私立北越高校男子ソフトテニス部の生徒1人が死亡した6日の磐越道のマイクロバス事故。取材を通して浮かび上がってきたのは、部活の安全対策に学校が関与せず顧問任せにしていた実態だ。しかし部活のためバスを運転していたという元高校教諭は、この危険な状況は「全国の学校で同じ状況ではないか」と話し、こうした問題を生み出す構造があるというのだ。
「顧問任せは私学、公立を問わず全国どこでも起きています」
事故は6日、無職、若山哲夫容疑者(68)=福島県警が過失運転致死傷容疑で逮捕=が運転するマイクロバスが高速道の道路わきに突っ込み生徒1人が死亡した。
レンタカーのバスを借り出し、若山容疑者を運転席に座らせた蒲原鉄道(新潟県五泉市)の営業担当、金子賢二氏は、男子ソフトテニス部の寺尾宏治顧問から「費用を安く抑えるためレンタカーと外部運転手の手配を頼まれた」と主張。
これに対して寺尾顧問は「そんな依頼はしていない」と反論している。若山容疑者が交通事故の常習者だったことも発覚し、なぜそんな人物に運転が任されたかの経緯もわかっていない。
特に注目すべきは、北越高校の幹部・経営陣が安全対策は顧問に任せていたと主張する点だ。
灰野正宏校長は会見で「安全に関わる契約や実際の運行に関することを部活動任せにして、学校としてしっかりと管理する体制に重大な不備があった」と発言。
学校運営法人の和田晋弥理事長は「部活は全て(顧問に)丸投げ状態だった」とまで言った。
責任逃れ目的にも聞こえるが、部活動運営の実態は恐ろしいことにこの言葉通りだと指摘する人がいる。
石川県で県立高校教諭を約20年間務め、今は別の教育機関で教壇に立つAさんだ。約10年前、女子ソフトテニス部の「副顧問」を務めていた際に起きた危険な経験について語る。
「主顧問が知り合いとの間で組んだ練習試合の遠征で、金沢から約450キロ離れた香川県東かがわ市まで18人の生徒を乗せた学校のバスを1人で運転したことがあります。
金曜日の午前8時20分から通常の授業を夕方まで行ない、そのまま夕方に学校を出発し、未明に到着する強行軍でした。
出発当日、病床にいた私の母が危篤になったとの知らせを受け、私は行けないと申し出たのですが、主顧問は『ホテルをキャンセルできないんです』と聞く耳を持たず、私がひとり心身ともに疲弊しきった体で運転しました」(Aさん)
石川県は部活動の規定で深夜の運転や走行距離が1人で1日400キロを超えて運転することは認めていないが、当時の校長はこうした日程を把握しながら遠征に許可を出していた。
「このような顧問任せは私立、公立を問わず全国どこでも起きています。しっかりと安全を管理する者がいないんです。教育委員会は学校長に、学校長は顧問に任せている構造的な問題があるのです」とAさんは話す。
「遠征の付き添いがなぜ寺尾さん1人だけだったのか」
背景にあるのが部活動の位置づけだ。文部科学省は現行の高校学習指導要領で部活動を「生徒の自主的,自発的な参加により行われる」と記載。スポーツ庁は「教師による献身的な勤務」で成り立っていると記載している。
部活が正規の教育課程に置かれず“生徒の自主活動を顧問が献身的に支えている”ものとみなされているため「管理職は完全に教員任せにするのです」と指摘するAさんが続ける。
「じゃあ教員が喜んでやってるというのかと違います。部活に熱意を持たない先生もやらざるを得ない状況に追い込まれます。
石川県では毎年4月に職員会議で担当する部活の“割り振り”が発表されていました」(Aさん)
生徒や親からは他校と練習試合をしたいという声も出る。
「練習試合の要求は顧問にはプレッシャーになります。県内の高校だと大会でよく当たるので県外に出ることが多かったです。
そうした練習試合は顧問が企画をして考えたものだというのが学校の考え方で、遠征にかかる費用の会計も高校とは完全に分かれて部内で独立して行なわれました」(Aさん)
強豪校の部活になると顧問の負担も増える。北越高校ソフトテニス部は県内の強豪で、スポーツでの大学進学が視野に入る選手も指導した寺尾顧問は熱心で知られた。
知人は「彼は毎日朝6時半に家を出て帰りは夜10時だと言っていました。部に入ってくる子も親も強くなりたいという思いは強く、それに応えるんだと土日も8時間は練習をしていました」と話す。
Aさんはいう。
「強豪校の先生は肉体的にもきついし勝ち続けないといけないっていうプレッシャーに押しつぶされそうになってて大変です。
そして今回の事故で、顧問が生徒と一緒にバスに乗らなかったのはあり得ないです。どこでも顧問は2人以上いるはずで、報道のように遠征の付き添いがなぜ寺尾さん1人だけだったのか。頑張ってる顧問だけが追い込まれる構造もあると思いますね。
その結果、教員は一緒に(バスに)帯同して責任を持たないといけないという基本が抜けるという信じられないことになっていました」
と話すのだ。
実はAさんは香川県まで危険な運転をさせられたことについて県知事を相手取った少額の慰謝料を求める訴訟を起こしていた。金沢地裁は校長らの安全配慮義務違反を認めなかったが、疲弊した状態での長距離運転の事実は認めている。
「こういう状態はおかしいとわかってほしくて訴えました。『いつか事故が起きますよ』と裁判官に陳述もしました」(Aさん)
磐越道の事故は顧問がハンドルを握ったバスではなく、顧問として危険な運転をしたAさんのケースとは異なるが両者の根っこは同じだとみるAさんに、では、どうすれば問題は解決するのか聞いた。
「生徒をしっかり守るためにはリーダーシップを誰かがとらなければなりません。教員の運転でもバス会社への発注でも、しっかりしたガイドラインをつくってそれを順守させるよう監督する。そしてできる限り貸し切りバスのプロの運転に任せるようにする。
それができるのは都道府県の教育委員会しかありません。それによって過剰競争が生む無理な遠征も減らすことができ、教員自身も守ることができると思います」
部活動の成績は高校の知名度を上げ、入学を志願する生徒を集める大きな武器になっている。学校がその“果実”を得ながらリスクを顧問だけに押し付けてきたこれまでの構造は、異常というしかない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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