
「若々しい高齢者」は、社会から好かれるのでしょうか。
カナダのトロント大学(University of Toronto)の研究チームは、人々が「若い気持ちの高齢者」にどんな本音を抱いているのか調べ、その答えが単純ではないことを発見しました。
自分を若く感じている高齢者は、健康的で活動的に見られることがある一方で、「年齢相応ではない」と受け取られると、かえって好感度や交流したい気持ちが下がる可能性があるのです。
研究の詳細は2026年、学術誌『Psychology and Aging』にオンライン掲載されています。
目次
- 高齢者の「若々しさ」は本当に歓迎されるのか?
- 「若々しさ」は有能にみられるが、「年相応ではない」と好感度が低下する
高齢者の「若々しさ」は本当に歓迎されるのか?
年齢には、実年齢と主観年齢があります。
実年齢は、生まれてから何年経ったかを示す年齢です。
一方、主観年齢は「自分では何歳くらいに感じているか」という心の中の年齢です。
同じ65歳でも、「年相応に65歳くらい」と感じる人もいれば、「自分は45歳くらいの感覚だ」と感じる人もいます。
これまでの研究では、実年齢より若く感じている高齢者ほど、健康状態や幸福感が良い傾向があると示されてきました。
そのため、「若い気持ちでいること」は基本的に良いことのように見えます。
しかし今回の研究チームは、ここに別の視点を持ち込みました。
若い気持ちを持つことは本人には良い影響を与えるとしても、周囲の人々がそれを同じように好意的に受け止めるとは限りません。
そこで研究チームは、「若く感じている高齢者」に対して、人々がどのような印象を抱くのかを調査しました。
研究チームは、2つの実験を通じて、若年成人や中年成人がこうした高齢者をどう評価するのかを調べています。
実験では、参加者に架空の高齢者についての短いプロフィールを読んでもらいました。
その人物は65歳または75歳に設定され、主観年齢は実年齢と同じ場合、20歳若い場合、40歳若い場合に分けられました。
たとえば、75歳だが自分を55歳くらいに感じている人物や、65歳だが25歳くらいに感じている人物など、主観年齢の差が小さい場合と大きい場合が比較されます。
そして参加者はその人物について、温かい人か、有能そうか、どれくらい好感を持つか、一緒に交流したいかを評価しました。
また、その人物がどれくらい「年相応」から外れて見えるかも評価しました。
こうした調査の結果、若く感じている高齢者への評価は、単純に「好意的」または「否定的」とは言い切れないものだと分かりました。
では、人々は「若々しい高齢者」にどんな複雑な感情を抱いていたのでしょうか。
「若々しさ」は有能にみられるが、「年相応ではない」と好感度が低下する
第1の実験では、18歳から34歳の若年成人213人が参加しました。
参加者は、65歳または75歳の高齢者についての説明を読み、その人の印象を評価しました。
その結果、実年齢より20歳または40歳若く感じている高齢者が、有能そうに見られる面が確認されました。
つまり、若い主観年齢は「賢そう」「自立していそう」「しっかりしていそう」といった評価につながる場合があったのです。
一方で、その人物が「高齢者らしさから外れている」と見なされるほど、温かさ、好感度、交流したい気持ちは低くなりました。
第2の実験では、参加者を672人に増やし、335人の若年成人と337人の中年成人を対象にしましたが、同様の結果が得られました。
こうした結果は、人々が若々しい高齢者を一概に否定しているわけではないことを示しています。
少なくとも今回の実験では、活動的で健康的に見える高齢者には好意的な評価も向けられていました。
しかしその若々しさが、「高齢者は年相応に振る舞うべきだ」という暗黙の期待から大きく外れているように見えると、反発が生まれることがあります。
これは、年齢差別を考える上で重要です。
高齢者に対する偏見は、「弱い」「遅い」といった否定的なイメージだけで生まれるわけではありません。
むしろ、「高齢者ならこの範囲に収まっていてほしい」という見えない期待からも生まれます。
その期待を外れた高齢者は、たとえ健康的で有能に見えても、「年齢の境界を越えている」と受け取られる可能性があるのです。
参考文献
Our Perceptions of Older Adults Who Do Not Act Their Age
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-asymmetric-brain/202605/our-perceptions-about-older-adults-who-do-not-act-their-age
元論文
Celebrate or derogate? Reactions to older adults who feel young at heart.
https://psycnet.apa.org/record/2027-66386-001
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

