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ドーム映像作家飯田将茂監督&舞踏家最上和子の初長編『東京巡礼』完成──映画監督押井守を交えた豪華鼎談

ドーム映像作家飯田将茂監督&舞踏家最上和子の初長編『東京巡礼』完成──映画監督押井守を交えた豪華鼎談

東京に異物を置く破壊力

押井 今回の『東京巡礼』は久しぶりに東京の映画を観たって感じがしたよ。舞踏というよりも、東京の映画として面白く観た。僕は『機動警察パトレイバー2 the Movie』(93)で戦車を登場させたけど、東京の街に戦車を置くよりも人間のほうが威力があるってことに驚いた。

最上 そこが今回の映画のいちばんのポイントだよね。
押井 本当に驚いた。
飯田 東京に戦車を置くのは大変ですけど、人が街を歩くって、割とすぐできるじゃないですか?
押井 笑
飯田 すぐできるんだけれども、こんなにも変わるんだっていうのはある。
押井 意外にさ、戦車のある東京の風景って、すぐ馴染んじゃったんですよ。
最上 ああ。
押井 思った以上に破壊力がなかったなっていうか……まあ、日常化してしまうことまで含めて演出の狙いだったんだけど。今回の映画は本当に、人間がゆっくり歩くことで、人間が生きている時間軸がむき出しになった。そんな気がしたね。その横を忙しく通過していく人がいることで、スローモーションじゃないんだ、ここは都市の一部なんだと分かる。その都市の一部に強烈な違和感を持ち込んでみせた。
最上 私が舞踏の稽古の1つとして東京の街を巡礼するようになったのは17年前からだけど、元々の発想としては、外から見てどうこうじゃなくて、人間の中身だった。ゆっくり歩くことによって、一緒に巡礼した人たちが「音の聴こえ方が変わった」と感想を言うんですよ。それこそ車が走る音が鳥のさえずりに聴こえたとか、みんなそういう言い方をするんです。
押井 音ね。それを映画で疑似体験させてくれた感じはする。『東京巡礼』は音の使い方が巧かったよ。カメラを水中に沈めて撮っているオープニングシークエンスの水のボコボコ音とかは、ドーム映像の『HIRUKO』と同じだったから、いつものが始まったよ、この人は本当に水が好きなんだなと思いながら観ていたんだけど、東京の街に出てからは工事現場のガチャンガチャンだったり、いいタイミングでいい音が入るなぁって、本当に感心した。
最上 今回の映画は割とずっとノイズが鳴っているじゃないですか。でもうるさいとはまったく思わなかった。
押井 ぜんぜん。
最上 あの聴こえ方が舞踏体験でゆっくり歩いているときの感覚にすごく近かった。ドカンドカンとか工事の大きな音がしてもうるさくない。遥か彼方から聴こえてくるように感じて、鳥のさえずりも工事の騒音も同じになる。そういう体験をしちゃうんですよね。物の見え方すらすっかり変わってしまう。でもそれは映像に撮れないじゃないですか。
──それを音で表現した。
押井 映画を撮る人間だったら、ぜったい音楽を使いたくなるんだよね。
飯田 ああ。
押井 音楽で補完するっていうか、姑息なことを考えちゃうんだけど、音楽じゃなくて環境音で勝負した。かなり画期的だったし、面白かった。ノイズだからこそよかった。あれが音楽だったら映像に馴染んじゃう。
飯田 そうですね。
押井 ノイズで最後まで違和感をキープしたってのは大きいと思う。
飯田 どの音を意識させるかを作り手が操作できるのは映像の面白さだなと感じました。
押井 船の上で寝そべっているシーンもいいよね。
飯田 あそこは評判がいいです。

押井 さっきの彼岸の話ともつながってくるけど、試写会後の登壇スピーチで能楽師の森瑞枝さんが言っていたように、川には川のリズムがある。川の時間が流れている。たしかにそうなんだよ。『機動警察パトレイバー THE MOVIE』(89)のロケーションハンティングで船に乗ったときに東京ってこんなに静かな場所だったのか! って驚いたから。
飯田 あっ、本当にそうなんです。
押井 両側が切り立っているから、音がみんな上を通過して、東京にいる時間感覚を失うんだよね。
飯田 本当に不思議な体験でした。
押井 あと、船の上でやっぱり寝そべるんだなと思った。あそこで立って踊っちゃうとね、話がちがってくる。船の上でベタッと横になっているからこそ水を感じるというか、船が水を渡っている感覚がダイレクトに船の上にいた人たちに伝わったんじゃないかなと思うよ。かなり気持ちよかったはず。

舞踏を世間にどうアピールしていくか

──映画としての総合的な評価は?
押井 舞踏を世間にアピールするにはいい映画だなと思ったんだけど、だからこそ別バージョンも作っておくことをおすすめします。2時間20分の現行バージョンはちょっと長い。
最上 具体的に言うと?
押井 オープニングの水のボコボコを削って、ソロで踊っているところも削って、あとは中盤の人形を介護しているシークエンス?
飯田 ああ、はいはい。
押井 あそこはちょっと微妙かなと思った。あそこだけ別の話が入っている気がする。
飯田 う〜ん。

押井 たしかに面白いんだけど、ストレートに舞踏っていうことに結びつかないよ。普通の感覚で言うと。
最上 それは舞踏を「踊り」だと思っているからじゃない?
押井 たぶんね。
最上 それ、踊りじゃないんだよ。もちろん踊りもあるんだけど、踊りだけじゃない。
踊りの手前のところだから、私がやっているのは。
押井 そうなんだけど、たぶん普通の人はちょっと分かんないと思う。
最上 そうか。
押井 芝居の台詞が流れているんだけど、舞台の上は空っぽであるとか、客席も空であるとかさ。あそこだけね、演出の意図が猛烈に入っている。
飯田 たしかに、それは。

押井 演出全開ですよ。
飯田 いちばんあざとく。
押井 面白いんだけど、あそこは普通に……。
飯田 実験的なアート映画に……。
押井 なっちゃっているよね。昔から映画でも演劇でもあったんですよ。舞台の上に灰皿が置いてあって、煙草の煙が流れているだけとか。観客を不在にして演劇をやってみたりとか。観客を舞台に乗っけちゃって、逆に演者は客席から芝居をしてみたり。一時期のポップアートみたいなもんで、試みとしてはいくらあっても構わないんだけど、試みが裏目に出てしまう場合がある。まして世の中に舞踏を認知してもらうための、舞踏をアピールするための映画だというのであれば、再編集をおすすめします。編集するだけだから、そんなにお金もかからないよ。

──映像そのものは?
押井 撮影のクオリティは本当に高いと思った。このままシアターで公開できるクオリティだよ。

──音は?
押井 いまの段階でステレオ2チャンネルですよね?
飯田 はい。劇場で鳴らす音まではまだ作り込めていないなと思っていて、これからの時間を整音とリミックスに費やすつもりでいるんですが。
押井 とりあえず2チャンネルあれば、いいと思いますよ。あのノイズが本作の魅力なので、逆に整音しちゃうと、インパクトが落ちるかもしれない。

──本作は国際映画祭への出品と、2027年の日本での劇場公開をめざしています。
押井 映画祭にもピンからキリまであるから、ちゃんと見極めて応募しなくちゃダメだけど、こういう映画を上映してくれる映画祭はあるはずだし、賞をもらうとか以前の話として、上映作品に選ばれた時点で公式上映作品という勲章は貰えるから、映画祭に出すのはいいことだと思う。映画祭での上映をきっかけに『東京巡礼』を手がけたいと名乗り出る国内外の配給会社もいるはずだよ。

──ドキュメンタリー映画ではないけども、劇映画でもない。ジャンル分けしにくいユニークな映画です。
押井 これが初長編監督作品だとは思えないほど映画としてのクオリティはかなり高いので、だからこそ現行バージョンと、舞踏の魅力を世間にアピールしやすいショートバージョンの2つを用意しておいて、あとは今後の展開に合わせていくのがベストだと僕は思うよ。

(文:鶴原顕央 写真:山岸悠太)

飯田将茂監督が代表を務め、最上和子氏が稽古場を主宰する制作集団ユリシーズHP
https://ulysess.jp/about.html

(執筆者: リットーミュージックと立東舎の中の人)

配信元: ガジェット通信

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