世界中が熱狂の渦に包まれるはずの国際舞台に、開幕直前になって最悪の暗雲が垂れ込めている。6月11日に開幕するサッカーワールドカップ北米大会。アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国による初の共催だが、中東の強豪イラン代表チームをめぐり、前代未聞の「ビザ発給拒否」が発動されている。
事態を暴露したのは、イラン・サッカー連盟のタジ会長である。代表選手やスタッフへのアメリカビザが、開催国であるアメリカ側からいまだに発給されていないと明かしたからだ。
国際ジャーナリストが解説する。
「かねてよりの両国間の深刻な対立があり、2月末にはアメリカとイスラエルの攻撃により、イランの最高指導者ハメネイ師が暗殺されました。今も緊張状態が続いている上、イランの選手やスタッフの中には『イスラム革命防衛隊(IRGC)』で義務兵役を終えた者が複数含まれており、アメリカ側がこれを安全保障上の問題として敵視しています」
イラン側は「兵役は国民の義務。不利益を被る筋合いはない」と国際サッカー連盟(FIFA)に猛抗議。国歌・国旗の尊重を含む10項目の最後通牒を突きつけ、一歩も引かない構えを見せている。
この国家間の冷戦は、すでに大会の運営基盤を揺るがし始めている。FIFAは5月25日、参加する48チームのキャンプ地を正式発表したが、イラン代表の合宿地は、当初予定されていたアメリカ西部アリゾナ州から、国境を越えたメキシコ北西部ティフアナへ、直前に変更される異常事態となった。
大会ボイコット・不戦敗・代替国の緊急出場という大混乱
サッカージャーナリストが言う。
「メキシコのシェインバウム大統領も5月25日に『アメリカはイラン代表が国内に滞在することを望んでいない』と公言。FIFAからのキャンプ地変更の打診を『拒否する理由はない』として受け入れたものの、アメリカとイラン間の関係悪化による入国手続きの遅れは、世界中のメディアで大きく報じられています」
最悪のシナリオは、イランの大会ボイコットや、未入国による不戦敗。あるいは代替国の緊急出場という大混乱が起きることだ。なによりイランのグループリーグ3試合(ニュージーランド、ベルギー、エジプト戦)が全て、アメリカ国内で行われる点は見逃せない。
「キャンプ地はメキシコに逃がせても、試合のたびに入国を拒否されれば、大会そのものが成立しません。FIFAの外交力が試されていますが、政治の論理がスポーツの祭典を完全にジャックしている状況です」(前出・サッカージャーナリスト)
自由と民主主義の国を標榜するアメリカが仕掛けた、あまりに無慈悲な水際作戦。イラン代表選手たちの命運は、文字通り五里霧中のままである。
(滝川与一)

