チャンピオンシップ(イングランド2部)のプレミアリーグ昇格プレーオフを巡って、前代未聞の「スパイゲート」騒動が英国サッカー界を揺るがしている。
サウサンプトンは準決勝でミドルスブラを破ってウェンブリー・スタジアムで開催予定の決勝に駒を進めていたが、複数クラブの練習を盗撮していた事実が発覚。EFL(イングランド・フットボールリーグ)の独立委員会は同クラブをプレーオフから追放し、さらに来季チャンピオンシップで勝点4剥奪という異例の厳罰を科した。なお同クラブに代わり、ミドルスブラの決勝進出も決定している。
スポーツ専門チャンネル『ESPN』がこの件について詳細を報じているが、それによれば、問題が発覚したのは5月7日。ミドルスブラがプレーオフ準決勝・第1戦に向けてロックリフ・ホールで練習を行なっていた際、クラブスタッフが木の陰に隠れてセッションを撮影している人物を発見した。その人物は逃走後、近くのゴルフ場で服を着替えて立ち去ったという。後にそれが、サウサンプトンのトップチーム分析部門のインターンであると判明し、ミドルスブラ側が通報し、これを受けたEFLは即座に調査を開始した。
9日に行なわれた第1戦は0-0で終了したが、ミドルスブラのキム・ヘルベリ監督は「チャンピオンシップの全クラブが怒るべきだ」と激怒。12日の第2戦直前には、サウサンプトン側が内部調査のため時間的猶予を要求したにもかかわらず、試合は行なわれ、延長戦の末にサウサンプトンが2-1で勝利した。
試合後、ヘルベリ監督は涙ながらに「もし、彼らの送り込んだ人間を捕まえていなければ、皆は『(サウサンプトンは)戦術面で素晴らしかった』と言っただろう。そして私は、自分が失敗したように感じていただろう」と語り、「全てを分析する代わりに、誰かを送り込んで練習を盗撮するなんて、私の信じるフットボールを破壊する行為だ」と強く非難している。
そして翌13日、盗撮を行なっていた分析担当者の写真が流出。EFLの独立委員会は調査を進めた結果、サウサンプトンがミドルスブラだけでなく、オックスフォードやイプスウィッチの練習も盗撮していたと認定した。2019年にリーズのマルセロ・ビエルサ監督がダービーの練習を偵察した「スパイゲート」事件後に導入された規定では、対戦72時間以内に相手クラブの練習の観察を禁じており、今回の処分はその新規定に基づくものとなった。
『ESPN』は、「サウサンプトンのシーズンは不名誉の中で崩壊した」と表現。ウィル・スティル前監督体制で開幕13試合2勝と低迷していたチームを、U-21監督だったトンダ・エッカートが立て直し、一時は「奇跡の快進撃」と称賛されていたが、最後は最悪の形で幕を閉じた。
英国の日刊紙『The Guardian』によれば、この問題は、クラブ内部にも深刻な亀裂を生みつつあるという。選手たちは、プレミアリーグ昇格の機会を失ったため、(昇格すれば)得られるはずだった昇給やボーナスが消滅したとして、法的措置を検討しているという。ロッカールームでは、クラブへの怒りが広がっており、選手たちがPFA(プロ選手協会)に相談する可能性もあると報じられている。
同メディアはまた、サウサンプトン側が「処分は不釣り合いだ」として控訴しているとも伝えている。ただ、今回の件では2024年パリ五輪でカナダ女子代表がドローンを使ってニュージーランド代表の練習を偵察し、ベブ・プリーストマン監督らが1年間の資格停止処分を受けた前例も存在するため、エッカート監督や盗撮を行なった分析担当インターンのウィリアム・ソルト氏らに対し、FAから追加処分が科される可能性も示唆した。
今回の騒動について、クラブ専門サイト『SAINTS MARCHING』は「クラブ史に残る屈辱」と断罪。「EFLの決定は、クラブを壊滅させる」と綴り、プレミアリーグ昇格による莫大な収入を失っただけでなく、主力選手や指揮官流出の危険性、さらにはクラブ全体の評判失墜を懸念している。
そして、「責任者の首が飛ばなければならない」として、スパイ行為を承認した人物を特定する内部調査を要求。「ルールは明確であり、クラブはそれを無視した。得られた利益は小さく、失ったものはあまりにも大きい。特に『競技の誠実性』を失ったことは致命的だ」と厳しく批判した。
加えて、「ファンは裏切られた」と強調。プレーオフ準決勝勝利の歓喜も、エッカート就任以降のドラマチックな復活劇も、「今となっては何の意味もない」と嘆いた上で、「実際に偵察に行かされた人物ではなく、それを命じた“愚かな不正者”こそが責任を負うべきだ」と怒りを露わにした。
現時点では、5月23日にミドルスブラ対ハルの決勝開催が予定されているものの、サウサンプトンの控訴結果次第では日程変更の可能性も残されており、EFL全体が異例の混乱に包まれている。今回の「スパイゲート」は、単なる不正行為の枠を超え、イングランド・サッカー界の競技倫理そのものを問う大事件へと発展している。
構成●THE DIGEST編集部
【画像】2025-26シーズンのプレミアリーグを彩ったスター選手30人――ライス、サカ、ウーデゴー、ハーランド、ドンナルンマ、B・フェルナンデス、ファン・ダイク、三笘薫
【記事】「それでも何かを起こすかもしれない」日本代表のW杯メンバー発表、海外ファンも大注目「ミトマがいなくても、やっかいな存在になる」「ナガトモは信じられない」
【画像】日本代表W杯メンバー決定! 久保建英、堂安律、中村敬斗、鎌田大地、上田綺世、伊東純也、佐野海舟、伊藤洋輝、鈴木彩艶ら26人の顔ぶれ

