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「移籍金収入は予算に入ってないの!?」欧州育成の名門に驚かれたJクラブの実情。“タレント輸出大国”はどうすれば移籍金ビジネスで潤えるのか【現地発】

「移籍金収入は予算に入ってないの!?」欧州育成の名門に驚かれたJクラブの実情。“タレント輸出大国”はどうすれば移籍金ビジネスで潤えるのか【現地発】


 技術に優れ、戦術遂行能力も高い日本人選手は、欧州サッカーの人気銘柄だ。日本は今や”タレントの輸出大国”と言えるだろう。欧州の激しい戦いの中で揉まれ、たくましく成長する姿に、彼らを育てたJリーグのアカデミー関係者も誇らしい気持ちのはずだ。

 しかし選手の移籍によって、Jリーグのクラブは十分な利益を得ているだろうか。欧州では、日本人の選手は能力が高い割に安いと見られている。つまり、欧州のクラブは日本人を安く買って、高く売って潤う一方、Jリーグのクラブはその移籍金ビジネスのスキームから外れているのだ。

 欧州で活躍する日本人選手が増え、そのことが日本サッカーのレベルアップに繋がったことは確かだが、移籍金ビジネスでは『失われた四半世紀』と呼ぶことができるのかもしれない。言い方を変えれば、Jリーグにはまだ、アカデミーの投資から利益を得る伸びしろが大きくある。
 
 この春、Jリーグ・フットボール本部育成部の伊達倫央氏と黄川田賢司氏は10日間に渡って欧州を訪れ、シント=トロイデン(ベルギー)、アヤックス、NEC(ともにオランダ)、マインツ(ドイツ)のアカデミーを視察した。

「Jリーグの育成部は、60あるJクラブのアカデミーと会議をしたり、アカデミー・クラブライセンスの取りまとめをしたり、アカデミーをサポートしたり、大会の企画・運営など、クラブのアカデミーの活動に寄り添う部署です」(黄川田氏)

 今回の彼らの視察テーマはズバリ、アカデミーで育てた選手の資産価値をいかに最大化するか。訪問したクラブは若手にとって終着駅ではなく、いずれは移籍金を残して羽ばたいていく。黄川田氏と伊達氏は「そのスキームに再現性があれば、移籍金ビジネスで遅れをとったJリーグの各クラブに情報を共有することができるのではないか」と睨んで、春のヨーロッパを訪れたのだ。
 
 なお本稿は試合観戦を除き、各クラブの名称を省く。その旨、読者の皆様にはあらかじめご承知おき願いたい。
 
 手塩にかけて育てた若い選手に、海外からオファーが届き、本人も行く気満々なのなら、「行ってこい!」と快く送り出してあげたいのが、クラブとしての親心。しかし、“選手の思い”優先の移籍に、クラブとしての戦略はなく、Jリーグのクラブは適正な額の移籍金を得ることができなかった。
 
「近年、Jリーグのアカデミーの育成もかなりいい方向に進んでいると思っています。次は、各クラブが選手の育成からどれだけ投資利益(ROI)を得ていくか。今回の視察の目的は、欧州のクラブがいかにそれを戦略的に行ない、現場のスタッフや指導者がどう関わっているのか、見たり聞いたりすることでした。Jリーグのアカデミーの育成力が高まってきたなか、『トップチームに上げておしまい』ではなく、世界のマーケットを意識して選手の価値を最大化することが次のステップになります」(黄川田氏)
 
 20年間に渡り清水エスパルスでトップチームとアカデミーに携わってきた伊達氏は、日本と欧州の事情を比較した。

「ヨーロッパではビッグクラブやそうでないクラブも、クラブの身の丈に合った戦略を立てて、選手が成長したら移籍に協力して、アカデミーの選手がクラブにお金を残していくシステムを構築している。Jリーグのクラブには『日本代表で選ばれるぐらい、いつまでもうちのクラブで活躍し続けてほしい』という思いがある。その価値観の違いを今後、どうすり合わせていくか。新シーズンからJリーグも欧州と同じ8月開幕にシーズンが移行するので、ますます海外移籍が増えていく。Jリーグもアカデミーの選手の価値をしっかり最大化できるようにしないといけません」(伊達氏)
 選手の価値を高める方法の一つとして、まだトップチームで活躍するような力がなくても、将来、有望な選手にはカップ戦でもいいから出場時間を与えること。
 
「今回、訪問したクラブは戦略的に選手の出場時間をマネジメントし、意図的に選手の価値を高めてました」(黄川田氏)
 
 もちろん、若い選手に闇雲にトップチームでの出場時間を与えればいいというわけではない。経営陣、トップチーム、アカデミーが三位一体となって若い選手の未来をデザインし、タレントたちが定期的にトップチームの練習に参加するなど、移行時期(トランジション)を設けながら、試合での経験を積まさないといけない。しかし、もし経営母体から送り込まれたクラブ社長がアカデミーの価値を知らず、「ともかく勝て。数字こそすべて」とトップチームに号令を出したら、このスキームは崩れてしまったりする。

「クラブの経営陣、トップチームを含めた強化部、アカデミー。これを『黄金の一貫性』と呼んでいます。はたして、クラブのフィロソフィーを元に一貫性をもってチームをマネジメントしたり、選手を育成したりできているのか。アカデミーからしたら選手育成を一生懸命やっているかもしれない。しかし経営者の理解がなく、『黄金の一貫性』が欠けてしまったら、育成は単なるコストセンターになってしまう。こういうことを防ぐためにも、サッカーと経営の言語をしっかり理解し喋れるスポーツダイレクターの存在は貴重です」(黄川田氏)

 訪問先のクラブで黄川田氏は3つの質問をかならずしていた。

・アカデミーの選手がトップチームにトランジションするとき、最終判断を下すのは誰なのか?
・その決定を下すとき、どのような会議体があるのか?
・そこにはどんなメンバーがいるのか?

 その答えはクラブによってまちまちだったが、一例を挙げるなら社長(経営陣)、テクニカルダイレクター、監督(トップチーム)、アカデミーダイレクター、コーディネーター(アカデミー)と、やはり『黄金の一貫性』を垣間見ることができた。

「今回の視察では選手の育成に関わるKPI(人事用語で“重要業績評価指標”と訳される)を定め、数値目標を立てながらやっているという話もありました。すごくいいヒントになると思いました。
 
 JリーグでもIDP(個別育成プラン)をやっているクラブは多い。これは選手自身が短期から長期の目標を定め、それに対して自身の強み・弱みを分析したうえで、目標達成に必要なものを洗い出し、それを具体的に進めるためのアクションプランを立てて実行していくもの。これをもとに定期的に面談し、指導者の評価と選手の自己評価の乖離をなくし改善していく。しかし、これを全選手に対して包括的にやるのはリソースが大変なんです。

 今回、あるクラブは“トップ・トップのタレント”にはアカデミーダイレクター自ら1か月に1回、面談をし、それ以外の選手には3か月に1回、スタッフが面接をすることで、リソースを使い分けてました。

 IDPはクラブが一方的に与えるものではなく、選手自身が自分のキャリアに責任を持ち、自発的にコーチの部屋を訪ねる環境を作る。今回、私たちのミーティング中に、選手がドアをノックして『話があるんだけれど。あ、今、会議中なんですね。それでは後で』とメンターに面会を求めるシーンもありました。選手主体のIDPにクラブが寄り添って、さらに戦略を立てる――。訪問したすべてのクラブに、そこが見受けられました」(黄川田氏)
 この夏から11チームによるU-21 Jリーグがスタートする。

「U-21 Jリーグは16歳、17歳の選手がストレッチして競争できるような場になったらいいな、という思いがあります。まさにオランダやベルギーではどのクラブもU21やU23のリーグをそういった選手たちの主戦場にして、トップチームに輩出していく場として活用している」

 今回の視察ではオランダリーグ2部に参戦するU21アヤックスが、デン・ボスのトップチームに勝利する試合を見ることができた。

「アヤックスのU21チームが、体格差や年齢差がある相手にまったく引けを取らず、何なら試合に勝利した。見ていてあっという間の90分間でしたね。勝っても負けても良い機会をクラブは若い選手に提供していると思うんです。その中で次から次へと選手を輩出していくエコシステムが出来上がっていると思う。そこからトップチームに昇格して活躍する選手もいれば、移籍する選手もいる。そこでクラブが投資利益を得て、育成に再投資するエコシステムを、日本でもしっかり構築していかないといけないと、あらためて思いました」(黄川田氏)

 今回、Jリーグ育成部が主にベルギー、オランダを視察したのには、明確な意図があった。それはこの2か国は5大リーグに続く、カテゴリー2のリーグだから。

「育成の成功とは選手のパスウェイ(キャリアプラン)を実現させること。Jリーグ自体はカテゴリー3のリーグです。まずは日本の若い選手はカテゴリー2のリーグでしっかり欧州のサッカーというものを経験し、出場時間をしっかり確保して活躍する。それから“セカンダリーマーケット”でカテゴリー1と呼ばれる5大リーグでステップアップし、欲を言えばCLに絡むようなクラブに行く。こうした“2回目の移籍”をいかに成功させるかが、Jリーグにとっては大事な戦略になってきます」(黄川田氏)

 日本→欧州への移籍で、Jリーグのクラブは大きな利益を得られてない現状がある。しかし、その次の移籍が成功すれば、Jリーグのクラブには連帯貢献金が入ってくる。また契約書にセル・オン条約を付けておけば、セカンダリーマーケットの移籍金の一部がJリーグのクラブに払われる。

 分かりやすいのは冨安健洋の例。19歳でアビスパ福岡からシント=トロイデン、20歳の時にシント=トロイデンからボローニャに移籍した冨安は、22歳でアーセナルにステップアップした。連帯貢献金は12歳から23歳まで育成した選手に払われる仕組みだから、アビスパ福岡、シント=トロイデン、ボローニャは冨安がステップアップを重ねるごと、利益を得ていた。選手本人にとっても、そのキャリアは、カテゴリー3(Jリーグ)→カテゴリー2(ベルギー)→カテゴリー1(イタリア)→エリート(イングランド&CL)という夢のようなパスウェイの実現だったと言えよう。
 
「これからヨーロッパに羽ばたく若い選手たちには、30歳近くになったらJリーグに戻ってきて、その経験を活かしてクラブに貢献し、引退したら指導者として『クラブのDNA』を継承する――そんな理想的なパスウェイがより描けたら良いなとずっと思っているところです」(黄川田氏) 
 
 今回の訪問先で「Jリーグのクラブの収入は主に2つ。興行収入とスポンサー収入です」と話したところ、「移籍金収入は予算に入ってないの!?」と驚かれた。

「移籍は縁もあることだから、日本では予算に立てることができない。仮に移籍で5000万円の予算を立てても、移籍が実現しなかったらそのぶん、赤字になってしまいます。だから“移籍金はあるかどうか分からない”というのが前提となり、帳簿上、特別会計の項目に入ってきます。しかしヨーロッパでは移籍金収入は目標として数値化されているので予算に入ってくる。その考え方の違いがあるかもしれない」(伊達氏)

「これからJリーグも興行収入、スポンサー収入に加え、移籍金収入も経営の柱にしないといけません」(黄川田氏)

 視察を終えた黄川田氏はこう締め括った。

「今回は良いヒントをもらうことができました。Jリーグとしてはクラブに押し付けることではなく、今回の視察で学んだ枠組みを我々なりにカスタマイズし提供することで、各クラブの現在地に合った育成戦略・パスウェイ戦略を立ててもらえるようにしたいですね」

取材・文●中田 徹
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配信元: SOCCER DIGEST Web

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