
ヤクザの垣原(浅野忠信)と元いじめられっ子の殺し屋イチ(大森南朋)の壮絶なバトルを描く本作が世界を魅了した要因の一つは、“バイオレンスの巨匠”こと三池監督の持ち味が存分に発揮された暴力描写の数々だろう。映像化不可能と言われた原作の狂気、グロテスクな世界観を浮かび上がらせた怪作は、いま観ても鮮烈だ。
■個性豊かなキャスト&スタッフで、暴力まみれの裏社会を描く『殺し屋1』

山本英夫による人気コミックを原作とする『殺し屋1』には、三池監督を筆頭に、脚本の佐藤佐吉、『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』(25)でもタッグを組んだ撮影の山本英夫、衣装の北村道子といったスタッフ陣が集結。さらに浅野と大森に加え、塚本晋也 、SABU、國村隼、松尾スズキ、寺島進ら個性豊かなキャストが顔をそろえている。

物語は歌舞伎町を根城とする安生組組長が、3億円もの組の資金と共に姿を消すところから幕開け。安生から与えられる暴力を愛するマゾの垣原は、安生が生きていることを信じて歌舞伎町内をくまなく探し、やがて“イチ”と呼ばれる殺し屋へとたどり着く。
イチの鮮やかな殺しぶりに興奮し惹かれていく垣原と、トラウマに苛まれながらもジジイ(塚本)の指示に従うイチは、すれ違いを繰り返し、ついに出会いの瞬間を迎えることに…。
■過激なバイオレンスが炸裂する2000年前後の三池作品
三池監督といえば基本的にはスケジュールが合えば、オファーは断らないというスタンスを貫き、バイオレンスや任侠モノをはじめ、ホラーやコメディ、ヒューマンドラマに時代劇まで幅広く活躍。また近年は有名漫画の実写化の印象が強い。

1991年にVシネマから監督のキャリアをスタートし、容赦ないバイオレンスで世界的注目を集めていた2000年代前後は、“やりたい放題”という言葉がピッタリの脂が乗った時期。刑事と中国残留孤児3世の戦いを、ド派手なドンパチやセルフ腕もぎ取り(!)といったハイテンションなバイオレンスで描いた『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(99)、家族の崩壊と再生という題材にエログロを添えたタブー度外視の問題作『ビジターQ』(01)など、唯一無二の作品を立て続けに世に送りだした。

例えば、妻に先立たれた中年男性が再婚相手を探すために架空の映画のオーディションを開催し、そこで知り合った美しき女性によって恐怖のどん底に突き落とされる『AUDITION オーディション』(99)は、トラウマを刻み込む1作。
ヒロインが「キリキリキリ…」と発しながら主人公の身体中に針を突き刺したり、ピアノ線で足首をジリジリと切り落としたり…和製ホラーの陰湿な雰囲気のなかで際立つ唐突な暴力は鮮烈で目を背けたくなるほど。この作品は海外映画賞を受賞したほか、現在ハリウッドでリメイク企画が進行している。

また、世界のホラー映画監督13人によるケーブルテレビ用オムニバスシリーズ『マスターズ・オブ・ホラー』(06)の一編『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』では、明治の日本を舞台に、アメリカ人の男が出会った遊女にまつわる恐怖を描いており、インモラルな題材や奇形や拷問といった過激な表現が問題となり本国アメリカでは放映自粛に。さらに日本での劇場公開に向け映倫の審査を受けたが、“審査規格外”になったという曰くつきの1作だ。
このように三池監督は肉体的な暴力はもちろん、状況が生みだす精神的暴力までを、不快感を伴う“痛み”として可視化すると同時に、時には悪趣味なギャグとしても用いてきた。
■グロすぎて笑える?『殺し屋1』でも炸裂する強烈なバイオレンス
そんな監督の持ち味が『殺し屋1』には詰まっており、暴力を肉体の痛みや心の不快感として描くと同時に、その痛みを愛する垣原の存在やSM的表現を介することで歪んだ性的快楽としても描写。賛否両論を巻き起こし、いまなお愛され続けるカルト的な人気を獲得した。
一般的には性描写に対して適用されるR-18指定が「映画自体が反社会的」という理由から課せられた異端的作品であり、劇中のバイオレンスはどれも凄惨極まりない。

組長失踪の犯人疑惑をかけられた船鬼一家の鈴木(寺島進)が無数のでっかい釣り針で宙吊りにされながら頬をアイスピックで貫かれたうえ、熱々の油を浴びせられる拷問を皮切りに、鈴木への拷問の責任を取るために垣原が自らの舌を短刀でギコギコと切り落とすなど、観ているだけで痛覚を刺激されるような描写のオンパレード。

さらには、左足のかかとに刃が仕込まれた殺人シューズでDV男を縦に真っ二つにしたり、ヤクザたちを木っ端微塵の肉片にしてしまう(切り飛ばされた顔面が壁にへばりつく!)イチのグロテスクな殺戮描写も、凄まじい血飛沫や辺り一面に散った臓物によって誇張して表現。観る者を困惑させるシュールで遊び心のあるブラックユーモアも特徴だ。

世界では上映禁止措置が取られた国もあり、上映された国でも、アメリカでは約11分、ドイツでは約13分、香港では約15分以上にわたり暴力シーンをカット。またトロント国際映画祭での上映時には、注意喚起のためオリジナルの嘔吐袋が配布されたというエピソードも残っている。

吐き気や不快感と同時に、あまりのやりすぎぶりで笑いすら誘う『殺し屋1』。受け手の感情を激しく揺さぶる本作には、暴力をショック演出として用いるだけでなく、表現のための手段へと昇華している三池監督の真骨頂が詰まっている。今回の上映ではもちろん無修正ノーカット版となるので、凄まじいバイオレンスに脳天を撃ち抜かれてほしい。
文/サンクレイオ翼
