長かった欧州クラブシーズンも、5月31日のチャンピオンズリーグ決勝を最後に閉幕。各クラブは一息入れる暇もなく、来シーズンのチーム編成に焦点を移している。
その出発点となる監督人事だが、セリエA上位では、就任1年目でインテルを優勝に導いたクリスティアン・キブを筆頭に、熾烈を極めた4位争いを最後に制してCL出場権を勝ち取った3位ローマのジャン・ピエロ・ガスペリーニと4位コモのセスク・ファブレガス、さらには6位ユベントスのルチャーノ・スパレッティの留任が決まっている。
その一方で、最後の最後でCL出場権を逃し5位に終わったミランのマッシミリアーノ・アッレーグリ、昨季就任1年目でスクデットをもたらしながら、今季は多くの故障者に見舞われて2位に終わったナポリのアントニオ・コンテという2人の大物が退任することになった。
2010年代を支配したユベントスの9連覇を支え、イタリアを代表する名将という評価を集めてきたこの2人が送った今シーズンは、どんなに偉大な監督もいつかは時代の波の洗礼を受ける時が来るという現実を、改めて突きつけるものだった。
ナポリを率いた2年で優勝、2位という結果を残しながら、自ら退任を決断したコンテは、アウレリオ・デ・ラウレンティス会長と並んで臨んだ記者会見の席でこう語っている。
「何人かの新戦力が元々のグループとかみ合わなかった。もうひとつ、あなた方マスコミも含めてチーム内外をひとつに結束させることができなかった。それが不可能だとわかったので、会長にこれ以上ここで続けていくことはできないと伝えた」
ナポリの今シーズンは、チームの中核を担うべきだった新戦力ケビン・デ・ブライネを筆頭に、アンドレ・アンギサ、アミル・ラフマニ、ダビド・ネーレスら主力の相次ぐ故障離脱もあって、紆余曲折に満ちたものだった。故障者が出るたびにシステム変更を含む戦術の見直しを強いられながら、一度も大崩れすることなくトップ3を維持したコンテの手腕は評価に値する。ただ、その代償は決して小さくはなかった。
故障者が続出したこと、チーム内外にさまざまな軋轢を作り出したことも含めて、チームをギリギリまで追い込んで力を絞り出そうとするコンテの監督メソッドの「持続可能性」が改めて問われる結末となったことは、決して無視できない。ここ10年間に率いた5つのチームすべてで、長くても2シーズンで退任している事実は示唆的だ。
昨シーズンのフビチャ・クバラツヘリア、今シーズンのデ・ブライネのように、自身の戦術に収まらないタレントを持て余すところも限界のひとつ。デ・ブライネは、ベルギー代表に合流した後のインタビューで「(コンテの退任に)個人的には満足している。サッカーに対する見方が違い過ぎた。一度も本来のポジションでプレーできなかった」とかなり辛辣にコンテを批判している。
デ・ラウレンティス会長は、後任候補としてヴィンチェンツォ・イタリアーノ、アッレーグリという戦術的には対極にある2人を検討したと伝えられており、最終的にアッレーグリに白羽の矢を立てた格好だ。攻撃よりも守備に軸足を置くところは共通しているが、機械的なパターンやメカニズムの遂行を戦術の基本に据えたコンテと、選手個々の読みと判断を基盤に連係を構築しようとするアッレーグリでは、チーム構築のアプローチとメソッドは少なからず異なっている。
いずれにしても、以下で触れる今シーズンのミランにおける失敗で、アッレーグリはコンテとはまた違う側面から監督としての限界を指摘されている、コンテと同世代のベテラン監督をあえて選ぶという決断は、デ・ラウレンティスの現実主義的な経営感覚を反映しているように見えるという意味で興味深いものだ。
そのアッレーグリが率いたミランがシーズン終盤に見せたあっけない崩壊ぶりは、大きな物議を醸すものだった。
昨シーズン、2人の外国人監督(パウロ・フォンセカ、セルジオ・コンセイソン)を「灰にして」8位に終わったチームを引き受けると、ルカ・モドリッチ、アドリアン・ラビオという欧州最高レベルの経験・実績と強いパーソナリティーを備えたベテランを中心に、自身のサッカー哲学を反映する明確なスタイルを持ったチームを短期間で構築し、3月初めまで首位インテルに続く2位の座を守り続ける。
ところが、そこからのラスト10試合で6敗を喫し、最後の最後で最低目標だった4位以内(=CL出場権)からも転落して、最悪の形でシーズンを終えることになった。
失点回避を最優先してリスクを最小限に抑えて試合をコントロール、相手のミスや偶然がもたらしたチャンスを見逃さずにしっかりモノにし、奪ったリードを落ち着いて守り切る結果至上主義に徹したアッレーグリのスタイルは、スクデットという明確な目標が目の前にある間は機能した。
ダービーの勝利後に発した、持ち前のリアリズムで「インテルとは戦力が違う。ここで浮き足立って我を失うのは愚の骨頂。我々の目標はあくまでCL出場権」と熱狂にブレーキをかけるようなコメントは、いい意味でも悪い意味でも監督としてのアッレーグリのあり方を象徴しているように見えた。
しかし、続く29節のラツィオ戦で敗れてスクデットの可能性があっけなく消え、4位以内が本当に唯一の目標になると、チームは前を見るよりも後ろを気にしてポジティブなエネルギーを失い、リスクを怖れる消極的な戦いに終始するようになっていく。
続く6試合は2勝1分け3敗。ネガティブな状況を敏感に感じ取ったサポーターは、優勝を求めずCL出場権(がもたらす収益)にしか興味を持たないクラブ運営はミランの歴史と伝統への裏切りでありサポーターへの侮辱であるとして、米国資本オーナーとその下で経営を取り仕切るジョルジョ・フルラーニCEOに厳しい抗議の矢を向け、5月10日のアタランタ戦(36節)の途中で応援をボイコットする。こうしてチームを取り巻く環境はますますネガティブな空気に包まれていった。
勝てば4位以内が確定したにもかかわらず、開始2分に先制したその瞬間からリードを守ることしか考えていないかのようにベタ引きした揚げ句、同点どころか逆転まで許して自滅した最終節のカリアリ戦は、(結果論を承知で言えば)訪れるべくして訪れた結末だったのかもしれない。
2021-22シーズンにユベントスに復帰してからの3年間も含め、手放しでポジティブに評価できるシーズンを送っていない事実は、コンテとは別の意味でアッレーグリという監督の限界を物語っているようにも思えてくる。
オーナーのジェリー・カルディナーレは、この結末を受けて、フルラーニCEO以下、テクニカルダイレクターのジェフロワ・モンカダ、スポーツダイレクターのイグリ・ターレ、そして監督のアッレーグリと、マネジメント、強化、チームという3部門すべての責任者を解任し、ミランを一旦更地にして一から再構築しようとでもいうような取り組みを進めている。
後任のCEOや監督については、何人か候補の名前が挙がっているものの、本稿執筆時点ではまったく未定と言っていい状態。ミランというクラブのアイデンティティーをどこに求めるのか、まったく見えてこないことも含めて、迷走中、という言い方が最も似合うかもしれない。
ミランでの仕事をこのような形で終えたにもかかわらず、ナポリを率いることになったアッレーグリに関しては、「捨てる神あれば拾う神あり」という皮肉めいた諺が頭をよぎったりもするが、コンテが残したチームをどのように再構築しようとするのか、時代の洗礼を受けたようにも見えるそのメソッドはまだ通用するのかなど、注目すべきポイントは少なくない。正式就任後の第一声がまずは楽しみである。
文●片野道郎
【動画】セリエA最終節のナポリvsウディネーゼ、ミランvsカリアリのハイライト
【現地発コラム】21度目スクデット、インテルを「再生」させたキブの手腕と大きな意義「前任者が残した3-5-2という強固な基盤を維持しながら」
【画像】2025-26シーズンのセリエAを彩ったスター選手30人――ラウタロ、バレッラ、パス、モドリッチ、ラビオ、ユルドゥズ、デ・ブライネ、ディバラ、鈴木彩艶

