2022年末、OpenAIが公開したChatGPTは世界を熱狂させた。しかし、その爆発的ブームを冷ややかに見つめていた人物がいる。OpenAI共同創業者でもあったイーロン・マスクだ。彼はChatGPTを「ウォーク思想に汚染されている」と批判し、やがて「白人男性を処刑するAIが生まれる」とまで語るようになる。なぜマスクは生成AIにそこまで強烈な恐怖を抱いたのか。そして、その危機感から生まれた“反ChatGPT”こと「Grok」に、彼は何を託したのか――。
ChatGPT とマスクの意外な因縁
2022年11月、イーロン・マスクがTwitterの買収を完了させた1カ月後、OpenAIがChatGPTをリリースした。
親しみやすい会話型インターフェースと強力なAIシステムを組み合わせたChatGPTは、誰もが質問をすれば、驚くほど人間らしい(常に正確とは限らない)回答を得ることができる。
2023年1月までに、このチャットボット(人と会話するAIの仕組み)は月間アクティブユーザー数が1億人に到達し、史上最も早く拡散したウェブアプリケーションとなった。ほとんど一夜にして、OpenAIは「生成AI」を、テック業界全体の核へと押し上げたのだった。
マスクは早くも2010年代半ばの段階で、より高度な形態のAIが次の10年を定義するであろうことも理解していた。だからこそ彼は2015年にOpen AIを共同設立したのだった。
3年後に同社を去った理由は、AIへの関心が薄れたからではなく、組織に対してもっと強い支配権を望んだものの叶わなかったからだ。
マスクが抱いた「生成AIへの恐怖」の正体
マスクは生成AIブームの到来を歓迎しただろうか。実は彼はこのブームに対して両義的な思いを抱いていた。
まずプラス面。生成AIに必要な大規模言語モデルは高価なテクノロジーであり、膨大な電力と、高価で特殊なハードウェアを必要とし、そうしたインフラ構築も得意とするマスクには追い風だ。
一方で、この新たな局面は危険に満ちているとも感じていたのだ。ChatGPTの出力結果は、その恐怖を具体的に感じられるものだった。マスクにとって、このチャットボットの回答は悪しき「ウォーク・マインド・ウイルス」(社会正義に目覚めた思想ウイルス)に侵されているように見えたのである。
「ウォーク」は「社会的な不正義に抵抗するため目を開いていろ」という意味合いでSNS上で使われ始めたフレーズで、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だと訴えるスローガン)」などの主張をしてきた。
だがマスクにとって「ウォーク」の思想は「歪められた情報を広め、心を操るウイルス」として嫌悪すべき対象とだった。「ウォーク・マインド・ウイルス」への嫌悪と病的な警戒心から、マスクはTwitter社そのものを買収してしまったほどだ。
同じ危惧が生成AIに対しても浮かんだ。なぜ生成AIは、人種、移民、あるいはジェンダーについて「正しい」形で語らないのか?
「AIをウォークになるように――つまり嘘をつくように――訓練することは命取りになる危険性がある」と、マスクは2022年12月にツイート。その後、さらに一歩進んで、ChatGPTのようなAIシステムは「ウォーク・マインド・ウイルスが隅々にまで織り込まれたもので」、「政治的に正しくなるように訓練されている」と主張するようになる。
そうしたAIの危険性は、マスクが徹底的に点検する前のTwitterがそうであったように、ウォークな思想を拡散させる可能性があることだけではなかった。マスクにとってもっと恐ろしかったのは、ウォークな超知能が生まれる可能性があることだった。

