
世界で初めて長編映画としてCGを本格的に導入し、映像界の歴史を切り開いた「トロン」シリーズの最新作となる映画「トロン:アレス」が10月10日に公開。これまでの「トロン」シリーズでは、現実世界に生きる人間がデジタル世界へと足を踏み入れ、生死を懸けたゲームに挑む様子が描かれてきた。そして最新作では、デジタル(AI)に侵食された現実世界が映し出され、これまでとは逆の構図にファンが注目している。今回は最新作の劇場公開をきっかけに、革新的な映像体験として大きなムーブメントを起こした第1作「トロン」(1982年)、続編「トロン:レガシー」(2010年)をあらためて振り返ってみる。
■革新的なCG技術で世界に衝撃を与えた第1作
第1弾となる映画「トロン」(『トロン:オリジナル』としてディズニープラスで配信中)は、デジタル世界に送り込まれた天才コンピューター・プログラマーのケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)が、生死を懸けたゲームに挑んでいく様子を描き、現実世界からコンピューター・システムの“デジタル世界”へ侵入するという画期的な設定が当時話題となった。
公開当時の1980年代初期といえば、ビデオゲームやパソコンが家庭に普及し始めた頃であり、“デジタル”という領域はまだまだ現実世界から遠い存在だった。
物語はIT企業エンコム社の元社員・フリンが、同僚のデリンジャー(デビッド・ワーナー)に自分が製作したゲーム「スペース・パラノイド」の権利を盗まれてしまうところから始まる。後にスペース・パラノイドは大ヒットし、デリンジャーは社長の座に就く出世コースを歩む一方で、フリンは追放されてしまう。
フリンは不正の証拠をつかむため、エンコム社にハッキングを試みるが、監視する“マスターコントロールプログラム”に気付かれ、サイバー空間へと送り込まれてしまう。そこで命懸けのサバイバルゲームに挑むことになったケヴィンは、警備プログラムのトロンらと共にデジタル界の野望を阻止するべく立ち上がっていく――というストーリーだ。
現在のようにインターネットで簡単にアクセスできなかった時代からこそ、生身の人間たちが仮想現実へと侵入していく様子は斬新な発想であり、異彩を放つ作品だった。また、当時コンピューターに親しみのなかった人でも面白さを感じることができた一つの理由としてCG映像がふんだんに使われていることも挙げられる。
特に登場人物たちがデジタルの世界へ入った後に映し出される姿は、まるで人間がそのままゲームプレーヤーになったようで、没入感を体感できるだけでなく、ネオンに光るデザインやディズニーらしいチャレンジ精神から生み出される映像は、CG技術が発展した令和の時代に見ても、素直にワクワクさせてくれる。

■最新作ではAIが暴走…デジタルに侵食された現実世界が舞台
この作品に衝撃を覚えたのは鑑賞した映画ファンだけではない。ピクサー創設メンバーの一人であるジョン・ラセター氏は「『トロン』がなければ『トイ・ストーリー』は生まれなかった」と発言するなど、彼をはじめとするクリエーターや後に誕生した作品に多大な影響を与えている。
第1作公開から28年後の2010年には続編「トロン:レガシー」が公開され、前作のクオリティーからさらにアップデートされた映像で多くの映画ファンを魅了。さらに電子音楽デュオのダフト・パンクが手掛けた楽曲も話題となり、映画という枠を超えてヒットした。
そんな数々のイノベーションを生み出してきた同シリーズの最新作「トロン:アレス」が10月10日に日米で同時公開。新作では仮想空間上の存在が現実世界に姿を現す展開が描かれている。
AIプログラムの実体化が成功し、開発された人型AIアレス(ジャレッド・レト)。彼は圧倒的な力とスピード、優れた知能を持ち、敵に倒されても何度でも再生可能という、“最強の兵士”と呼ぶにふさわしい存在だ。ただし、実体化できる時間は限られていた。その後、開発者でも制御不能となったAIが暴走を始め、デジタル世界が現実世界に侵食していく中で、人類との交流を経て変化を始めたアレスが奔走する――というストーリー。
進化したCG技術や現代的なAIの進化なども見どころだが、第1作から引き続きブリッジス演じるフリンが登場することも話題に。その出方も粋で、シリーズの最初から見守ってきた往年のファンはエモい気分になることだろう。
身近な存在となりつつあるAIが主人公という、まさに新時代の「トロン」の物語に映画ファンのみならず多くの人から注目を浴びる最新作。公開をきっかけに、さまざまなセンセーションを巻き起こしてきた「トロン」シリーズの歴代作を振り返ってみるのも面白いだろう。
◆文=suzuki

