最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
脳トレ四択クイズ | Merkystyle
【現地発】W杯トロフィーは「イタリアの匠の技が生み出した傑作」74年大会以降、ミラノ近郊の町工場が製造「現在は2つのバージョンが存在する」

【現地発】W杯トロフィーは「イタリアの匠の技が生み出した傑作」74年大会以降、ミラノ近郊の町工場が製造「現在は2つのバージョンが存在する」

北中米ワールドカップ開幕まで1か月を切った。日本の皆さんは、すでに応援の準備ができているだろう。それにしても羨ましい限りだ。私たちイタリア人にはそんな贅沢は許されない。3大会連続で自国チームが出場しないからだ。

 ただ、優勝チームがどこであろうと、表彰式を見ながら、我々はちょっとだけ誇りを感じることだろう。なぜなら勝者が高く掲げる“ワールドカップ”は、何世紀にもわたるイタリアの匠の技が生み出した傑作だからだ。

 1974年の西ドイツ大会以来、W杯のトロフィーは、ミラノ北部の小さな町パデルノ・ドゥニャーノにある町工場、GDEベルトーニ社によって製造されている。現在、経営するのは創業者の曾孫にあたるヴァレンティーナ・ローサ社長だ。

 彼女のオフィスは、床から天井まで文字通りトロフィーで埋め尽くされている。サッカーならワールドカップだけでなく、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグなどのトロフィー、バレーボールやオリンピックのメダルまで、本当に多種多様な品々が並んでいる。スポーツファンにとってはまさに夢のような空間だ。

 ベルトーニ社は20世紀初頭、当時需要が高かったメダルや美術品を製造する小さな工房として生まれた。その後、祖父の代に本格的な工場となり、1960年のローマ五輪のメダルも製作した。最盛期には100人が働いていたという。現在は規模こそ小さくなったが、より高品質な製品作りに注力している。そのひとつがワールドカップだ。

 1970年のメキシコ大会でブラジルが3度目の優勝を果たし、当時の世界王者に渡されていたジュール・リメ(第1回目の1930年ウルグアイ大会時のFIFA会長の名前)杯はブラジルが永久保持することとなった。そこで FIFAはジュール・リメ杯に代わる新しいトロフィーを作成するため、国際コンペティションを開くことにした。

 応募した50社の中にベルトーニ社が含まれていた。ヴァレンティーナ社長の父と祖父は、当時工場のデザイナーを務めていた著名な彫刻家シルビオ・ガッザニーガと協力し、FIFAに提出する案を練った。

 ガッザニーガが最初に考案したデザインは、2人のGKがサッカーボールを支えている姿を捉えたものだったが、自身も芸術家であったヴァレンティーナ氏の祖父が修正を希望。数日にわたる白熱した議論の末、最終的には2人の選手が地球を掲げるという、我々がよく知る形となった。

 デザインが確定すると彼らは縮尺した模型を作成し、プレゼンテーションのためにFIFA本部のあるスイスのチューリヒへと向かった。いまでこそ3Dのサンプルは一般的だが、当時はかなり珍しいものだった。FIFAがベルトーニ社に決めた一因も、この精巧なサンプルにあったと彼らは考えている。

  現在、W杯トロフィーには2つのバージョンが存在する。ひとつは金で鋳造されたオリジナル、もうひとつは真ちゅうに金メッキのレプリカ版だ。これは優勝した各連盟に贈呈される。どちらにしてもトロフィーは今もなお、職人たちが心血を注ぎ、手作りしている。複雑で精緻な模様を作り出すのは、千年にもわたる伝統的な技だ。

 ロストワックス鋳造と呼ばれるこの技法は、鋳造したい製品の型をろうで作り、それを石こうに浸し、乾燥、硬化させる。中のろうを熱して溶かし取り除くと鋳型の完成だ。ここに溶かした金属(ワールドカップの場合は金または真ちゅう)を流し込む。完成後、トロフィーは複数の職人によって最終的な仕上げが施される。まずは小さな傷や歪みを取りのぞくために丁寧に研磨。その後、化学洗浄して不純物を除去し、最後に太陽よりも光沢がでるように、磨き上げる。

 こうして完成するのが、誰もが人生で一度は手にしたいと願う、かけがえのないトロフィーだ。実際その価値はいかほどなのか?

 スイスのFIFA本部で保管されているオリジナルのトロフィーは、18金で高さ36センチ、底面の直径は17センチ、重さは6キロ強。現在の金の価格に基づけば、約60万米ドル(約9500万円)になる。だが、スポーツ界最高の象徴としての価値はそんなものじゃない。スポーツメモラビリアの専門家による最近の推定では、その価値は2000万米ドル(約32億円)をはるかに超えるとされている。

 そんなとてつもない価値のあるトロフィーだけに管理は厳重だ。数年前、FIFAはこれまでトロフィーを獲得したすべてのサッカー連盟に対し、メンテナンスのためにレプリカをベルトーニ社に送るよう要請した。

 すると、ある欧州のサッカー連盟(イタリアではない)が偽物を送ってきたらしい。この事実を知らされた「犯人」は、すぐに謝罪し、本物のレプリカを送って来たとはいうが――。本物のトロフィーがメンテナンスのために戻ってくる際には、ヴァレンティーナ氏は保管された金庫の隣のオフィスで寝泊まりし、作業を終えて返送されるまで決して目を離さないという。

 今年のW杯にもアッズーリ(イタリア代表の愛称)はいない。だが自国の職人魂と英知の象徴が、今回も世界最高の舞台に立っていることを想えば、イタリア人の心も少しは慰められるかもしれない。

文●フランチェスコ・アルベルティ
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】フランチェスコ・アルベルティ(Francesco ALBERTI)/1965年ローマ生まれ。スポーツと経済を専門とするフリーランスジャーナリスト。2017年にイタリアに帰国するまでの27年間、その大半を日本とシンガポールで過ごす。毎日新聞の英語版『Mainichi Daily News』の記者として活動し、その後、東京およびシンガポールにて金融通信社『Bloomberg』のアジア太平洋地域向け新聞社配信部門の責任者を務める。イタリア帰国後もアジアのメディア向けに記事を執筆している。

【画像】2025-26シーズンのセリエAを彩ったスター選手30人――ラウタロ、バレッラ、パス、モドリッチ、ラビオ、ユルドゥズ、デ・ブライネ、ディバラ、鈴木彩艶

【現地発コラム】21度目スクデット、インテルを「再生」させたキブの手腕と大きな意義「前任者が残した3-5-2という強固な基盤を維持しながら」

【画像】ヤマル、エムバペ、ケイン、メッシ、ロナウド、ヴィニシウス、ハーランド、ヴィルツ、ファン・ダイク…北中米ワールドカップの注目スター選手
配信元: THE DIGEST

あなたにおすすめ