ラグビー日本代表の江良颯は、トップランナーと勝負している。
在籍するクボタスピアーズ船橋・東京ベイで、先頭中央にあたるフッカーの位置をマルコム・マークスと争う。
マークスはワールドカップ2連覇中の南アフリカ代表で長らく主軸を張り、昨年は国際統括団体のワールドラグビーから世界最優秀選手に選ばれた31歳だ。この身長189センチ、体重117キロと大きく、強く、よく動く現代の巨人へ、身長172センチ、体重106キロで大阪生まれの24歳が自分らしく挑む。
進行中の国内リーグワン1部の公式戦で地上の相手ボールに絡んだり、小気味よい突破とオフロードパスを繰り出したりしたある日、「影響」という言葉を繰り返した。
「チームに、マルコムとは違う影響を与えられると思っています。(相手に)クボタのフッカーは嫌な選手が多いなと相手に思われるようにしたいです。(マークスの)パワーなどの持っているものは全然、違う(別格)。ただ、僕はスピード、運動量、セットプレー(スクラムワークなど)でいい影響を与えたいです」
最初は思い通りではなかった。
昨季は国際舞台にデビューし、特に夏場のパシフィック・ネーションズカップでは全4戦に先発して準優勝するまで献身した。
秋のキャンペーンでは、オーストラリア代表との初戦において好タイミングで相手に刺さってそのままひっくり返すタックルを披露。僅差で迎えた試合終盤のこととあり、スタンドを沸かせて手応えを掴んだ。
「うまいこと、(走者が)来たところに入れた。あの(ノーサイドが近づいていた)時間帯で、何か流れを変えないといけない時、思い切って前に出て狙っていった感じです」
もっともこの一戦を15―19で落とし、何よりまもなく故障離脱した。
その後の欧州遠征では、マークスのいる南アフリカ代表戦が控えていた。所属先の好敵手の前で価値を示すはずだった機会を、江良は母国で見守るしかなかった。
「怪我は悔しい。マインドが難しくなったところもあります。マルコムとお互いの代表を背負って試合がしたかった。本当にマルコムに勝ちに行きたかった…」
こう話したのは12月上旬。学生時代にデビューした年度を入れれば通算3度目となる国内シーズンを間近に控えていた。「今できることは、開幕戦に準備することだ」と気持ちを新たにする。
2メートル前後の大型フォワードに個性派のバックスを揃えた自軍の陣容へ「選手層の厚さはいままで以上。練習やプレシーズンの試合を見ていても、このチームが優勝に近いという自信があります」と頷き、自身もグラウンドに戻るや関係者を驚かせた。
8対8で組み合うスクラム練習で、対面にあたるマークスのプレッシャーをその場で抑え込んだようなのだ。
千葉県内の拠点で見られたというそのワンシーンについて、本人は慎ましく振り返る。
「いや、五分五分という形で」 レギュラーシーズン突入後もコンディションと向き合った。こまめに水分を口にし、電解質を身体に摂り入れるためのサプリメントを飲み、トレーニング後のケアも欠かさず計18戦中9度の出場機会を得た。スタメンは3度だった。
南アフリカ代表で就任10年目のフラン・ルディケヘッドコーチがライバルに信を置く状況であったとしても、東大阪市出身の若者は己に矢印を向ける。
5月10日。ホスト会場のスピアーズえどりくフィールドでリーグ最後の第18節があった。上位争いをするコベルコ神戸スティーラーズを相手に、2点リードの後半26分に投じられた。
19―24と勝ち越されて迎えた31分頃だ。交代前までマークスが苦しんでいたスクラムにおいて、ヒットの瞬間に鋭いプッシュ。ペナルティーキックをもぎ取った。試合はそのまま敗れたものの、スピアーズに江良ありを再認識させた。
件のスクラムについて成功の秘訣を聞かれれば、「まぁ、あんまり詳しいことは言わないですけど」。微笑みながら、明確な答えを持っていると匂わせた。
「前半や後半のスクラムを見ていって、『相手はこうされたら嫌やろうなぁ』をフロントロー(最前列の仲間)と話し合って、遂行しました」
オフには母校の帝京大へ顔を出す。相馬朋和監督と話し合った流れで、客員のスクラムコーチに就任したのだ。
自身の主将時代に3へ伸ばした大学選手権での連覇記録は、昨年度に4で止まっている。業界トップ級では最若手かもしれないスクラム専任指導者は、時には後輩のセッションに自ら混ざって知見を授ける。
それをアスリートとしての肥やしにもする。
「将来もスクラムコーチとしてやっていきたいし、母校を支えてあげたいとも考えています。自分ができるコーチングがどこまでなのかはわからないですし、ここからだと思いますが、皆にわかりやすく言語化してスクラムを伝えることで僕自身の頭も整理できる。アウトプットしたことが頭に残って、そのままインプットできる。成長、していけるかなと」
24日、東京・秩父宮ラグビー場でリーグワンのプレーオフ準々決勝に挑む。クラブにとって2022年度以来2回目となる日本一を目指す。オリジナルの「影響」をもたらす。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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