
「日本人は美しい」日本資本参入から8年、ベルギー3位に到達したSTVVの地元ファンが明かす“リアルな想い” 「右肩上がりに成長」「なぜ伊藤が代表じゃない?」【現地発】
シント=トロイデン(STVV)は今季のベルギーリーグのサプライズとなった。レギュラーシーズンを3位で終えたカナリーズ(クラブの愛称)は16年ぶりに進出したプレーオフ1でも健闘し、3位でシーズンをフィニッシュ。来季のヨーロッパリーグ予選出場権を獲得した。
人口4万の街を本拠地にするチームの飛躍に、ファンは大喜び。5月22日には市庁舎広場で祝賀会が開かれ、選手・スタッフ、クラブ首脳陣と喜びを分かち合った。
その翌々日、24日に行なわれたSTVV対メヘレンのキックオフ前、スタイエン・スタディオンの周辺でサポーターにインタビューし、歴史的シーズンを振り返ってもらった。
まずはトーマスさん一家に話を伺った。主に語ってくれたのは妻のイネスさんだった。彼女はまず、シント=トロイデンで生まれ育ったワウター・フランケン監督の名を挙げ、話し始めた。
イネス「ワウターは昨季、STVVを降格圏から救い出しただけでなく、今季、私たちを欧州カップ戦に連れて行ってくれました。間違いなくワウターはこの街のヒーローです。街中がサッカー、そしてSTVV一色です。どこの通りに行っても、誰もがSTVVのことを話してます。スタイエンには家族ぐるみのファンが集まってきます」
――あなたにとって今季、素晴らしかったことは?
イネス「MFエリアス・セバウイと友情を築けたことです。彼は本当にフレンドリーなんです。その友情は、実はインスタグラムから始まりました(笑)。息子のクインが学校で手紙の出し方を習い、『セバウイに絵を送ってみたい』と言い出したので、インスタグラムでメッセージを送って了承を得てから、絵を送ることができました。そこからセバウイから誕生日メッセージをもらったり、家に来ていただいたり。エスコートキッズとして息子はセバウイと一緒に試合前のピッチに入りました。
人生は駆け足。瞬く間に時が過ぎていくもの。そのなかで私たち家族はスタイエンで過ごすのを心から楽しんでます。選手たちを間近に見る、子どもたちの幸せそうな姿。そこに友情や家族愛を感じられます。それはひとりの母親として本当に美しい光景なんです。ただ試合を見るだけではなく、温かさを肌で感じることができる。そこがSTVVの特別なところです」
――今季のベストプレーヤーは?
クイン(長男)「エリアス(セバウイ)! それからレオ(GK小久保玲央ブライアン)!」
――日本資本になって8年になりますが、どう思いますか? STVVの魂はまだ生きていると感じますか?
イネス「ええ、感じます。ユースが再び活気づいてきました。本当に多くの投資をしてくれています」
トーマス(夫)「エリートだけでなく、スクールに対しても投資してくれてます。クインはもうSTVVのアカデミー生です。その下の子も来季からSTVV入ります。私自身はU6チームを手伝ってます」
――日本人とベルギー人選手の化学反応についてはどう感じますか?
イネス「本当に良いマッチングだと思います。金曜日の祝賀会を見ましたか? 選手たちの間の空気感は本当に素晴らしいです。(主将の谷口)彰悟も、壇上での挨拶を英語で話そうと本当に努力していました。大変そうでしたが、彼は本当によくやっていました。それから、私たちは畑大雅が大好きなんです!インスタグラムに“ハタ・ファンページ”があります。絶対に探してみてください。最高に面白いですから」
――なぜ畑選手はそんなにサポーターに愛されているんでしょう?
イネス「ムードメーカーなところかな。エネルギーに溢れていて、見ているだけでパワーをもらえるんです」
その畑はメヘレン戦でSTVVでの初ゴールを決めた後、喜びを爆発させサポーターを沸かせた。
ふたたび、家族連れのサポーターに声をかけてみた。
――今シーズンはサポーターにとって非常に特別なものになりました。今の率直な心境はいかがですか?
ジョン(父)「歴史的なシーズンだよ。本当に素晴らしいプレーをしてくれた。特に昨シーズンと比べたらね。そう、今年は『本当のチーム』があったんだ。監督を筆頭に全員の心がひとつにまとまったチームだった。より攻撃的に戦い。選手たちが互いのために、クラブのために、そしてサポーターのために走っている。そこが去年とはまったく違う」
――ところで、(子どもたちの持つボードを見て)シサコと、それから谷口からユニホームをもらおうとしているんですね?
ジョン「長男は谷口の大ファンなんだ。次男は藤田譲瑠チマ(現ザンクト・パウリ)の大ファンだったんだが、今はシサコ」
――どうして谷口なの?
アネリース(長男)「守備が上手だから、それが理由だよ」
――(もうひとりの子どもに向かって)どうして最初は藤田選手で、今はシサコ選手が好きなの?
ビクター(次男)「彼はものすごくハードワークするし、すべてのボールに食らいつくんだ。彼は、ボールを回収するのが本当に上手いんだよ」
――ふたりとも同じようなスタイルでプレーしますよね(その質問を父が引き取った)。
ジョン「そうだね。藤田のほうが少し攻撃的で、シサコのほうがより守備的だと思う。でも、多かれ少なかれスタイルは似ているね」
――今シーズンのMVPは誰だと思いますか?
ジョン「私はセバウイかな。彼は本当によく働く。最初はすごく苦労したと思うし、厳しいスタートだった。シーズンの最初のほうは『本当に大丈夫か?』って疑ってたんだけど、そこから必死に這い上がってきたんだ。あ、ちなみに私はロベルト=ヤン・ファンウェセマールのファンだよ」
――日本企業の経営になってから、今年で8年。これについてどう感じていますか?
「右肩上がりに成長していると思うよ。すごく上手くいっている。連れてくる選手たちも素晴らしい。例えば松澤(海斗)なんかを見ると...。彼がピッチに入ると、スタジアムがお祭り騒ぎになるんだ。チームに多くのものをもたらしてくれる。本当に良い選手たちを連れてきてくれるし、彼らを他クラブへより高い金額で売却することもできるからね(笑)。財政的にも上手くいっているよ。このまま続けていってほしいね。これからが楽しみだ」
若いサポーターは日本企業が運営するSTVVをどう思っているのか? 20代前半のグループに訊いてみた。
ビクトル「『日本人選手が多すぎる』と批判する人もいますが、じゃあゲンクを見てください。彼らはアフリカや南米から来た選手が10人以上いたりする。それと何が違うんですか? 日本人だろうが、アフリカ人だろうが、ブラジル人だろうが、関係ありません。単に世間が日本人選手に慣れていないだけですよ」
ダーン「それに、日本人選手はメンタリティが素晴らしい。とても礼儀正しく、親切です。彼らとトラブルになったことなんて一度もありません。日本人は美しい人びとです」
――DMMの経営になって8年ですが、STVVの「魂」や伝統は今も生きていると感じますか?
ビクトル「最初の数年は大きな問題でした。多くのファンが離れ、観客が1試合平均2000人まで落ち込んだ時期もあり、批判も多かったです。でもここ3~4年、彼らはSNSの活用やメディア戦略を改善しました。現地の言葉(フラマン訛りのオランダ語)を話すスタッフをメディアチームの一員にして以前よりずっと良くなりましたよ。目に見えて良くなっています」
最後に話を伺ったのは「6歳の時から応援しているからサポーター歴は54年」と言うペーターさん。
「すでに3位を確定させていますから。もう信じられないような結果です。私たちにとっては、もうすべてが手に入った状態ですよ。これ以上望むものはありません。来季はヨーロッパの大会に行くことができます。
長いサポーター生活でこんなシーズンは初めて...、いや2回目ですね。1998−99シーズンのリーグカップに優勝し、99-00シーズンのインタートトカップに出場。負けてしまいましたが決勝戦の対オーストリア・ウイーンを観にアウェーまで駆けつけました。だけど今と当時は時代も環境も違います。今シーズンは特別ですね」
――今季、ペーターさんにとって最高の瞬間は?
「最高の瞬間は数週間前のユニオン・サン=ジロワーズ戦、99分に私たちがここ、スタイエンで決めたゴールです。あの瞬間は格別でしたね。後半アディショナルタイム9分に、伊藤涼太郎がゴールを決めてユニオン相手に2-1で競り勝つなんて最高でした。鳥肌が立ちました」
――STVVを応援していて辛いことは?
「STVVには伊藤、山本理仁、ファンウェセマールとかいい選手がいますよね。残念なのは、STVVがいいシーズンを送ると、選手が引き抜かれてしまうことです。国内のクラブはうちの選手がいいからという理由だけでなく、STVVの戦力を落とすためなんですよ。まあ世界中、どこでも同じですけれど」
――そうですね。それに監督もここを去ってしまいます。
「そう、ワウター(・フランケン監督)もね...。本当に残念です。でも、彼を責めることはできませんよ。私も複雑な気持ちですがね。私はワウターがSTVVの選手としてプレーしている時から知っており、何度も会ったことがあります。
ゲンクのニッキー・ハイエン監督もSTVVの選手でした。彼は選手、私はファン。バーで出会って、サッカーや人生全般について話し合うようになり、いい友達になりました。そして今、ニッキーはSTVVの宿敵・ゲンクの監督です(笑)。それでも、私たちは今でもメッセージを送り合っていますよ。
今は時代が変わってしまい、選手とファンの距離が遠くなってしまいました。それでも今もSTVVはファミリークラブですよ。ほら、スタジアムに集まるサポーターの楽しそうな姿をみてください」
――今シーズン、あなたにとっての「ベストプレーヤー」は誰ですか?
「伊藤涼太郎で間違いない。時々、彼は試合から消えるけれど、2度ボールに触れさえすれば万事うまく行く。伊藤がゲームを作り、ゲームを変えるんです。だから谷口や後藤啓介が日本代表に選ばれたのに、伊藤が選ばれないなんて私には信じられません。これまで何人もの日本人選手のプレーをSTVVで観てきましたが、伊藤はその中でトッププレーヤーのひとりです。もし伊藤が日本代表でプレーしないのなら、ぜひベルギー代表のユニホームを着てほしいですね!」
今季のMVPを尋ねると、特定の選手に偏ることなく、さまざまな名前が挙がった。誰かひとり、突き抜けたような存在はいなかったが、チームワークで強豪と立ち向かい、僅差の勝利をものにしてきたSTVVの戦いぶりを感じることができた。
さらにサポーターたちが口を揃えたのがファミリークラブであるということ。勝てばもちろん、負けても温かな拍手で選手を労う彼らたち。選手たちはスタイエンのことを比喩的ではなく、本当に我が家のように感じていることだろう。
取材・文●中田 徹
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