現代人の死に法律が追いついていない
──『終活ファッションショー』を安田さんが出版されたのが二〇一二年。二〇一九年に『ひと喰い介護』を発表されていて、どちらも老人たちが直面している問題を小説で書かれています。今回の作品はその先にある「死」と真っ正面から向き合ったことになります。しかも骨をめぐってやがて来たるべき現代社会の問題を先取りされていますよね。
おっしゃる通り、これから死に関するいろいろな問題が噴き出してくるので、そのことをもっと知ってほしいという思いがありました。でも「死」といっても抽象的でピンと来ないんですよ。死を何で表現するかと考えると、一番インパクトがあるのは骨なのかなと。日本人に限らず、全世界の人が一〇〇%持っているのが骨なので、この骨を通して、この国の今後の問題を皆さんと一緒に考えたいんです。
──そうですね。問題の一つとしては、時代の移り変わりに法律がついていけていないのでは、とも感じました。死に関する法律が古くて、かつての日本の家制度の価値観がアップデートされていません。
法律には問題が多いですね。法解釈でできることはないか、現場ではいろいろ考えて工夫してやっていますが、足りていません。やっと最近になって「家族信託をしておけば、老後に認知症になっても安心ですよ」と広くアナウンスされるようになりましたが、とはいえ家族信託って、その言葉通り、そもそも家族や親族がいることが前提なんですよね。もはや家族がいない人、身寄りなき者たちが増加しているのに。それぐらい遅いんです。
じゃあどうするのかといったら、使える法律や行政サービスをつなぎ合わせたり、自分で準備しておくしかない。それが司法書士として「死」の最前線に関わっての感想です。
──本書の中で、安田さんは「身寄りなき者同盟」という提案をされていますね。親族がいない人たち同士が一定の距離感を持ったつながりをつくって、いざという時に助け合おうという「同盟」。この提案に賛同する人は多いと思います。
身寄りのない人が亡くなると困ったことになることが多いんです。病院に入ってとか施設に入ってといった、段階を踏んでの死であればまだいいんですが、孤独死や突然死の場合はそもそもその人が誰なのか特定できないこともあります。
そういうことって実はシニア層だけでなく、若い人でも起こりえます。この本を読んで、もともと身寄りがない人や、身寄りを自ら断ち切ってしまった人は、自分にもしそういうことがあったらどうするのか、ということに少しでも思いをはせていただけるといいと思います。
──もしもの時に誰に頼めるかと考えると、自分の周りの人間関係を振り返るきっかけになりますね。
『わたしの骨はどこへいく?』を、連載していた時に、私の友人、知人から何人にも声をかけられたんです。「何かあったら絶対言うてきてや」とか、「何かあったら行くからね」って。ありがたいなと思いました。私が死んだらこの先、骨はどうなるのか、みたいなことばかり書いていたので、心配してくれたみたいで(笑)。
こちらが壁をつくってしまって、ここから入ってこないでくださいと言ってしまうとそれまで。もしかすると助けを求めることも大事なのかなと思ったりもしましたね。
──骨の話は死の話でもあるんですけど、どう生きていくのかという話でもあるんですね。
本当にそうなんです。この本は自分の骨について考えて、最後には行き先まで書いてしまいましたが、結局、残りの人生をどれだけ充実したものにできるかという意味合いもあるのかなと。終活自体が本来そうで、決して後ろ向きな話ではないんですよ。終わりを考えることで、残りの人生を頑張っていこうぜ、と前向きになれる。この本はそういう本をつくりたくて書いたんです。
わたしの骨はどこへいく?
安田 依央
2026/4/241,980円(税込)224ページISBN: 978-4087817768ひとりで生きることはできる。ひとりで死ぬことも、できる。
けれど、ひとりで「骨になる」ことは、難しい……。
ひとりっ子、独身、親戚づきあいなし。老親(父親)あり。無宗教でオタクで、他人に頼ることは苦手――かつて司法書士として依頼人たちの終末にかかわり、「終活」を広める活動をしてきた作家・安田依央が、還暦(60歳)を機に、「自分の骨の行方」について真剣に考えた。
国や自治体の制度は? 民間のサービスは? 自分は腐ることなく、無事、骨となれるのか? 運よく骨になれたとして、そのあと、誰に運ばれて、自分はどこへいくのか……?
「終活」のそのまた先にあるもの。現代に生きるすべての人に関係するテーマ「骨の行方」。
過去を生きた先人たちから受け継ぎ、はるか未来へとつづいてゆく「骨の道」を旅するエッセイ。
《目次》
序章 ~骨、尊くて時々やっかい~
【before骨】第一章 骨への遠き道のり
【before骨】第二章 腐らず骨になれ
【after骨】第三章 墓は消え 骨は残る
【after骨】第四章 骨の道
【after骨】第五章 骨の行き先――古の物語、そして未来
【after骨】最終章 わたしの骨はどこへいく

