものであったことを強調した。
岩清水自身も「いつも蹴っていない余計なキックをすると、変なことが起こると思ったので、いつも通り蹴ろうと思った。それで上に越えたら(外れたら)もう仕方ないって思い、練習通りに」と話し、練習で培ってきた一蹴りで、待望のWEリーグ初得点を自ら手繰り寄せた。
「日々の練習以上のものは、試合では出せない」と常々言ってきた、努力家の岩清水らしいシーンだった。
そして81分、岩清水が途中交代を告げられてピッチを去る際には、両チームのピッチ上の選手、ベンチの選手やスタッフ、そして審判団が花道を作り、村松智子にキャプテンマークを託した後、鳴り止まない大きな拍手を受けながらベンチへと退いた。
それだけでなく、『岩清水選手 26年間お疲れ様でした㉝』と、新潟Lのサポーター側からも掲げられた横断幕が、日本女子サッカー全体に影響を与えたレジェンドであることを示している。
日本中が沸いた2011年女子W杯で、世界一に輝いたなでしこジャパンのディフェンスラインにも、熊谷紗希とセンターバックのコンビを組む岩清水がいた。岩清水は2016年を最後になでしこジャパンから遠ざかったが、その後のなでしこジャパンは、岩清水という相方がいなくなった熊谷が、誰とセンターバックを組むのかを探す旅でもあったように思う。そのくらい、岩清水の存在は大きかった。
「ベレーザは負けてはいけないチーム」、「緑の血が流れている」と話すベレーザ一筋26年の岩清水は、名門ベレーザへの愛とプライドを併せ持つ『ベレーザの伝道師』だ。
代表やクラブ、サッカー部のキャプテンを取材していると、「自分は言葉で引っ張るタイプのキャプテンじゃないからプレーで引っ張る」と話す選手が非常に多いことに気づく。それは言葉でチームを引っ張ることから、逃げてはいないだろうか。
岩清水はプレーでも言葉でも、ベレーザを引っ張ってきた。「喋って伝えて、味方を動かしてゲームも動かすのが、本当にサッカーがうまい選手」と、言葉の重要性も説いてきた。どんなことからも逃げなかった岩清水だからこそ、その言動に重みがある。
選手引退後の岩清水は、どのような道に進むのか。
「選手であったが故に、息子の授業参観や運動会をゆっくり見られなかった」と、母親の顔で穏やかに話す岩清水は、家族との時間を増やしたいとしながら、「選手としてはコンディショニングを大切にしてきたので、その間にできなかったことをやっていきたい。岩清水梓という名前が古くなるまでは、学校訪問だったり、みんなに会いに行く活動を」と、サッカーの普及に力を入れていくという。
すでに選手時代から指導者ライセンスを取得しており、今後もその勉強を続けていく意向を示している。センターバックとしての信念も持つ岩清水が、未来のベレーザの強化だけでなく、なでしこジャパンの強化にも携わってほしいと考えるのは筆者だけではないだろう。
岩清水のこれまでの知見と変わらないサッカーへの情熱は、日本女子サッカーの宝のように思う。
5月20日のAFC女子チャンピオンズリーグ 2025/26準決勝、そして同23日の決勝を持って、レジェンド・イワシの選手生活は一区切りとなる。
アジア最強クラブのタイトルを加えた(加えなかったとしても)、彼女の今後に期待したい。
取材・文●馬見新拓郎(フリーライター)
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