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タイヤが黒いのはなぜか――100年謎だった「黒い粒がゴムを強くする仕組み」が判明

タイヤが黒いのはなぜか――100年謎だった「黒い粒がゴムを強くする仕組み」が判明

発見は、これからのゴムを変える

発見は、これからのゴムを変える
発見は、これからのゴムを変える / Credit:Canva

謎が解けた、で話が終わらないのが、この研究の心憎いところです。

研究チームは、設計の現場で効いてくる“手土産”を、二つ用意していました。

ひとつ目は、犯人を見抜くための“指紋”です。

もし、その材料の中に「ガラスの橋」がひそんでいるなら、ゴムを引っ張り始めた、ほんの最初の一瞬――伸びがまだ2%にも満たない、指先ほどの伸びしろのところ――に、コツッとした独特の硬い手ごたえが、必ず顔を出すことを示したのです。

逆に、その手ごたえが出なければ、少なくともこの診断の物差しでは「ガラスの橋は、この中にはいない」と言い切れます。

犯人が現場にいたかどうかを、最初のひと伸びだけで判定できる、消えない指紋のようなものです。

この“見分け方”は、次に述べる“作り分け”の前提として役立ちます。

ふたつ目は、ゴムを“注文どおりに焼き上げる”ためのレシピです。

粒の「形」「量」「ねばつき」という三つのつまみを使い分ければ、しっかり伸ばしたときの硬さと、伸ばし始めのやわらかさを、別々に調整できると著者らは見ています。

粒のかたまりの形や大きさを工夫すると、余計なクセを出さずに、硬さだけを上げられる。

一方で、粒の量やねばつきを増やすと、硬くはなるけれど、伸ばし始めに少しふにゃっとなるクセが出る。

この性格さえ読めれば、過酷な現場で使われるゴムを、目的に合わせて狙いどおりに仕立てられるのです。

この成果が直接効くのは、設計の現場です。

タイヤづくりには昔から、「燃費」「グリップ」「耐久性」という三つを同時に立てるのが難しい、という悩みがあります。

一つ二つを良くすると、残りが落ちてしまう。

これまでは、その最適点を、地道な試行錯誤で探すしかありませんでした。

足元の原理がはっきりすれば、そのバランスを、勘ではなく理屈で攻められるようになります。

私たちが毎日のように目にし、その上を走っているタイヤ。

ゴムバンドのような素材が、わずか数枚の接地面でジャンボジェットを支える――その“ありえない頑丈さ”の正体は、硬いのりだけでも、特別に硬い粒だけでもありませんでした。

ゴム自身が、ずっと奥に隠し持っていた「体積を守る怪力」です。

黒い粒は、それを叩き起こし、変形の土俵をすり替える引き金だったのです。

足元に転がっていた100年の謎は、シミュレーションが描き出したこの一本の筋によって、ようやく腑に落ちる形で説明がつきました。

次にタイヤの黒さに目がとまったら、その奥でいまも続いている静かな綱引きを、少しだけ思い出してみてください。

元論文

Glassy interphases reinforce elastomeric nanocomposites by enhancing volume expansion under strain
https://doi.org/10.1073/pnas.2528108123

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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