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脳へ電気を送るコンタクトレンズで「うつ病が緩和」ーーマウス研究で実証

脳へ電気を送るコンタクトレンズで「うつ病が緩和」ーーマウス研究で実証

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

うつ病の治療と聞くと、薬やカウンセリング、あるいは専門機器による脳刺激を思い浮かべるでしょう。

しかし近い将来、目に装着するコンタクトレンズが、気分に関わる脳回路へ働きかける時代が来るかもしれません。

韓国・延世大学校(Yonsei University)を中心とする研究チームは、微弱な電気刺激を脳に送るスマートコンタクトレンズを開発し、うつ病のような状態にあるマウスで行動の改善を確認しました。

この研究では、コンタクトレンズに組み込んだ微小電極から網膜を通じて脳へ信号を送り、気分調節に関係する神経回路を刺激することを目指しています。

研究の詳細は2026年5月20日付で学術誌『Cell Reports Physical Science』に掲載されました。

目次

  • 目は「脳への入口」になり得るのか?
  • 抗うつ薬に近い改善も、まだ人間には使えない

目は「脳への入口」になり得るのか?

私たちは普段、目を「ものを見る器官」と考えています。

しかし目の奥にある網膜は、光を電気信号に変換し、その情報を視神経を通じて脳へ送っています。

つまり目は、外界を見るための窓であると同時に、脳と直接つながる特別な入口でもあるのです。

この特徴を利用して、近年ではスマートコンタクトレンズの研究が進められてきました。

これまでにも、眼圧の変化を調べるレンズや、糖尿病患者のグルコース値を監視する実験的レンズなどが開発されています。

今回の研究がユニークなのは、コンタクトレンズを単なる「測定装置」としてではなく、脳に働きかける「治療用デバイス」として使おうとした点です。

研究チームが開発したレンズには、柔らかく透明な素材の中に微小な電極が組み込まれています。

この電極から、網膜を通じて弱い電気信号を送り、気分の調節に関わる脳領域を刺激する仕組みです。

用いられたのは「時間的干渉刺激」と呼ばれる方法です。

これは、わずかに異なる2種類の電気信号を同時に送り、その信号が重なった場所でだけ刺激効果が強く現れるようにする技術です。

研究者たちはこの仕組みを、2本の弱い懐中電灯の光が交差した場所だけ明るくなる様子にたとえています。

この方法なら、脳全体をむやみに刺激するのではなく、気分に関係する回路を比較的狙って働きかけられる可能性があります。

抗うつ薬に近い改善も、まだ人間には使えない

チームは、うつ病様状態を誘導したマウスに、このスマートコンタクトレンズを装着。

刺激は1日30分、3週間にわたって行われました。

そして、

・治療を受けないマウス

・抗うつ薬フルオキセチンを投与されたマウス

・コンタクトレンズ刺激を受けたマウス

を比較しました。

その結果、コンタクトレンズ刺激を受けたマウスでは、うつ病様行動の改善が確認されました。

しかもその改善は、抗うつ薬を投与された群と同程度だったと報告されています。

脳活動の面でも、うつ病様状態で弱まっていた海馬と前頭前皮質の結びつきが回復したとされています。

海馬は記憶や感情に関わる領域で、前頭前皮質は判断や感情制御に関わる領域です。

さらに、未治療のうつ病様マウスと比べて、血中コルチコステロンは48%低下し、セロトニン濃度は47%増加したと報告されています。

コルチコステロンはマウスなどでストレス反応に関わるホルモンで、セロトニンは気分調節と関係の深い神経伝達物質です。

またチームは、行動、脳活動、バイオマーカーを機械学習で解析しました。

その結果、コンタクトレンズ刺激を受けたマウスの特徴は、未治療のうつ病様マウスよりも健康な対照群に近いと分類されました。

ただし、ここで重要なのは、これはあくまでマウス研究だという点です。

人間のうつ病は、症状も原因も重症度も人によって大きく異なります。

実験室で誘導されたマウスのうつ病様行動を、人間のうつ病とそのまま同じものとして扱うことはできません。

また今回の方法は、正常な視覚活動が電気信号の伝達を妨げないよう、視覚が損なわれたマウスで試されています。

そのため、健康な網膜を持つ動物や人間にそのまま使える技術ではまだありません。

さらに、人間の目は焦点調節のために水晶体の形を変えます。

こうした動きが、角膜上のコンタクトレンズから送る信号を乱す可能性もあります。

安全性、装着性、感染リスク、長期使用時の影響、製造コストなど、実用化には多くの課題が残されています。

それでも今回の研究は、目を通じて脳に働きかけるという新しい治療戦略の可能性を示した点で注目されます。

うつ病治療の未来は、薬だけでも、脳に直接機器を埋め込む方法だけでもないのかもしれません。

参考文献

Brain ‘Zaps’ From Contact Lenses May Help Ease Depression, Mouse Study Shows
https://www.sciencealert.com/brain-zaps-from-contact-lenses-may-help-ease-depression-mouse-study-shows

元論文

Contact lens bioelectronic platform for non-invasive depression treatment with machine-learning-based evaluation
https://doi.org/10.1016/j.xcrp.2026.103303

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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