ジョージ・ルーカスが、『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』などの権利を含め、それらを制作してきたルーカスフィルムを売却したのが、ほぼ13年前の2012年10月30日。配信サービスのディズニープラスが全米などでサービスを開始したのが2019年。さまざまな配信シリーズがはじまったなかで、その主力作品となったのが実写ドラマシリーズの「マンダロリアン」。現在までに3シーズンを終えているが、4シーズンの制作に“待った”がかかり、映画版として『スター・ウォーズ/マンダロリアン&グローグー』が5月22日、日米同時に劇場公開される。この新作映画は『スター・ウォーズ』シリーズのファンの期待を裏切らない。特に、ベビー・ヨーダ (グローグー) の成長を見届けることができるのが、この映画の見どころ。このコラムではこの映画の展開が匂わせる『スター・ウォーズ』ユニバースの奥の深さに焦点を当ててみた。
ヨーダ、その面影を宿すグローグー
映画『スター・ウォーズ/新たなる旅立ち (エピソード 4) 』の主人公ルーク・スカイウォーカーが、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲 (エピソード5) 』(1980) で出会うのが、ジェダイ・マスターのヨーダ。ルークは、自らがジェダイの騎士として戦うために、バランスやセルフ・コントロールなど、あらゆるトレーニングを受ける。ヨーダはルークに「覚えておけ。ジェダイの強さはフォースから流れ出るものだ。Remember, a Jedi’s strength flows from the Force.」と説き、ルーク・スカイウォーカーがジェダイになるための心得を伝える。
そんな全てを知り尽くしていたヨーダを思わせる幼い存在 (年齢は50歳という設定の)グローグーの姿に、『スター・ウォーズ』ファンは新しい希望を託さずにはいられない。実写ドラマシリーズ「マンダロリアン」のクリエイター、ジョン・ファヴローはもともとスター・ウォーズの大ファン。『アイアンマン』(2008) 、『ジャングルブック』(2016) とヒット作で勢いのあったファヴローが、長年ジョージ・ルーカス作品をプロデュースしてきたキャスリーン・ケネディに、『スター・ウォーズ』に登場するマンダロリアン一族に焦点をあてたドラマ案件をピッチしたのが2017年。ケネディはルーカスフィルムのアニメシリーズを立ち上げてきた監督兼プロデューサーのデイヴ・フィローニも同じ案を提案しているので協力してはと、2人を引き合わせた。このパワーデュオのおかげで、ベビー・ヨーダ (グローグー) のキャラクターが生まれたのだそうだ。
最初は「ベビー」「ザ・チャイルド」などと呼ばれていたグローグー。赤ちゃんの鳴き声のような声しか出さない「ザ・チャイルド」の言葉を理解できたのが、ドラマのシーズン2で、元ジェダイ騎士アナキン・スカイウォーカーのパダワン (弟子) だった、ジェダイのアソーカ・タノ。彼の名は「グローグー」よ! と告げられたマンダロリアンのディン・ジャリンが、かすれた声で「グローグー?」と聞き返すと、「ザ・チャイルド」が振り向き、大きな目を見開いて、嬉しそうに喜びの声を放つシーンはなんとも愛らしかった。ディン・ジャリンは、もとは両親と離れ離れになった孤児。マンダロリアン一族に拾われて、戦士としての訓練を受けて一人前になった身だが、一族が滅びた後、数々の危ない橋を渡る賞金稼ぎとして生き延びてきた。
「マンダロリアン」の設定は帝国が崩壊した新共和国 (ニューリパブリック)の時代と同じで、スター・ウォーズの年表上の9ABY頃。それは映画『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還 (エピソード6) 』(1983) の約5年後にあたる。新共和国が設立したものの、荒れた銀河の辺境地では、悪人が暴れ回るなど、銀河系は無法地帯だった。主人公のマンダロリアン、ディン・ジャリンは、請け負った賞金稼ぎの案件で運命的に「ザ・チャイルド」と出会ったときから、心が揺れ動く。「ザ・チャイルド」を悪人に渡せずに、彼の身を守ったことから2人のドラマが始まる。あらゆる試練の中で、ミステリアスな「ザ・チャイルド」のもつフォースを目の当たりにするマンダロリアン、ディン・ジャリン。ドラマシリーズはその「ザ・チャイルド」グローグーを、保護・育成し、彼の本来の居場所や仲間を見つけるという目的で銀河を旅し、2人の親子のような関係が浮かびあがり、小池一夫原作の『子連れ狼』を彷彿とした人も多いはず。
『スター・ウォーズ』シリーズの創造主であるジョージ・ルーカスは、ジョン・W・キャンベルの描き出すSF神話への造詣が深く、さらには黒澤明監督作品の大ファンであり、オビ=ワンやパドメ・アミダラなど、人物名や衣装など日本文化に影響を受けていた。「マンダロリアン」のジョン・ファヴロー監督は、アメリカの西部劇、そして日本の時代劇に傾倒していて、それらを参考にしながらドラマシリーズ「マンダロリアン」を構築していた。その際に、ファヴローが音楽を依頼したのがスウェーデン出身の若手作曲家ルドウィック・ゴランソン。ゴランソンは今ではマーベル初のアカデミー賞受賞作『ブラックパンサー』(2018) や去年のアカデミー賞作曲賞も受賞している『罪人たち』でライアン・クーグラー監督とのコラボほか、クリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』(2023) での映画作曲も手がけるなど、現在のハリウッド映画音楽をリードする。
ゴランソンがファヴローに出会った際、いかにジョン・ウィリアムズの音楽的世界を崩さずに、新たなスター・ウォーズ世界の音楽を作り出すかに頭を悩ませたそうだ。すでにドラマシリーズを見ていた人なら、マンダロリアンの笛の音や、グローグーが登場するシーンで使われる、小さな魂を包むような神秘的なテーマ音楽など、ファンにとってはすでにお馴染みの美しい楽曲を生み出したゴランソン。今回の映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』では、ドラマシリーズで聴き慣れた曲のほかに、インディ・ジョーンズのような活劇を盛り上げるメロディや、80年代のポップなサウンドを思い起こす楽器の選択など、スペースオペラ音楽の新しい境地を生み出している。
たくさんのお宝が隠された映画
映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』はドラマシリーズを見ていなくても単独で成立しているが、スター・ウォーズ・ファンにとっては、過去作の小さな目配せがあちらこちらに見え隠れしていて、たくさんのお宝が隠されている。それはドラマシリーズのクリエーター集団がいかにスター・ウォーズを観て映画監督になりたいと思ったかが反映されている証。彼らの遊び心は、ルーカスのビジョンを忠実に受け継いでいる。
その筆頭であるジョン・ファヴロー監督は、ディズニープラスのドキュメンタリーシリーズ「ディズニー・ギャラリー/ スター・ウォーズ:マンダロリアン シーズン1」でドラマシリーズにかかわった監督たちとの座談から、おもしろい裏話を聞き出している。何が彼らをクリエイターに導いたのか。それぞれの経歴は違っても、スター・ウォーズに魅了されて、今の自分があるという監督たち。ジョン・ファヴロー監督と同じく、ジョージ・ルーカスから、おそらく最も高い信頼を得ているデイヴ・フィローニ監督の話は格別。
彼の経歴はおもしろい。映画『スター・ウォーズ/シスの復讐 (エピソード3) 』(2005) 公開時に開催された「スター・ウォーズ・コンベンション」で、ジョージ・ルーカスが、次回作は『シスの復讐 (エピソード3)』と『新たなる希望 (エピソード4)』の間の物語を描いた実写ドラマシリーズ企画『Star Wars:Underworld(原題)』を制作することを発表。しかし、大人向けの内容であることや、実写テレビドラマシリーズであることで莫大な制作費が予想されるなどの問題が発生し、企画は保留され実現しなかった。しかしその内容が、さまざまな経過を得て3DCGアニメのテレビシリーズとして再浮上した。当時、ケーブルTVのニコロデオンで放映し、大ヒットした「アバター 伝説の少年アン」の第一シーズンのエピソードを監督したフィローニが、2008年に『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』という『スター・ウォーズ』初の3DCGアニメ映画の監督に抜擢された。そのあと、同作のTVシリーズ (シーズン1からシーズン7) の制作総指揮として、長期で奥行のあるスター・ウォーズの世界観を作り出してきた彼の偉業はすごい。私は全て見れていないが、中には1シーズンに22エピソードもあるほどの壮大な内容で、あらゆる銀河系,大小さまざまなキャラクターやそれぞれの言語が飛び交う、ある意味、スター・ウォーズの辞書のようなボリューム。
当初、キャラクターのデザインやビデオゲームのような戦いのシーンが一般受けしなかった3DCGアニメシリーズにも見えたが、その一つ一つの銀河系を追いかけていた『スター・ウォーズ』ファンは大勢いる。映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』の中には3Dアニメシリーズ『スター・ウォーズ 反乱者たち』の主要キャラクターがサプライズ登場しているシーンもある。この部分はネタバレになってしまうが、帝国(インペリアル) の圧政に反抗する仲間が乗り組む宇宙船(ゴースト)の乗組員の中にいるレジスタンスの戦士ゼブが新映画で登場すると、私が参加した試写会場では歓声が上がるなど、過去作のなつかしいキャラクターを思い出させるシーンに、感嘆や拍手があがっていたのも、この映画が成功している証拠ではないだろうか。
だいぶ古い記事だが、SciFiNowの2011年のTVシリーズ「クローン・ウォーズ」シーズン3のインタビューを読むと、デイヴ・フィローニとジョージ・ルーカスが2人で同時にインタビューに答えている。ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズのユニバースは、宇宙とフォースという、特別なエネルギーの神秘的な要素が物語の一面になっているが、アニメシリーズを見れば、映画はスター・ウォーズ・ユニバースの氷山の一角であることがわかるはずだ。」と答えている。
フィローニ監督は「クローン・ウォーズ」について、「『スター・ウォーズ』シリーズで作られた全登場人物にフルアクセスできるのはとても楽しい。オビ=ワンの言葉を借りれば、「私たちがしがみついている真実の多くは、自分自身のものの見方に大きく左右される」――“Many of the truths we cling to depend greatly on our own point of view.” ということだ。だから、これまで伝えてきた視点から遠のき、今まで語ってきたシリーズ、そして、映画の物語をあらゆる角度で広げ、ファンが愛したキャラクターに再度、焦点を写し、彼らのこれまで語られなかった背景や生い立ちがいかにクローン・ウォーズと繋がっているかを深くほりさげると、スター・ウォーズの物語は底なしだということがより一層、明らかになったね。」と楽しそうだった。
「クローン・ウォーズ」を経て、「スター・ウォーズ 反乱者たち」が2014年に放送開始。そのアニメ総監督として原案に携わったデイヴ・フィローニが、「マンダロリアン」シリーズを成功させる上で、重要な人物となっていたことは明らか。ルーカスは、アニメーション作品でフィローニを見出したが、ルーカスの創造したユニバースを次世代に受け継いでいけるリーダー的存在であることを見抜き、まるで自らのパダワンかのように育てたのかもしれない。2026年1月に発表されたように、ルーカスフィルムのクリエイティブの代表 (チーフ・クリエイティブ・オフィサー) となったデイヴ・フィローニ。今後の『スター・ウォーズ』の世界観を指揮していくプレッシャーは計り知れない。しかし、彼が導いたフランチャイズの成功は、『スター・ウォーズ』の世界観を楽しんでいたからかもしれない。「マンダロリアン」の新共和国のパイロットTrapper Wolf役で劇中に登場したり、ドラマシリーズ「アソーカ」ではチョッパーというあだ名を持つC1-10Pの声も演じるほか、遊びのある演出ができるマルチ・タレントでもある。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け (エピソード9) 』(2019) 以来の新しい『スター・ウォーズ』映画を、楽しい家族映画として復活させたフィローニ率いるチームに今後も期待したい。
文 / 宮国訪香子
映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』
帝国が崩壊し、銀河は無法地帯と化していた。 どんな仕事も完璧に遂行する“孤高の賞金稼ぎ”マンダロリアン。そしてフォースの力を秘めたグローグー。 長く果てしない旅を続ける中で、固い絆に結ばれた二人を待ち受ける、壮大な冒険と驚くべき運命とは?
監督:ジョン・ファブロー
出演:ペドロ・パスカル、シガーニー・ウィーバー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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2026年5月22日(金) 日米同時公開
公式サイト mandalorian-grogu
