今回、そんな本作の見どころを語ってくれたのが、X(旧Twitter)ほかSNSで60万人以上の総フォロワー数を持ち、幻想的な廃墟写真などで世間を魅了する写真家toshiboだ。ゲームのような非日常の光景を記録した作品集「ゲーム旅」を発表し、自身もゲーム好きであることから「サイレントヒル」シリーズもプレイしてきたという。様々な廃墟をカメラに収めてきたtoshiboがおススメする『リターン・トゥ・サイレントヒル』の見どころとは?作品の感想を聞くと共に、最近撮影したという「サイレントヒル」のような景色も紹介してもらった。
■「奥行きのあるストーリー、考察の余地があるところがおもしろい」
ジェイムス(アーヴィン)は、最愛の妻メアリー(アンダーソン)を失い、失意の底で酒に溺れる日々を送っている。そんなある日、存在するはずのない妻から一通の手紙が届く。そこには“サイレントヒルで待っている”と書かれており、助けを求めている様子だ。かつて2人で過ごし、愛し合った町、サイレントヒルへと導かれるジェイムス。しかしそこは、いまや闇にのみ込まれ、不気味な霧が立ち込めていた。襲い来る異形の怪物たちを振り切り、メアリーを見つけようとするジェイムスだったが、しだいに彼の正気を揺るがす、ある“恐ろしい真実”と向き合わざるを得なくなる…。

toshiboが「サイレントヒル」に初めて触れたのは中学生の頃に遡る。「初めて手にしたのは『SILENT HILL4 THE ROOM』です。サイレントヒルが登場しない独特なシナリオなのですが、すっかり魅了されてそれまでのシリーズもプレイするようになりました。霧が立ち込めるサイレントヒルという街を探索するうちに、突如錆だらけの裏世界に迷い込んでしまうのがフォーマット。劇中に登場する廃墟の構造も印象的で、隣接する建物同士がつながっていました。普通だとありえないじゃないですか?この世界観もハマった理由ですね」。

続けて、シリーズならではの演出にも言及。「例えば、『バイオハザード』だと倒すべき敵ははっきりしていますよね。一方で、『SILENT HILL 2』は主人公を操作してサイレントヒルに消えた妻を捜索し続けることになり、どこに向かっているのかゴールがわからないんです。エンディングも複数用意されていて、解釈をプレイする人に委ねているところも特徴ですね。このような奥行きのあるストーリー、様々な考察の余地があるところがおもしろいです」。

■「映画化に合わせて筋道がより明確になっている」
本作を観た率直な感想については、「ジャンプスケアがあって超怖かった」と苦笑し、廃墟を撮り続けてきた写真家らしからぬ一面を見せる。「霊的なものは怖くないのですが、驚かされるのは苦手なんです(笑)。映画で印象的だったのは現在と過去が交互に映しだされたり、主人公が抱えている真実がゲームとは微妙に異なっている点です。ゲームだと主人公が自身の罪悪感に徐々に向き合っていく難解なストーリーなのですが、今回は筋道がより明確になっているようでした。そういう意味で映画化に合わせた新しい解釈だと感じます」と語る言葉通り、ゲームとの違いを比較するのもおもしろさであるようだ。
■「クリーチャーは主人公の深層心理を表している」
シリーズの魅力といえば、サイレントヒルに生息する異形のクリーチャーたち。頭から上体にかけてゴム状のもので覆われたような出で立ちで徘徊する“ライイングフィギュア”、角錐状の巨大な兜を被った人型モンスター“三角頭(ピラミッドヘッド)”、顔が醜く膨らみ、看護婦に似た姿で群れをなす“バブルヘッドナース”などなど。

これらクリーチャーたちのおぞましいビジュアル、その登場シーンには目を見張るものがあったようだ。「ライイングフィギュアにバブルヘッドナース、どれも最高でした。特にナースは、群れでピタッと制止している状態が不気味で…。そこからいつ動きだすのかという緊張感にハラハラしました。そしたらいきなり追いかけてきて、主人公たちがエレベーターに逃げ込むシーンもヤバかったですね」と口調にも熱がこもってくる。

さらに、クリーチャーに関する興味深い考察も。「ゲームだとサイレントヒルに現れるクリーチャーは、主人公の深層心理を表しているんですよ。なかなか冒涜的なビジュアルをしていると思うのですが、それは主人公のフェティッシュが投影されているのではないかと。また、人によっては別の怪物に見えているはずなので、そこも含めて映画ではどのような解釈になっているのか気になります」。

■「錆と血でぐちゃぐちゃの世界観が完璧」
写真家toshiboの視点で注目するのはやはり舞台美術だという。「道路脇の道から山道を下り、サイレントヒルへと向かっていく描写だけでもワクワクしました。そして、廃墟と化した町は鉄の錆と血でぐちゃぐちゃで。この世界観は完璧でしたね」。

撮影してみたい場所はあったか?と聞いてみると、「ジェイムスとメアリーが暮らしたアパート」という答えが。「シンプルで無機質な建物が好きなんですよ。部屋へ上がる階段を魚眼レンズ(?)で撮ったカットも印象的でしたし、過去と現在が映されるので、かつてきれいに整えられていた空間がぐちゃぐちゃになっているのがたまらなかったです!廃墟にはそこに住んでいた、利用していた人たちの物語が息づいていると思っています。もうあの頃の日常には戻れない。そんな感覚にも強く惹かれるのかもしれません」。
■「大勢で賑わっていたはずの寂しげな雰囲気が『サイレントヒル』っぽい」
全国津々浦々、ディープな場所を巡ってきたtoshibo。その原点が「サイレントヒル」にあるのでは?という質問に対し、「『サイレントヒル』に限った話ではないですがゲームは意識している」と説明する。「コロナ禍で外出できない時に、ゲームのフォトモードを使って写真を撮るのにハマったんです。“バーチャルフォトグラフィ”といって、戦闘シーンとかキャラクターのポートレートを収めるのですが、私の場合はもっぱら風景ばかり撮っていました。その影響もあって、実際に写真を撮る際の構図にも変化があったかもしれません」。

インタビューも終盤、toshiboから「最近、『サイレントヒル』みたい景色を撮ってきたんです」と切りだし、数枚の写真を見せてくれた。それは現在、根岸森林公園として整備された日本初の本格的な洋式競馬場「旧根岸競馬場一等馬見所」だった。

旧根岸競馬場一等馬見所とは、1866年に外国人居留地の人々のために建設されたのが始まりで、長く日本の競馬のメッカとして親しまれたという。関東大震災で創建当初の馬見所は崩壊し、1929年にアメリカ人建築家、J・H・モーガンの設計で現在の馬見所が建築されている。1943年に戦争の影響で閉鎖されることになり、長い年月を経て風化した姿は歴史の重みと崩壊の美しさが混在している。公園のなかに突如として現れる様は、まさに映画のようだ。

「かつて大勢で賑わっていたはずの見物席の寂しげな雰囲気。本当に『サイレントヒル』の裏世界っぽいですよね。錆びついた鉄、コンクリートの質感、空気感が驚くほど似ています。お気に入りはエレベーターの写真でバブルヘッドナースがいまにも襲ってきそう。ほかにも今回の映画に出てきそうな写真がいろいろ撮れました」。

toshiboを恐怖させ、クリエイターの感性を刺激した『リターン・トゥ・サイレントヒル』。荒廃した町の映像美に人間の狂気を具現化したおぞましいクリーチャー、そして主人公に訪れる恐ろしい結末をぜひその目で確かめてほしい。ちなみに、toshiboは徹底的に準備したうえで廃墟の撮影を行っている。間違っても遊び半分では行かないように。
取材・文/平尾嘉浩
※本記事に掲載の写真は横浜市の許可を得て撮影しています
