
「こら、アイスランド! バラすな!」W杯対戦国がツッコミを入れているかも? 日本が苦しんだ“ハイプレス破り”の正体
[国際親善試合]日本 1-0 アイスランド/5月31日/国立競技場
5月31日に行なわれた親善試合のアイスランド戦、日本は終了間際の87分に小川航基が決勝ゴールを挙げ、1-0で競り勝った。
日本のシステムはお馴染みの3-4-2-1。アイスランドは基本的に4-2-3-1だが、ボランチのMF16番ステファン・テイトゥル・ソルダルソンを軸に、彼がDFの間に下がることでビルドアップ時に3枚回しに変形したり、自陣守備時は5バックへ移行したりと、可変性の高いシステムだった。
序盤は日本がボールを持って攻め込む展開が続いた。堅く守るアイスランドの5-4-1ブロックをいかに崩すか。この攻撃局面で、序盤から日本が見せた戦術が『オーバーロード』(過負荷)だった。
日本は攻撃時に両ウイングハーフが上がり、3-2-5の5トップ型に変形するが、対戦相手が5バックを敷く場合は、5トップが相手DFとマンツーマンでかみ合い、1対1のこじ開け以外では攻め手を失いがち。そこで『オーバーロード』だ。すなわち特定のエリアに意図的に人数を集中させ、突破の糸口を探る。
ポイントは両シャドー、久保建英と伊東純也のポジショニングだった。伊東は左シャドー、久保は右シャドーが基本だが、2人ともに持ち場のサイドを離れて、逆サイドへ顔を出す。マッチアップしている相手DFからすれば、自分と対面する久保や伊東が逆サイドへ流れていき、手持ち無沙汰になるが、それを追走すると最終ラインに大穴が空くので、行けない。その結果、久保らの逆シャドーが加わってオーバーロードしたサイドに、日本の数的優位ができる。
特に今回、大きな効果が見られたのは、久保が逆サイド(左サイド)へ流れたケースだ。左シャドーの伊東が大外レーンへ流れ、ライン間のより狭くなったエリアではそれを得意とする久保がプレーする配置になり、適材適所で良質のチャンスを生み出していた。
これは5バック破りとして、すでに一定の手応えを得た戦術でもある。たとえば昨年11月のボリビア戦だ。後半に守備を5バックに変えてマッチアップさせた相手に対し、日本は67分に中村敬斗と町野修斗を、上田綺世と同時に投入。左シャドーに入った中村が右サイドにも顔を出し、オーバーロードさせて町野が背後への飛び出し役になりながら、局面に数的優位を作って突破し、2ゴールを追加した。オーバーロードは本番でも重要な選択肢のひとつになるだろう。
一方で、日本がこうした打開の手段を持ちながらも、時間とともに攻めあぐねる傾向が強まったのは、相手が慣れてきたこと、ハイプレスを織り交ぜて前進を阻んできたこともあるが、もうひとつは、日本のプレッシングが空振りしていたことだろう。一旦アイスランドがボールを持つと、日本はボールを奪えないまま、走らされる。現状のコンディションでは身体が重く、辛そうだった。
これまで日本のハイプレスは、中央をマンツーマンではめることが多かった。それを前提に、サイドの縦ズレなどでプレスのスイッチを入れていく。
ところが、可変性の高いアイスランドのビルドアップには、マンツーマンが混乱させられた。16番のMFソルダルソンが下がって3枚回しに変化しつつ、14番アンドリ・ファンナル・バルドゥルソンが中盤で受けたり、トップ下の18番ギスリ・ゴッツカルク・ソルダルソンが下がって来たり。
彼らを放置すると延々とポゼッションを許してしまうので、追走したいところだが、MFが出て行くとアイスランドはダイアゴナルにロングボールを蹴り、大きく打開して起点を作ってくる。まるでJリーグ、今は名古屋で監督を務めるミハイロ・ペトロヴィッチの戦術を彷彿とさせるやり方で、日本の武器であるハイプレスの切れ味を軽減させた。
日本も前半のハイドレーションタイム以降、逆側のシャドーが絞って中央のMFを抑え、サイドはウイングハーフの縦スライドに任せるなど対策は打ったが、それでも可変性の高いビルドアップに対して対人ベースのプレッシングを完璧にはめるのは難しく、四苦八苦していた印象だ。
W杯本番の対戦国を見ると、オランダ、チュニジア、スウェーデン。今回アイスランドが見せた戦術は、どこが用いてもおかしくない。先に見せて頂いて、良かった。むしろ今頃、対戦国の監督たちは日本対アイスランドの試合映像を見ながら、「こら、アイスランド! 狙ってたハイプレス破りをバラすな!」と思っているかもしれない。
文●清水英斗(サッカーライター)
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