並んでいた子どもの、たったひとつの問いかけ
そのときでした。さっき女性に払いのけられた小さな女の子が、列のあいだから、ぐるりとあたりを見回したのです。その手には、握りしめた五百円玉。たったひとつのシールを楽しみに来たのでしょう。
女の子は、女性をまっすぐ見上げて言いました。
「でも、みんなこまったお顔してるよ。ありがとうって、いってる人、いないよ?」
責めるでもなく、ただ見たままを口にした、素直な疑問でした。それまで黙っていた人たちが、いっせいにうなずきます。あちこちから、そうだという声がもれました。感謝してほしいと言ったばかりの女性の顔は、みるみる真っ赤になっていきます。
あわてて紙袋を抱えた拍子に、腕いっぱいのシールが床いっぱいに散らばります。それでも女性は、ひとつも拾おうとはしません。集まる視線から逃げるように、半ば駆け足で人混みへ消えていったのです。
そして...
女性がいなくなった台では、散らばったシールを、近くの人たちがだれからともなく拾い集めていました。あの女の子は、大事そうにシールを選んでいます。「やったあ」とはしゃぐ姿に、列のあちこちから小さな笑い声がもれます。
大人が何人も言いそびれていたことを、あの子はただ素直に口にしただけ。順番を守る、みんなで分け合う。あたりまえの約束のあたたかさを、私はあらためて思い出した気がします。
(20代女性・販売員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
