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輝かしい現役時代から一転…“無能経営”“セクハラ”など引退後は失敗続きのトーマスがNBAに戻る日は来るのか【レジェンド列伝・後編】<DUNKSHOOT>

輝かしい現役時代から一転…“無能経営”“セクハラ”など引退後は失敗続きのトーマスがNBAに戻る日は来るのか【レジェンド列伝・後編】<DUNKSHOOT>

■不屈の闘志を武器に、念願のNBA制覇を達成

 それでも翌シーズンはついにセルティックスを倒し、ファイナルでマジック・ジョンソン率いるレイカーズと対戦した。マジックの自宅にはトーマスの宿泊用の部屋があるほど彼らは仲が良く、対戦前には必ず挨拶代わりのキスを交わしていたが、ピストンズはいつも通りのフィジカルなプレーを繰り広げ、怒ったマジックがトーマスにヒジ打ちを食らわせる場面もあった。

 3勝2敗とピストンズの王手で臨んだ第6戦、第3クォーターで14連続得点を決めるなど乗りに乗っていたトーマスは、右足首をひどく捻って倒れ込む。苦痛に顔をゆがめて一旦はベンチに下がったものの、早くも35秒後にはコートに戻ってきた。

「足首の痛みは我慢できた。それよりも、こんなことで今まで積み上げてきたものを失う方が耐えられなかった」

 足を引きずりながらもトーマスはシュートを決め続け、クォーター25点のファイナル新記録を達成。試合全体では43得点をあげた。最後の最後で逆転負けし、第7戦にも敗れて優勝も逃したとはいえ、トーマスの英雄的な活躍に誰もが手放しで称賛の声を送った。
  しかし翌1988-89シーズンには、またしても非難の矢面に立たされる。シーズン中盤、主力選手のエイドリアン・ダントリーがマーベリックスへトレードされたのだが、その首謀者がトーマスだと言われたのだ。

 もちろんその噂には 根拠があった。トレードの交換相手が、幼なじみのアグワイアだったからである。ダントリーは「優勝するチャンスを奪われた」と憤慨し、ダントリーの母親までがトーマスを「チビの詐欺師」と罵倒した。

 こうしたゴタゴタはあったが、アグワイアの獲得は吉と出た。トレード後のピストンズは31勝6敗の快進撃で、プレーオフでもブルズを叩きのめして望み通りレイカーズとの再戦が実現。レイカーズに故障者が続出したこともあり、ピストンズは4連勝で球団史上初の優勝を成し遂げた。

「8年間追い求めてきたものをついに手に入れたんだ。苦労も多かったけど、その分喜びも大きいよ」

 入団当時の公約を果たしたトーマスは誇らしげに語った。

「このチームはセルティックスやレイカーズほど才能には恵まれていない。けれども、足りない部分を賢さとタフさ、そして意志の力で補った。信頼の深さと絆の強さは、他のどこにも決して負けないさ」
 ■輝かしい実績とは裏腹に拭えぬ“悪役”のレッテル

 続く1989-90シーズンも、平均27.6点、 7.0アシストでファイナルMVPに輝いたトーマスの活躍で、ポートランド・トレイルブレイザーズを下しピストンズは2連覇を達成した。

 だが翌1991年はカンファレンス決勝でブルズに4連敗。試合後トーマスが先頭になって、ブルズの選手たちと挨拶を交わさずコートを去ったことで、またしても非難を浴びた。この時を境にジョーダン時代の幕が開き、バッドボーイズ王朝は終焉を迎えた。

 トーマスのキャリアもその後は下り坂だった。1992年のバルセロナ五輪ドリームチームにも、スーパースター級の選手ではただ一人選ばれなかった。トーマスとジョーダンが犬猿の仲であることを考慮したものだと思われるが、大学時代の1980年にモスクワ五輪代表に選出されながら、アメリカのボイコットで幻となった経験があっただけに、残念な結果だった。

 1994年の世界選手権(現ワールドカップ)もアキレス腱断裂のために出場できず、最後まで世界を舞台に戦うことはできなかった。 結局このケガが引き金となり、33歳の若さでトーマスは現役を退いた。

「こんなに早く引退するとは思わなかったが、素晴らしい時を過ごせました」

 松葉杖をつきながらの引退会見で、トーマスは涙ながらに語った。
 「数多くの友人に恵まれ、子どもの頃には想像もしなかった多くの場所を訪れることができたのも、すべてバスケットボールのおかげでした」

 引退後はピストンズのフロントで働き始めたが、オーナーと対立して退団。1995年に結成されたトロント・ラプターズの球団社長に迎えられ、就任当初はまずまずの好成績を収めて手腕を評価されたが、またしても経営陣との軋轢から退団する。

 2000年から3年間インディアナ・ペイサーズで指揮を執った時も、はかばかしい成果を得られず3シーズンで退任。そしてニックスでの混乱ぶりは、前編で記した通り。その後大学のコーチに招かれたときも結果は出せなかった。

 かつては「今まで見てきたなかで、最も頭脳明晰な選手」 (当時のピストンズのアシスタントコーチ、 ディック・ハーター)と呼ばれていたトーマスだが、現状は非常に寂しいものと言うしかない。2025年には無名のプロリーグで新球団のヘッドコーチに任命されたが、はたしてNBAの世界に戻ってくる日は来るのだろうか。

文●出野哲也
※『ダンクシュート』2008年3月号原稿に加筆・修正

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配信元: THE DIGEST

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