先月公開されたディズニープラス配信シリーズ「エイリアン:アース」の大ヒット視聴率によって今年下半期のSF映画への期待も高まっている。今週末日米同時公開の『トロン:アレス』、そして来月11月7日日米同時公開の『プレデター:バッドランド』と旧作が奇抜なアイディアと魅力的な登場人物で塗り替えられた背景を最新ハリウッドニュースも含めてご紹介。
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『トロン:アレス』
脚本家ストライキで公開が遅れた『トロン:アレス』。伝説の映画『トロン』(1982)は名だたる映画監督を感化し、2作目『トロン:レガシー』(2010) と続くも、続編としてのハードルは高く、1作目の感動を超えられずに終わった。それから15年たった今作の秘密兵器は物語。最新のハイテクプログラムで作り上げられたAI兵士のアレスがデジタルワールドから現実の世界に送り込まれたとき、彼はクリエイターからの命令に従いながらも、その言葉一つ一つに注意を払っていた。「AIとしてのミッションに失敗すれば、君たちはこの世から消されるだけ。」人間よりも圧倒的に優れた知能とパワーを持つAI兵士アレスは、地球環境にも注意を払い、初めて雨の音を聞きながら、冷たいデジタルワールドでは感じたことがなかった人間のフィーリングに耳を傾けるのだった。
3Dプリンターのような巨大装置で作られたAI兵士が生きられるのは29分。今まで、ピノキオが人間になりたいというおとぎ話のような物語は何度も作られてきたが、SFアクション映画として、この映画をスリリングなものにしていくのが、AI兵士アレスが興味を持つ人間たち。まず、自分の会社のことだけしか頭にないAI兵士クリエイター、ディリンジャー社のCEOジュリアン (エヴァン・ピータース) 。そして、そのライバル会社エンコム社の女性CEOイヴ (グレタ・リー) 。彼女はエンコム社の元CEOで失踪したケヴィン・フリン (ジェフ・ブリッジス) の意思を継ぐ役員で天才的なプログラマー。同じくプログラマーだった姉を病で亡くし、その共同研究を引き継いで、ジュリアンにはできなかった画期的なデジタルプログラムの延命成果をあげていた。ジュリアンはイヴが29分以上も延命を可能にしたことに嫉妬し、彼女を人質にしてその技術を盗むために、AI兵士アレスとそのパートナーを送り、誘拐を企む。しかし、AI兵士アレスはイヴのコンピューターエンジニアとしての才能を知れば知るほど、イヴのビジョンに賛同。ジュリアンの命令に逆らい、自らの運命をイヴに託して、とんでもないサバイバルのチェイスに巻き込まれることになる。
「人間として生きてみたい。」そんな感情をAIの冷静かつ沈着な面持ちで表現できるのはカリスマあふれる俳優ジャレッド・レトしかいない。『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(2013) でアカデミー賞初ノミネートにして、助演男優賞を受賞以来、作品を選び抜いているレト。SF映画は、『ブレードランナー 2049』(2017) や、マーベル作品『モービウス』(2022) という天才医師でバンバイアという人間と吸血鬼の狭間を生きる役を演じるなど、常に複雑な役に挑戦していて、今回も観客を惹きつける主人公アレスを演じていて、フランチャイズを今後もリードしていくようだ。
この映画の主人公を演じてきたジェフ・ブリッジスもジャレッド・レトも俳優でありながら、自らバンドで演奏活動するほどの音楽好き。映画『トロン:アレス』の映画音楽を手掛けたのが、ロック界の伝説的存在ナイン・インチ・ネイルズ (NIN) のメンバー、トレント・レズナーとアッティカス・ロス。この2人の作り上げた映画のビートとメロディーは、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』 (2010) 以来、確実に映画作曲家として定着。最近ではルカ・グァダニーノ監督の映画『チャレンジャーズ』(2024) の音楽でも評価され、ビートの効いた躍動感ある映画音楽を発信している。今回、2人がNINとバンド名で映画音楽を手掛けるのは初めてのこと。
10月7日、センチュリーシティで全米映画公開前に行われた試写後の会見には、トレント、アッティカス、そして、オリジナルの『トロン』でカルト的人気を誇るジェフ・ブリッジスが登場。ジェフ・ブリッジスはこのシリーズ映画3作全てに出演した役者冥利に浸り、VFXがオリジナルからどのように変貌したかを切々と語っていた。トレントとアティカスは映画音楽を作るにあたっては、バンドの音楽ではなく、映画に登場する主人公の気持ちが作曲をするにあたって重要で、70年代の映画『ジョーズ』(1975) など、映画音楽を聴いて即座に映画が分かるような楽曲に多大な影響を受けたとも語っていた。
おまけになるが、イヴと逃げ回る中でAI兵士アレスがハマるのが英国バンド、デペッシュ・モードの音楽。AI兵士アレスが音楽を聴いて、そのAI知能でミュージシャンについて調べた内容をとくとくと語る点もおもしろい。デペッシュ・モードは80年代、90年代に一世を風靡し世界的名盤を数多く生み出したバンド。まるでハリウッド映画の公開に合わせたように、彼らのドキュメンタリー映画『DEPECHE MODE: M』というファン垂涎のライブコンサート映画が日米同時に10月28日から劇場公開される。
『プレデター・バッドランド』
現在、アメリカの予告編の中で、最も関心が集まっているのが、『プレデター:バッドランド』のスローガン ”Hunt is Back”。 狩るか、狩られるかの壮大なバトルのヒロインは現在最もホットでかわいい女優エル・ファニング。元は『アイ・アム・サム』(2001) のダコタ・ファニングの妹としてデビューしたものの、メキメキとその女優魂を発揮し、現在、あらゆるジャンルの映画に引っ張りだこである。日本では小島秀夫の「DEATH STRANDING2」でお馴染みのゲームキャラを演じるなど、映画にテレビにゲームとマルチに活躍の場も幅広い。
新作『プレデター:バッドランド』の役はなんと、人間と見分けがつかないほど精巧なシンセ (アンドロイド) のティア。悟りを得た少女のような存在で、醜いプレデターとタッグを組む内容は、シュワちゃんこと、アーノルド・シュワルツネッガーが主演した『プレデター』(1987) とは大きく違う。透明人間のような、動物のカモフラージュ技を使って敵を片っ端から攻撃していたプレデター対、屈強な軍人との戦いではなく、プレデターの一族から追放された1匹狼戦士とハンディを背負ったアンドロイドとがチームを組むという斬新な発想。その美女と野獣のような最高のコンビを誕生させたのが、『プレデター:ザ・プレイ』(2022) からプレデターを追い続けてきた監督ダン・トラクテンバーグと脚本家パトリック・アイソン。
近未来の最悪の地バッドランドで、仲間から見放された若いプレデター、デク。しかし、下半身を失ったティアと出会うことで、自らが追うものではなく、追われるものであることを自覚。2人で力を合わせて戦いを挑む相手は、ウェイランド・ユタニ・コーポレーション(Wey-Yu)という巨大組織。それは、ティアというWey-Yuのシンセ(人工知能を搭載した人造人間)を産んだ大元だったのである。ちなみに、このウェイランド・ユタニ社というのが、『エイリアン』シリーズにも出てくる組織の名前なので、最新の配信シリーズ「エイリアン:アース」もSFファンにとっては必見なのである。
エル・ファニングは2025年のアカデミー賞作品賞にもノミネートされていた『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2024) でも大注目。今年は第78回カンヌ国際映画祭コンペで19分のスタンディングオベーションのあと、グランプリを受賞した映画『Sentimental Value (英題) 』にも出演していて、『わたしは最悪。』(2021) のヨアキム・トリアー監督のスウェーデンチームと意気投合した演技の幅は見事。活躍の場がどんどん広がっている注目の女優である。
文 ・(会見)写真 / 宮国訪香子
映画『トロン:アレス』
世界で初めて長編映画としてCGを本格導入し、映像エンターテインメントの歴史を変えた映画『トロン』最新作。高度に洗練されたプログラム“アレス”が、ある危険なミッションのために現実世界へと送りこまれる。いまデジタル世界が現実世界を侵食する。
監督:ヨアヒム・ローニング
出演:ジャレッド・レト
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
2025年10月10日(金) 日米同時公開
公式サイト disney.co.jp/movie/tron-ares
映画『プレデター:バッドランド』
プレデターが主人公の完全なる新章。誇り高き戦闘一族から追放され、宇宙一危険な「最悪の地(バッドランド)」に辿り着いた若き戦士・デク。次々と敵に襲われる彼の前に現れたのは、上半身しかないアンドロイド・ティア。「狩り」に協力すると陽気に申し出る彼女には、ある目的があって――。
監督:ダン・トラクテンバーグ
出演:エル・ファニング
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
2025年11月7日(金) 全国劇場公開
公式サイト predator-badlands
