東京都奥多摩町の山中で5月19日、「上半身のない遺体」が発見された。
場所は埼玉県秩父市との県境に近い、仙元峠付近。5日前の5月14日、警視庁青梅署員が現場周辺に漂う腐敗臭に気づき、署員や地元猟友会のメンバーらが19日朝から約30人体制で捜索を行っていた。すると登山道から約100メートル下の崖下で、下半身だけの無残な遺体が発見されたのだ。
奥多摩町では5月17日にも、登山中のロシア人男性がクマに襲われ、重傷を負う人身被害が発生している。遺体が見つかった現場周辺には大型動物のフンや足跡が多数確認されているほか、捜索願が出されていた登山者の身分証明書などが入ったリュックサックが発見された。青梅署は「クマによる食害の可能性が高い」とみている。
日本列島にはヒグマ(北海道)とツキノワグマ(本州以南)が生息しているが、一般的には「いずれも木の実や果実や山菜などを主食としている」と考えられてきた。だが、この主食説には誤謬がある。つまり「半分は正しいが、半分は誤り」なのだ。
人間は最もたやすく手に入れられる獲物だと学習
クマの生態に詳しい動物学者が指摘する。
「正確に言えば、ヒグマもツキノワグマも『雑食性』であり、野生動物や家畜などの肉も好んで食べます。事実、ヒグマほど獰猛ではないとされるツキノワグマが『死んだホンシュウジカ』を一晩でペロリと平らげたという研究報告がある。それだけではありません。北海道では昨年、ヒグマが道路上にいた『生きたエゾシカ』を捕食する衝撃的な映像が確認されています。クマは草食性動物ではないのです」
当然、人間も捕食の対象外ではありえない。クマは人を恐れるとされているが、これもまた「半分は誤り」なのだ。動物学者が続ける。
「人間を捕食した経験を持つ個体は人を恐れるどころか、人間は最もたやすく手に入れられる獲物だと学習します。この点は山中でも街中でも同じです。人間は無抵抗な存在であり、一撃で倒すことができる。そして倒した人間を藪の中に引き摺り込み、わずか数日のうちに食べ尽くしてしまう。今回の奥多摩町での個体もそうですが、いったん人肉の味を覚えてしまったクマは『人食いグマ』へと豹変してしまうわけです」
となれば、登山などでの携行が推奨されているクマ鈴など逆効果。人食いグマにとって、クマ鈴の音は「獲物の接近を知らせるシグナル」になってしまうからだ。
(石森巌/ジャーナリスト)

