超柔らかいシリコンを作るために、子会社と工場を設立
続いて見学したのは、坪山区の韶音正向精密というShokzの子会社工場。これは、Shokzの製品で使われる、従来世の中になかったレベルで柔らかいシリコンを成形するために開発されたShokz Ultra-Soft Siliconeのために作られた工場だ。

特にイヤーフック型のイヤフォンのかけ心地は、表面素材の柔らかさに大きく依存する。オープンイヤー型イヤフォンは耳の穴を使わないため、どこかで外耳に本体を固定する必要がある。どういう方法であれ、固定するためには皮膚に接触する部分が必要になる。痛みなどの不快感を残さないためには、極力柔らかい素材が必要になる。そのためにShokzは、子会社まで設立し、Ultra-Soft Siliconeを開発したのだという。
この工場ではこういう手順でOpenFitの本体が作られている。

まず一番左が、チタニウムのワイヤー。 このワイヤーのテンションが、オープンフィットのホールド感を実現する。 次に取り付けられるのが、オープンフィットのフレーム。このフレーム内部に、バッテリーやドライバー、Bluetoothの通信チップをはじめとした回路基板などが取り付けられる。
そして、樹脂成形時に両者のフレームパーツの位置をしっかり固定するために補助的ワイヤーが取り付けられる。このワイヤーは完成後取り外される。その後シリコン成形。これによってOpenFit Proのボディが完成するというわけだ。

このパーツがOpenFitのフィット感の良さを実現しているのだ。

こちらがシリコンを流し込んで成形する機械。Shokzの子会社ということだからか、働いている人の服装は自由で、先の立讯精密のような制服もない(リュックを背負っている人物は、我々と同じような取材陣)。聞けば、さほど汚れなどが発生することもないので、制服は不要とのこと。働いている人がOpenRun Proを使っていたりするし、服装もお洒落だったので、先の工場よりはだいぶ給料も良いのだろう。

このシリコンを金型に注入する機械がたくさん並んでいて、次々と金型にシリコンを注入していた。注入後、乾燥したパーツを多くのスタッフの方が念入りにチェックしていた。
この工場には金型を切削するためのCNCも大量にあった。

ここで、Shokzのイヤフォンのボディを成形するための金型が切削で作られている。CNCはMAKINOのV33iという日本製。これに限らず工作機械は日本製が非常に多かった。

より精密な電子部品周りの金型はEDM(Electrical Discharge Machining:放電加工)という手法で作られるそうだ。

この方法で、より硬い金属を精密に工作することができるのだそうだ。

大量生産、スピード感を支える『若さ』
どちらの工場も非常に多くの人が働いているのに圧倒された。特に巨大な高付加価値EMS(Electronics Manufacturing Services)企業である立讯精密の工場では、パーツの組み付け、ハンダ付けなどを自動的に行うロボットと、人の手でやった方が早いデリケートな作業がそれぞれに分担されており、半年や1年など短期間で製品ラインが変わったとしても素早くラインを組み換えられる対応力があるとのことだった。
クルマで移動していると、このような工場が見渡す限り続いているところに深圳のすごさを感じた。我々の身の回りにある多くの製品はこの街で作られているのだ。
また、20年ほど前には海外企業の『下請け』だった企業が、自らのブランドと開発能力を持ち、オリジナリティあふれる製品を作るに至っている。HUAWEI、DJI、BYD、UGREENなどもそうやって中国独自のブランドとして成長しており、Shokzもその中のひとつだ。社内の人も、中国、欧米、日本のトップ大学で学んでおり、自由な気風を持ち、意欲に溢れていて、そして若い。平均年齢はかなり若く、今回のプレスツアーを牽引する人たちも30歳前後である。日本で、これほど若い有能な人たちが集まって意思決定を行えている会社がどれだけあるだろうか?
もちろん、急激な成長は終わって、最近は中国経済は(以前より)伸び悩んでいるとの話も聞く。しかし、実際にこの工場の数と熱気、そしてそれを率いる人たちの優秀さを目の当たりにすると、まだまだ中国企業は成長していくのだろうなと思う。
もちろん、これは14億の人を抱える中国の、ごく一部の側面でしかないと思う。とはいえ、実際にそれを見ることができて非常に勉強になった。ご招待いただいたShokzに感謝したい。
(村上タクタ)