SNSに流れてくる“腹筋ショット”を見て、ダイエットの成果か、フィットネスが日課か、と思う人がほとんどだろう。だがその腹筋の持ち主・陣在ほのか(27)は、壁を越え、ロープを登り、砂漠の暗闇の中を四つんばいで進み、その肉体を作り上げた。世界で最も過酷な障害物レースであるスパルタンレースの日本女子1位、アジアで2位になった実績を持つマルチアスリートである。
日本体育大学陸上部出身の800m選手が、競技転向からわずか数年でアジアの最高峰の舞台に立った。そんな彼女の正体とは。
累計参加者600万人超を掲げる、世界最大級の障害物レース
──スパルタンレースをはじめた経緯を教えてください。
陣在ほのか(以下同) 大学卒業後にクロスフィットのジムに行き始めて、そこで「陸上やっていたなら、スパルタンレースに出てみない?」って言われたのがきっかけです。本当に軽い気持ちで出始めました。
中学から大学まで10年間陸上をやってきて、大学でも関東の新人戦2位からスタートしたんですけど、その後は怪我が続いて。アキレス腱を痛めて、復帰したらすぐ疲労骨折して、大腸炎にもなって。精神的にも肉体的にもきつい時期でした。
そこにコロナ禍が来て、最終学年で出場する大会がほぼ全部なくなってしまって。引退レースもないまま終わった、という感じです。走ることで自分を表現していたので、不完全燃焼感がありましたね。それが後押しした部分もあると思います。
それに女子の800m走って、陸上競技の中で世界から一番遠い種目なんです。日本記録が世界大会の参加標準記録ぐらいのレベルで、オリンピックで戦うのはまず無理。だったら、知名度が低くてもいいからアジアや世界でナンバーワンになれる場所が面白そうだと思ったわけです。
──そもそもスパルタンレースとはどんな競技なんでしょう?
世界40カ国・累計参加者600万人超を掲げる世界最大級の障害物レースです。壁越え、ロープクライム、重量物運搬、槍投げなど20〜30種類の障害物を乗り越えながら最大21km以上を走り抜く、まさに“大人のサバイバル競技”ですね。
障害物をクリアできなかったらバーピージャンプのペナルティがあって、足が速いだけでも、力が強いだけでも勝てない。毎回コースも天候も違うので、同じレースが二度とないのも面白いところです。
爪がはがれる! 「死」を意識する過酷なコース
──最初に走った時の感覚は?
これまで走っている自分しか知らなかったから、そうじゃない自分を見つけた時、すごい楽しかったです。今までは足を怪我して走れなくなったら、もうこの世の終わりと落ち込んでいましたけど、スパルタンをやってからは、足が痛くて走れないなら、重いものを持つトレーニングとか、ぶら下がるトレーニングができるって思えるようになって。メンタル的にも病まなくなりましたね。
──しんどくはなかったですか?
しんどいけど、しんどいことして生きてきたんで(笑)。中距離走をやっているときから、しんどいことが当たり前というか。「まあ、こんなもんだろうな」っていう感覚で。それより、足が速いだけじゃ勝てないっていうのがすごく面白いなと思いました。身体の使い方だったり、いかに楽に速く動けるかっていう、ちょっと武術にも通じる部分が問われているんですよね。
──海外レースの話も聞かせてください。アブダビの世界大会が特にきつかったと聞きました。
あれはちょっと「死」を感じましたね。21kmのコースで、砂漠なのでそもそも全然走れない。しかも靴に砂が入って爪ははがれるし。スタートが暑さを避けた遅い時間帯なので、走っている途中で真っ暗になってくるんですよ。街灯も何もない砂漠を、ヘッドライト1つで進んでいく。高低差がすごくて、四つんばいで登らなきゃいけない場所もあって。「これ、帰れるかな」と恐怖を感じました。
──海外レース全般、過酷そうですね。
ハワイでは「この川、死んでるやろ」みたいな臭い川に胸の深さまで入らされたり、台湾では野犬に吠えられ、襲われそうになったりしたこともありましたね。ケガも多く傷口から感染症になったら最悪なので、破傷風のワクチンを事前に2回打って出ています。

