主人公の音々を『海街diary』(15)でも是枝監督とタッグを組んだ綾瀬はるか。そして、その夫・健介を映画初主演となる大悟(千鳥)が演じていることでも話題となっている。初主演作にしてカンヌ映画祭に出品され、是枝監督から後ろ姿が「『菊次郎の夏』のビートたけしが重なった」と絶賛された大悟。その演技を芸人仲間たちはどう観たか。そこで、日ごろからバラエティ番組などで交流の深いAマッソ加納と3時のヒロインの福田麻貴がいち早く本編を視聴し、“俳優”大悟と作品の魅力を語ってくれた。
■「“家族って意外とぼんやりした定義なのかもしれないな”って思いました」(福田)

――まずは『箱の中の羊』をご覧になった率直なご感想をうかがえますか?
加納「是枝監督の作品は『怪物』などを拝見していましたが、子どもたちを主体にしたストーリーはこれまでの作品と通ずるところがありますよね。『箱の中の羊』はAI搭載のヒューマノイドの子どもが登場しますが、だからこそ醸し出せる人間ドラマの圧倒的なリアリティがすばらしかったです。こんなヒューマノイドなんておるわけない、と思うはずなのに、綾瀬さんが演じた音々と大悟さんが演じた健介の夫婦が醸し出す空気感とコントラストがすごくマッチしていて驚きました」
福田「ヒューマノイドが出てくるSFではあるんですが、めちゃくちゃ普遍的なことが描かれているな、と感じました。しかも観る人によってとらえるところが変わるような、様々な問題提起がされていたことがすごい。私は家族の定義、家族の境界線というところに着目したんですけど、これを観てより一層“家族って意外とぼんやりした定義なのかもしれないな”って思いました」

――それはどうして?
福田「本当の親子関係のほうがうまくいってなかったり、仲間を“家族“と表現する描写などがあったからです。こないだ同世代の友達と話していた時、彼女は子どもが生まれてからは、自分にとっての“家族”は自分が生まれ育った家族よりも、自分が形成した家族のほうだと感じるようになったそうなんですよ。でも、それを将来、子どもから言われたらどう思う?って聞いたら“めっちゃ寂しい”って言うんですよね。親から親離れして、今度は子離れしないといけない時が来る。家族はそうやってスライドしていくんだなと考えていた時に、この作品を観たこともあって、このテーマは刺さる人がたくさんいそうだ、と感じたんです」
加納「『箱の中の羊』は本当の子になりたかった、したかった擬似親子の関係だけど、そういう見方もあるよね。これまで、是枝監督作に限らず人工知能や人型ロボットと人間の対話を描く映画は数々作られてきたけど、それってもうSFとも言いにくくなってきましたよね。だって今の技術がこのスピード感で進んだら、この映画の翔(かける)くんのようなヒューマノイドが出てくるのも時間の問題。そう考えると、リアルな私たちの世界での現在地ってどこにあるのかな、という恐怖もありつつ、2026年のいま、これがつくられた意味もあるな、って思いますよ」
■「ある種の恐れを表現されている大悟さんには驚きました」(加納)

――では、お2人とも普段からお仕事でお付き合いのある大悟さんのお芝居はいかがでしたか?
加納「いつもの大悟さんとは全然違うはず…と思って本編を拝見したんですが、意外とそうでもなかったんですよ。普段から大悟さんは優しいんですが、そういった部分はもちろん、人間味あふれるところとか、素の大悟さんなんですよね。AIや子どもにどう接したらいいのかわからない大人、というのが健介だと思うんですが、そういった人が抱くある種の恐れみたいなところを表現されている大悟さんには驚きましたし、すごいなと素直に思いました」
福田「人間味、すごい出てましたよね。普段から人に真剣に向き合っている方っていうイメージだったので、それがそのまま出つつ、難しいお芝居をされていて。実は亡くなった父が大悟さんにめちゃ似てるんですよ。しかも私が小さいころに母が再婚した相手で、映画のなかの健介みたいに“突然父になった”人で。本当の親子ではないけど、お互い親子を演じているような戸惑いや距離感を経験しているので、大悟さんの演技のリアリティには驚きました。私の場合は、いまでは心から本当のお父さんだと思っているので、大悟さんのシーンを見ながら、演じることから本当の関係になっていくことってあるよな、と思っていました」

加納「思い出した。この映画に大悟さんが出るって告知が初めて出た時に、ちょうど『漫才ギャング』を観てたんですよ。そこで初めて、大悟さんのお芝居を拝見したので、告知を見て“これはすごいことになる”って思ったんですよね」
福田「しかも、是枝監督で綾瀬はるかさんと共演って!あ、ついに大悟さんの芝居のうまさが知れわたる、って思いましたね。長年漫才をやられているので、日常のシーンでセリフが自然なのは予想していたのですが、感情がたかぶるシーンでの気持ちの積み重ねとか、本当に役者さんそのものでしたよね」
■「大悟さんはプライベートでお会いした時も相談にのってくれる情に厚い人」(加納)

――ほかの俳優さんのお芝居はいかがでした?
加納「翔くんだけじゃなく、人間側の子役の皆さんがすごかったですね。ほら、ヒューマノイドと人間、両方出てくるけど、『あ、この子は人間の子ども』ってすぐにわかるお芝居で。それと(東京03の)角田(晃広)さん。本当にすごいし、安定。たくさんの作品に出演されてきたから当たり前のようにできるんだと思うんですが、さりげないお芝居が本当にうまかったです」
福田「角田さんは東京03さんのコントでのお芝居もすごい自然ですもんね」
加納「そうそう。角田さんがMCをされたライブに出たことがあるんですけど、MCというよりも“MCという役を演じている”角田さんでしたね。ずんの飯尾さんもそういう感じじゃない?」
福田「あ、わかる(笑)。というか私たち芸人も、どこか少しは演じてるよね、芸人を。本当はめちゃめちゃビビってても堂々としてるふうでいないといけない時とかあるし、落ち込んでても明るい大声出せるし(笑)。プライベートで食事に行った時に、店員さんから『意外とおとなしいんですね』っていわれるけど、そら常にはしゃいでへんよ、と思ってしまう(笑)」
加納「そうそう(笑)」

――普段の大悟さんって、我々がテレビを通してみている大悟さんとギャップあります?
加納「ないです(きっぱり)」
福田「ほんとない」
加納「オンカメラでも人生相談みたいなコーナーをされている時は本気で向き合ってますし、プライベートでお会いした時も相談にのってくれる情に厚い人というイメージです」
福田「そうそう。めちゃくちゃ親身になって聞いてくれますよね。熱い先輩ですし、若手の芸人のことを絶対に否定せず、ダメなところもひっくるめて愛してくれる人」
■「想像する力は人間しか持ち得ないし、想像力を使うことでしか乗り越えられないことって人生にはある」(福田)

――現実世界でも一般の皆さんが日常生活でChat GPTやGoogle GeminiなどのAIで会話していますよね。
福田「ちょっと前の海外のニュースで、AIにありがとうと言うだけでも電力コストがめっちゃかかる、というのが話題になったんですよね。その時、“AIにありがとうと言うのは、私が人間だから”という引用でバズっていたんですよ。映画のなかでも、あるシーンでヒューマノイドの感情がつらい、悲しいと見えているのだとすれば、それは人間のあなたの感情です、っていうシーンがあるけど、私たちって、無機物だけどぬいぐるみを踏みつける、ってことはできないじゃないですか。それに、お仏壇に手を合わせることだって、そこには誰もいないのにやってるけど、(仏様を)信じているからできること。意思疎通ができないものに対しても意味づけして生きているのが人間。その想像力は、よくも悪くも、人間しか持ってないな、って」
――お2人はお仕事でAIを活用することはありますか?
加納「私はあまり頻繁には使わないんですけど、間違えたらあかんな、っていう情報を調べる時にAIを使うようになりましたね。Googleで検索する感覚に近いかもしれません」
福田「私もネタを作る時に、自分が知らない分野の知識のリサーチで使いますね。例えば美容院のカルテに書き込むカラー剤の名前とか。美容師の友達にLINEしなくても済みますし」

加納「お笑いの分野でフル活用は難しいですよね」
福田「そうそう。ネタの題材やディテールがわからないことに活用するのはありだけど、お笑いそのものは、まだAIが人間に追いついてなくてよかった(笑)」
加納「感情的なところはまだ、って感じますよね」
福田「そう。でも、AIに喋りかけることで感情が整理できることもあって、映画の中でも、ヒューマノイドの翔くんには感情がなくても、接することで人間側の感情はどんどん変わっていく。それってAIじゃなかったとしても、例えば亡くした家族やもう会えない人が夢の中に出てきて会話するだけでも、起きた時に気持ちが少し変わってることってあるじゃないですか。もちろん映画では、人工知能の是非や死者の尊厳なども問われてるとは思うんですけど、想像する力は人間しか持ち得ないし、想像力を使うことでしか乗り越えられないことって人生にはあるな、ってことも感じさせてくれました」
■「コントでは役の感情に体重を乗せすぎるとウケない。ドラマや映画のお芝居とはかなり違うな、と思います」(福田)

――芸人のお仕事って俳優さんのように自分とは違うキャラクターを演じることがありますよね。
加納「私はキャラクターのコントがないぶん、感情を作り込むことを普段はあまりないんですよね。ただ、この作品での大悟さんや角田さんしかりですが、普段からやってる人はとにかくうまい」
福田「うちのトリオは相方がキャラが強い人物を演じることが多いんですが、あまりその役に体重を乗せすぎるとウケないんですよ。相方のひとり、かなでが演劇学校出身なので、役に体重を乗せすぎてしまうことがあって、たまに苦戦しています。キレてるキャラを演じるのはウケるけど、本気で感情を込めてキレるとお客さんが空気に飲まれて引く、みたいな現象が起きる時があるので、コントは半分役から降りてお客さん目線で自分を見ないといけなくて、ドラマや映画とまた違う気がします」

――先ほど加納さんは『怪物』の話をされてましたが、お2人は是枝作品はこれまでたくさんご覧になりました?
福田「『誰も知らない』とか『万引き家族』、『空気人形』とか拝見してます」
加納「とにかく子役のお芝居がどれもすばらしいですよね。よく子どもの演出法が独特だって話題になりますけど、ほんっとすごい」
――お2人ともお仕事柄、監督の演出も気になりますよね。
加納「是枝監督の作品は誰のどんなお芝居も自然に見えるのが不思議」
■「綾瀬さんと大悟さんの子どもへの接し方の対比が本当にリアル」(加納)

――大悟さんがカンヌのレッドカーペットを歩いているところは、テレビなどでご覧になりました?
加納「はい。でも、そもそもテレビの人をテレビで観たせいか、あまり特別感がなくて(笑)。それ以前に大悟さんは私たちのスターですから」
福田「大スターですよ。海外の人は大悟さんが日本の人気コメディアンってことを知らないでしょうから、“めっちゃ渋い日本人俳優”に見えてるんじゃないかって(笑)」
加納「あ、たしかにそれはあるよね。実際あの場の大悟さんは渋いし」
――カンヌは映画人にとっては特別な場所。行ってみたいですか?
加納「そりゃもちろん!」
福田「行ってみたいです。こういうことは、とりあえず言っとこうかな(笑)」

――綾瀬さんと大悟さんの共演はいかがでしたか?
加納「共感できるお芝居でした。夫婦で子どもに対する反応が違うってことを表現されていて、子どもへの接し方の対比が本当にリアルで。例えば、健介が翔に『謝れたからいいよ』っていうシーンなんて、親としての心の落としどころがきちんと出ていたと思います」
福田「綾瀬さんもすごく難しいお芝居だったと思いますよ。私たちくらいの歳って、子どもがいたとしても自分の親からすればまだ子どもって思われているじゃないですか。子の親であり、親の子でもあるという2つの責任を負っていると思うんです。そのどっちからも逃げたい時ってあるはずなんですが、綾瀬さんはそれを全部演じていてリアルなんですよね」
――綾瀬さんとはお仕事は?
加納「番組でご一緒したことがありますけど、それほどがっつりということはないんですよね」
福田「わ、いいな。私は一度も」

――お2人が俳優業をすることで、共演の可能性もありますよね。
加納「いっちゃいますか!」
福田「えー!映画はエキストラくらいしかやったことがないからな…」
加納「お笑い芸人が俳優になると、逆にコメディをやらないっていうイメージがあるじゃないですか。だったら逆手に取ってド直球のコメディ映画とかに活路がありそうじゃない?」
福田「あ、たしかに」
――加納さんだったら脚本家として映画に関わることもできますし。
福田「監督・主演をされている芸人の先輩はいらっしゃるけど、脚本・監督・主演は前例がないんじゃない?」
加納「いっちゃいますか!(笑)」
取材・文/よしひろまさみち
