
恐竜界の王者といえば、多くの人がティラノサウルス・レックス、通称「T. rex」を思い浮かべるでしょう。
しかしこのほど、白亜紀の海にいた別の「T. rex」が、新たに古生物界に仲間入りしたようです。
アメリカ自然史博物館(AMNH)らの研究チームは、米国テキサス州北部で見つかっていた約8000万年前の化石を再調査し、モササウルス類の新種を発見しました。
そして、この新種には「ティロサウルス・レックス(Tylosaurus rex)」 との学名が付けられたのです。
研究の詳細は2026年5月21日付で『Bulletin of the American Museum of Natural History』に掲載されています。
目次
- 博物館に眠っていた化石の正体は?
- 「海のTレックス」は、同種同士でも争う荒々しい捕食者だった
博物館に眠っていた化石の正体は?
モササウルス類は、恐竜が繁栄していた白亜紀の海に生息していた大型の海生爬虫類です。
魚やアンモナイト、ほかの海生爬虫類などを捕食していたと考えられ、当時の海の食物連鎖の上位にいた存在です。
今回の発見は、まったく新しく地層から掘り出された化石ではなく、博物館に収蔵されていた標本の見直しから始まりました。
チームは、アメリカ自然史博物館の研究用コレクションにあったモササウルス化石を調べている際、それが従来考えられていた ティロサウルス・プロリゲル(Tylosaurus proriger) とは少し違うことに気づきました。
T. プロリゲルは19世紀から知られている有名なティロサウルス類です。
しかし、問題の標本をT. プロリゲルの基準となるホロタイプ標本と比較したところ、単なる個体差や成長段階では説明しにくい特徴が見えてきました。
さらにチームは、他の研究機関に所蔵されていた十数点以上の似た標本も調査。
その結果、これらは従来のT. プロリゲルではなく、別の新種としてまとめられるべきだと判断されたのです。
そうして新たに記載された新種ティロサウルス・レックス(=海の暴君)は、全長が約7.6メートルから最大約13メートルに達したと推定されています。
最大級の個体はスクールバスほどの長さであり、既知のモササウルス類の中でもかなり大型の部類に入ります。
また、ティロサウルス・レックスの多くが現在のカンザス州から見つかり、約8400万年前のものとされるのに対し、今回のT. rexの標本は主にテキサス州産で、約8000万年前のものです。
つまり、場所も時代も少し異なる大型のティロサウルス類が、長いあいだ別種として認識されずにいたことになります。
「海のTレックス」は、同種同士でも争う荒々しい捕食者だった
ティロサウルス・レックスという名前は非常にキャッチーですが、この動物はティラノサウルスの仲間ではありません。
陸上のティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)が恐竜であるのに対し、ティロサウルス・レックス(Tylosaurus rex)はモササウルス類という海生爬虫類です。
ただし「王」と呼びたくなるだけの迫力は十分にありました。
新種T. rexの化石には、強い顎や首の筋肉に関係する特徴が見られます。
これは、獲物に噛みつく力や、噛みついた相手を押さえ込む力に優れていた可能性を示しています。
さらに、T. rex には細かな鋸歯を持つ歯がありました。
ただし、ここで注意したいのは、「頭蓋骨を砕く噛む力が実測された」といった話ではないことです。
確実に言えるのは、顎や首の筋肉の発達を示す骨格上の特徴があり、強力な捕食者だったと考えられる、という範囲です。
それでも、この新種がかなり荒々しい動物だった可能性は、化石の損傷からもうかがえます。
ペロー自然科学博物館に所蔵されている「ブラックナイト」と呼ばれる標本では、吻部(ふんぶ)の先端が失われ、下顎にも骨折が見られます。
研究者たちは、このような損傷が同じT. rexの個体によって引き起こされた可能性が高いと考えています。
つまりT. rexは、獲物を襲うだけでなく、同種同士でも激しい争いをしていたかもしれないのです。
巨大な体、強い顎、鋸歯のある歯、そして同種間闘争の痕跡。
これらを合わせると、ティロサウルス・レックスは白亜紀の海で非常に存在感のある頂点捕食者だったと考えられます。
新種の発見は、テキサスの古代海洋生態系の重要性を示すと同時に、博物館の棚に並ぶ化石が、今もなお新しい物語を語り出すことを教えてくれます。
参考文献
Ancient seas get a new T. rex as massive mosasaur emerges from Texas fossils
https://phys.org/news/2026-05-ancient-seas-rex-massive-mosasaur.html
There’s a new T. rex from the dinosaur age — and it ruled the seas with a skull-crushing bite
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/theres-a-new-t-rex-from-the-dinosaur-age-and-it-ruled-the-seas-with-a-skull-crushing-bite
元論文
A gigantic new species of Tylosaurus (Squamata, Mosasauridae) from Texas : and a revised character list for phylogenetic analyses of Mosasauridae (Bulletin of the American Museum of Natural History, no. 482)
https://doi.org/10.5531/sd.sp.84
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

