高齢期のQOLを左右する「住まい」の選択。持ち家か賃貸かという議論は、単身世帯が増加する現代において、かつてないほど切実な問題となっている。賃貸住宅における入居拒否や老朽化に伴う修繕トラブル、そして持ち家が抱える将来への不安…どちらの道を選んでも「確実な安心」を手にすることは難しい。
大学教授である葛西リサ氏の書籍『単身高齢者のリアル――老後ひとりの住宅問題』より一部を抜粋・再構成し、高齢者の住まいをめぐる過酷な実情と、その選択の行方を考える。
持ち家か賃貸住宅か――高齢期を幸せに暮らすには
巷でよく話題となるのが、高齢期の住まいとして安心なのは持ち家か賃貸かという議論である。
人間のライフスタイルは極めて多様であり、一概にどちらが「正解」と言えるものではない。
それでも多くの中高齢者の話に耳を傾け、その内容を総括すると、高齢期に誰にも脅かされることなくそこに住み続けることができるという点において、少なくとも現時点では、持ち家住まいに軍配があがると言わざるをえない。
例えば、ある70代の女性は、長年民間賃貸住宅に暮らしてきた。
居住年数は30年強。物件は老朽化し、ある日を境に、トイレが詰まるようになった。オーナーに相談しても、修繕に応じてもらえなかった。
修理業者を呼び、自らできることはすべてやってみたが、配管の取り換えなど、大掛かりな工事にはオーナーの承諾がいることがネックとなった。
70代かつ単身となると、転居先も見つからない。結局は、近所の24時間営業のスーパーで用を足すということが続いた。
その後体調を崩し、このままでは生活が立ち行かないとオーナーに再度修理の相談をしたところ、退去をほのめかされ、口をつぐむしかなかったと涙を流していた。
紹介されたのは「とんでもない物件」
また、ある60代の女性は、知人の好意で都内の低家賃の賃貸物件に十数年間暮らしてきた。
築古だが近隣関係も良好で、職場へのアクセスも良い。ゆくゆくは転居をと考えていたが、ここ数年周辺の家賃相場は高騰し、そのタイミングを逸していた。
ほどなくして知人から、不動産の整理をしたいと相談があった。転居先を探すも、どこの不動産会社も相手にしてくれないと嘆いていた。
居住支援の現場に行くと、このような話は掃いて捨てるほどある。
ならば、居住支援法人に住宅の確保を手助けしてもらえばどうか。実は、居住支援法人の勉強会などに顔を出すと、集まった人たちがこぞって、単身高齢者の住宅確保に頭を悩ませている。また、物件が紹介されたとしても、その質は保証できない。
ある60代の女性が定年を機に持ち家を売却、自家用車を手放して、駅近の賃貸住宅に移ろうかと不動産会社を訪れた。しかし、身寄りがないためか、けんもほろろに追い返されたのだという。
役所に相談に行くと、居住支援法人を紹介された。貯金も厚生年金の額もそこそこある。すぐに適当な住宅が見つかるだろうと高を括っていた。
そこで、いくつかの候補が出てきたが、老朽化した木造ハイツの一階や、築古の狭小住宅など、彼女に言わせれば「とんでもない物件」で、内見もそこそこに帰宅したという。

