近年の研究で、アルツハイマー病と糖尿病を結びつけるカギとして「インスリン」の存在が注目されている。脳の働きと深く関わるインスリンに異常が起きると、記憶や学習機能に影響を与える可能性もあるというが、一体どういうことなのか。
『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』より一部抜粋、再構成してお届けする。
なぜアルツハイマー病は「第3の糖尿病」と呼ばれるのか
一般的に糖尿病といえば、血糖値が高くなる病気というイメージがあるでしょう。
しかし近年、世界中の研究者の間で、「アルツハイマー病を3つ目の糖尿病として、『3型糖尿病』と呼ぶべきではないか」という議論が活発に行われています。
なぜ脳の病気が糖尿病の仲間入りをするのでしょうか?
その鍵となるのが「インスリン」です。
私たちがよく知る糖尿病には、主に1型糖尿病と2型糖尿病があります。
1型糖尿病は、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンが体の中から失われ、血糖値が上昇する病気です。インスリンを作る工場(膵臓のベータ細胞)が破壊されてしまうイメージです。
一方で2型糖尿病は、インスリンが体内で作られてはいるものの、その量が不足していたり、あるいはうまく働かなくなったりして血糖値が上昇する病気です。
インスリン工場が老朽化して生産量が落ちたり、作ったインスリンが効きにくくなったりするようなイメージです。
1型も2型も、インスリンが発症の鍵となっています。
さて、ここからが本題です。
私が医学部で学んだ頃は、「インスリンの役割は、血液中の血糖値を下げることだ」と教わりました。
しかし1970年代後半あたりから、なんと「脳の中にもインスリンが存在する」ことが指摘され始めていたのです。
しかも脳の中でのインスリンの役割は、血糖値を下げることとはまったく異なります。
脳の中でインスリンは、「学習」や「記憶」を司る脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、脳神経細胞そのものを保護したりする、極めて重要な働きをしていることがわかってきたのです。
さらには、脳内のインスリンは記憶や学習をスムーズにすすめるだけでなく、アミロイドβなどによる攻撃から脳神経細胞を守る役割も果たしています。
インスリンが脳の中でその力を十分に発揮できていれば、脳神経細胞が守られ、アルツハイマー病は発症しにくい、あるいは進行しにくいということになります。
血液中の血糖値が上昇する「糖尿病」も、脳の機能が低下する「アルツハイマー病」も、ともに「インスリンが十分な力を発揮できない」という、まさにインスリンの異常が根本的な原因として深く関わっていることが明らかになったのです。
こうした最新の科学的知見から、従来の1型、2型に続いて、アルツハイマー病を「3番目の糖尿病」、すなわちインスリンが影響して引き起こされる症状の仲間として「3型糖尿病」と位置づけるべきではないか、という考え方が提唱されるようになりました。
この3型糖尿病の前段階として、糖の影響で毒されつつある脳こそが、私が「糖毒脳」と呼んでいる状態です。
糖は私たちにとって「ガソリン」みたいなもの
アルツハイマー病と糖尿病は、インスリンという共通の要因が接点となって深く関係しているとおわかりいただけたでしょうか。
このインスリンを作り出すのが膵臓です。膵臓の「疲れ」がインスリンの作用不全を引き起こし、やがて脳の健康にも影響を及ぼします。
この膵臓に大きな悪影響を与えてしまうのが、私たちの食生活、とくに糖の過剰摂取なのです。
次は、そのメカニズムを具体的に見ていきましょう。
インスリンは膵臓に存在している「ベータ細胞」という特別な細胞によって作られ、血液の中に放出されます。
ベータ細胞は食事の量に応じた量のインスリンを分泌します。より正確に言えば、食事に含まれる「糖」の量に応じてインスリンが分泌されます。
食べ物の三大栄養素は、タンパク質、脂質、そして糖です。この三つの栄養素は、私たちの体を作り、体を動かすエネルギーの源となります。
タンパク質は主に体の「部品」となり、脂質もまた細胞膜などの「部品」を構成します。
その上で、タンパク質も脂質も、体を動かすエネルギー源、つまり「燃料」として使うこともできます。
なかでも、エネルギー源として最も効率が良いのが糖です。
燃料には木炭や石炭、灯油などがありますが、いちばん効率が良いのはガソリンですよね。ちょっと乱暴なたとえですが、タンパク質や脂質を石炭や灯油だとするなら、糖はまさにガソリンです。
ガソリンがないと自動車が動かないように、糖がないと体もしっかりと動きません。これが、糖質制限をおすすめしない理由でもあります。
文/下村健寿

