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没入感の高いゲームクリア後の喪失感は測定可能な心理現象だった

没入感の高いゲームクリア後の喪失感は測定可能な心理現象だった

Credit:Open AI,ナゾロジー編集部

夢中になっていたゲームをクリアした後、胸にぽっかり穴が空いたような感覚を覚え、その後何日もその世界のことを考えてしまう、そんな経験をした人は多いのではないでしょうか?

別のゲームを始めても気分が乗らず、「もう一度、記憶を消してあのゲームを遊びたい」という感覚は、出来の良いゲームを遊んだ後ほど浮かんできます。

こうした感覚は、世界的にゲーマーの間で語られており、海外のコミュニティではこれを「ポストゲーム・デプレッション(post-game depression)」と呼んでいます。

これは日本語に訳すと、「ゲーム終了後うつ」や「ゲームクリア後の空虚感」と表現できます。

ビデオゲームは現在、テレビやソーシャルメディアに次いで世界的に人気のある余暇活動とされ、6〜64歳の53%が定期的にゲームをしていると報告されています。

それほど多くの人がゲームに触れているにもかかわらず、ゲームを終えた後に生じる感情の変化は、これまで十分に研究されてきませんでした。

そこで、ポーランドのSWPS大学(SWPS University)人格発達研究センターに所属するカミル・ヤノヴィチ(Kamil Janowicz)氏ら研究チームは、没入感の高いゲームを終えた後の空虚感を心理学的に測定できるか調べてみました。

研究チームは、プレイヤーの感情を数値化して調べるための質問票「ポストゲーム・デプレッション尺度(Post-Game Depression Scale)」を新たに開発し、この現象がどのような心理的特徴を持つのかを検証しました。

するとこの現象は、実際心理学的にも測定が可能であり、主に4つの要素から説明できることが明らかになったのです。

この研究の詳細は、2026年1月付けで学術誌『Current Psychology』に掲載されています。

目次

  • ゲームの終わりは、ただの「遊び終わり」ではない
  • クリア後の空虚感は4つの心理要素から成り立っていた

ゲームの終わりは、ただの「遊び終わり」ではない

ゲームという言葉を人は区別して使いませんが、現代のゲームは、古来から続くゲームとは概念が異なり、単に得点を競うだけの娯楽ではありません。

特にロールプレイングゲーム(RPG)や物語性の強いゲームでは、プレイヤーは何十時間もかけてキャラクターを育て、仲間と旅をし、物語の選択に関わっていきます。

その体験は、映画を観るよりも、長編小説を読むより深くなりやすく、もはやその世界に転生して体験したような感覚に近くなります。

そのため、ゲームのエンディング後は「クリアできて嬉しい」という達成感だけで終わらないことがあります。

プレイヤーは、長く滞在していた世界から急に現実へ戻されたような感覚に陥りやすく、親しんできた登場人物や音楽、街並み、戦いの記憶が、しばらく頭から離れなくなります。

研究チームは、このようなゲームクリア後の空虚感が、RedditやDiscordなどのオンラインコミュニティで広く語られていることに注目しました。

しかし、これまでその感覚は主に「ゲーマーあるある」として共有されるだけで、心理学的に調査されたことはあまりありませんでした。

そこで研究チームは、成人ゲーマーを対象にした2つの調査を通じて、この現象を定量的に評価する新しい心理測定ツール「P-GDS」を開発し、その有効性を検証しました。

第1研究では、最近「自分にとって重要なゲーム」を終えた210人のプレイヤーを対象に、P-GDSの初期版をテストしました。

たとえば、終えたゲームの場面を何度も思い返すか。

ゲームの終わりを受け入れにくいと感じるか。

もう一度そのゲームを遊び直したくなるか。

ほかのゲームやメディアを楽しみにくくなるか。

こうした質問への回答を集めることで、研究チームはゲームクリア後の心の動きをより客観的に調べようとしたのです。

研究チームは、この最初の調査で、どの質問がこの現象をうまく捉えられるかを調べました。

第2研究では、別の成人ゲーマー163人を対象に、17項目に絞られた最終版P-GDSがきちんと機能するかを確認しました。

研究チームはこうした調査から、「ゲームを終えた後に、どのくらい空虚感や喪失感を抱いているか」を、数値として捉えることに成功したのです。

クリア後の空虚感は4つの心理要素から成り立っていた

調査の結果を分析したところ、ゲームクリア後の空虚感は、大きく4つの心理要素として整理できることが示されました。

1つ目は、ゲーム関連の反すう(game-related rumination)です。

反すうとは、同じことを頭の中で何度も考え続けてしまうことです。

ゲームの場合、それは物語の結末、登場人物との会話、印象的な音楽、別の選択をしていたらどうなったかという想像として現れます。

2つ目は、体験の終わりを受け入れにくい感覚です。

英語では、「challenging end of experience(体験の終わりの困難さ)」と呼ばれています。

これは、冒険が終わったことや、その世界との関わりが一区切りを迎えたことを、心がすぐには受け入れられない状態です。

プレイヤーにとって、ゲームの世界は画面の中だけにあるものではありません。

長い時間をかけて歩き回り、失敗し、成長し、選択してきた場所だからこそ、その終わりは小さな別れのように感じられます。

3つ目は、再プレイしたくなる感覚です。

英語では、「necessity of repeating the game(再プレイの必要感)」と呼ばれています。

これは、クリア後にもう一度同じゲームを始めたくなる気持ちを指します。

もちろん、楽しかった作品をもう一度遊ぶこと自体は自然な行動です。

しかしこの研究では、その再プレイ欲求が、終わってしまった体験をもう一度取り戻したいという感情とも関係している可能性が示されています。

4つ目は、「media anhedonia(メディア快感消失)」です。

快感消失とは、本来なら楽しいはずのものを楽しみにくくなる状態を意味します。

ここでは、ほかのゲームや映画、ドラマなどを見ても、クリアしたゲームほど満足できない感覚を指します。

ただし、研究ではこの要素は4つの中で最も弱く報告されました。

そして、この4つの要素の中でもっとも強く報告されたのは、1つ目の「反すう」でした。

つまり、ゲームクリア後の空虚感の中心は、「何も楽しめない」という感覚よりも、「終わったゲームのことを考え続けてしまう」状態と理解するのが正しいようです。

さらにこの研究からは、クリア後の空虚感の強さが、抑うつ症状、幸福感の低さ、反すう傾向、感情処理の難しさと関連していることも示されました。

感情処理の難しさとは、不安や寂しさのような感情をうまく整理できず、心の中に抱え込みやすい状態を指します。

また、ロールプレイングゲームをよく遊ぶ人では、このポストゲーム・デプレッションが強く出やすい傾向も報告されました。

これは、ロールプレイングゲームがキャラクターの成長、物語の選択、仲間との関係などを通じて、プレイヤーに深い没入感を与えやすいためだと考えられます。

研究で直接述べられているわけではありませんが、こうした4つの要素はゲーマーにとってのあるあるな現象と関連しているように見え、納得感があります。

ゲームの反すうは、プレイヤーでなければ伝わらないような何気ないキャラクターの台詞が名言として広まる現象と関連するように見えますし、2つ目の「体験の終わりを受け入れにくい感覚」はラスダン前や最後のセーブポイントから先へゲームを進められなくなる現象と関連するように見えます。

2周目要素を用意しないゲームに憤るゲーマーが多いのも、3つ目の「再プレイしたくなる感覚」との関連が想像できます。

研究ではもっとも弱い要素と述べられている「メディア快感消失」も、高齢のゲーマーほど新しいゲームを楽しめずレトロゲームに目を向ける現象と関連するように見えます。

今回の研究は、こうしたゲームクリア後の空虚感を「ただの気分」ではなく、質問票を通じて測定できる心理現象として示した点に意義があります。

一方で、この研究では、「ゲームクリア後の空虚感が強い人ほど、気分の落ち込みや考え込みやすさも強い」という関連は確認されましたが、どちらが原因なのかまでは分かっていません。

もともと考え込みやすい人ほどゲームの世界から気持ちを切り替えにくい可能性もありますし、反対に、強い喪失感がしばらく気分に影響している可能性もあります。

研究チームは、この点を明らかにするには、同じ人を長期間追跡する研究が必要だとしています。

また、この研究は「ゲームをクリアすると、うつになりやすい」「医学的な意味でうつになる」と示しているわけではありません。

ここで述べられている気分の落ち込みは、あくまで余韻のような心理体験であり、この現象を医学的なうつ病と関連させて捉えるべきではないと研究チームは説明しています。

しかしこうした報告を見ると、ゲームクリエイターが明確な2周目要素を用意することは、プレイヤーのメンタルケアのためにも必要なことなのかもしれません。

参考文献

Post-video game depression: Scientists create tool to measure the phenomenon
https://medicalxpress.com/news/2026-03-video-game-depression-scientists-tool.html
Feeling empty after finishing a video game? Researchers say post-game depression is a real phenomenon

Feeling empty after finishing a video game? Researchers say post-game depression is a real phenomenon
https://www.psypost.org/feeling-empty-after-finishing-a-video-game-researchers-say-post-game-depression-is-a-real-phenomenon/

元論文

Post-game depression scale – a new measure to capture players’ experiences after finishing video games
https://doi.org/10.1007/s12144-025-08515-2

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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