【スージー鈴木の週刊歌謡実話第35回】
中森明菜『ミ・アモーレ』
作詞:康珍化
作曲:松岡直也
編曲:松岡直也
1985年3月8日発売
レコ大を呼び込んだ差別化戦略
「動く中森明菜」を久々に見た気がしました。
5月5日放送のテレビ東京系『WBS(ワールドビジネスサテライト)』。主題歌『カサブランカ』を歌う中森明菜がインタビューを受けていたのです。
今夏には20年ぶりとなる待望のライブツアーを控えているのですが、声も身体もか細い感じで、決して体調万全とは言えない印象を受けました。
それでも表情は明るく、また、戦争について語るところでは涙ぐむ一瞬もあり、喜怒哀楽をしっかり表現できるほど復活したことを、素直に歓迎したいと思ったのですが。
さて、それはそうと私はタイトル「カサブランカ」に感じ入ったのです。
――「歌う兼高かおる」が帰ってきた!
兼高かおるってご存じですか? 私が子供の頃、TBS系『兼高かおる世界の旅』という番組で、海外旅行しまくっていた人です、と聞いて「あの!」と思い出した人は還暦以上かな。
実は「中森明菜=歌う兼高かおる」だったのですよ。
というのは、1980年代後半、中森明菜の音楽を取り仕切ったディレクター・藤倉克己が立てた、明菜売り出しの基本方針(の1つ)が「歌う兼高かおる」なのでした。
つまりは中森明菜に、ワールドワイドな世界を歌わせて、他のアイドルと差別化するという戦略(詳しくは拙著『中森明菜の音楽1982─1991』参照)。
戦略は、いきなり大成功を引き当てます。藤倉克己が担当して間もない’85年春にリリースした『ミ・アモーレ』がいきなり大ヒット。この年の日本レコード大賞を勝ち取るのですから。
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海外旅行ブームとシンクロしたヒット曲群
まずはタイトルからして「ミ・アモーレ」。歌詞には「リオの街」「カーニバル」「サンバのリズム」とブラジルを連想させる言葉がちりばめられています。
中森明菜のボーカルも堂々たるもので、楽曲のスケール感も満点。この年、大活躍のチェッカーズや安全地帯を抑えてのレコ大受賞に、異論は少なかったのです。
この後、中森明菜、いや「歌う兼高かおる」は、ワールドワイド歌謡を次々と放っていきます。
・『SAND BEIGE─砂漠へ─』(’85年)
・『ジプシー・クイーン』(’86年)
・『TANGO NOIR』(’87年)
・『AL─MAUJ(アルマージ)』(’88年)
それは、迫るバブル景気の中、気軽に海外旅行が行けるようになっていたOL層の感覚にピタッと寄り添う作品群でもあったのです。
では「ミ・アモーレ」って、どんな意味だったのか。「MI・AMORE」とか「Meu amor é…」などと表記されているけれど――。
実はこれ、何と藤倉克己による造語だったのですよ。
でも「歌う兼高かおる」と、その言葉を「造ったディレクター」でレコ大取ったのだから結果オーライなのです。
「週刊実話」6月4・11日号より
スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
