
■「僕自身、ライフセーバーのイメージからはかけ離れている。不安でした」
舞台となるのは、安全で美しいビーチやマリーナに与えられる国際環境認証制度「ブルーフラッグ」をアジアで初めて取得した、福井県嶺南地方の高浜町・若狭和田ビーチ。就職活動にまったく身が入らず、人生の行き先はおろか、生きる興味さえ見失っていた大学生の大友勇輝(のせりん)が、夏休みに福井を訪問。溺れてしまった自分を助けてくれた「若狭和田ライフセービングクラブ」のメンバーと出会った勇輝が、海を愛し、誰かのために勇気を振り絞る彼らへの憧れと共に、目標に向かって走りだす姿を描く。
映画初主演という大役を任された時には、「いつかやってみたいと思ってはいたんですが、こんなに早くいただけるとは思っていませんでした。それに僕は細身だし、色も白いし、ライフセーバーという存在からはほど遠いんじゃないか…と不安のほうが大きかったです」と胸の内を打ち明けたのせりん。その気持ちを児玉宜久監督はじめとする制作陣に正直に伝えたというが、制作陣は本作の主人公について「ナイーブで体育系ではないタイプの子が、意外にもライフセーバーを目指す」というイメージを抱いていたそう。その言葉を耳にして、のせりんは「挑戦してみよう」と奮起したと振り返る。

台本を読み込むなかで、勇輝と自身の不安や境遇が重なる部分があると感じたという。勇輝は将来に悩む青年だが、「高校在学中からモデルとして活動していて、卒業して20歳になってから、俳優のお仕事を始めました」というのせりんも、「小さなころはサッカー選手になりたいという漠然とした夢がありましたが、リアリティを持って将来を考えた時に、“自分のやりたいことってなんだろう”、“この先、どうしていったらいいんだろう”と思うことがあって。そういった勇輝の気持ちはよくわかる気がしました」と共感を寄せる。

不安のなか飛び込んだ、映画初主演。約3週間の撮影において、のせりんは高浜町に泊まり込んで合宿のような期間を送った。ロケ地を訪れた日を述懐すると、きらめく海を目にした時に「不安がワクワクに変わりました。ずっとここにいられるのは、最高かも!と思いました」と笑顔を弾けさせる。当初は「座長だ」という緊張感もあったが、チームの仲間には「“座長”とは言わないでね、と伝えたんです」と照れ笑い。「引っ張ってもらいつつ、みんなで一緒に“チームワークを大切にしながら頑張っていきたい”と伝えました」と演じるライフセーバーと同じく、チームワークを胸に刻んで撮影がスタートした。
■「意外と底力があることに気づきました」

劇中では、ライフセーバーの資格取得に向けた座学や泳法・救助法のトレーニング、さらには1分1秒を争う日々の活動もリアリティを持って描かれていく。クランクイン前に渡された教則本でその活動について学びつつ、現場には「若狭和田ライフセービングクラブ」のメンバーが常に立ち会い、活動の内容はもちろん、体づくりの方法や精神面まで詳しく質問することができたという。のせりんは「同世代の方も多くて、撮影の合間にもたくさん話をして。ものすごく仲良くなりました」とにっこり。

検定試験の種目の一つで、厳密な時間制限の設けられた“ラン・スイム・ラン”(走る・泳ぐ・走るを繰り返す競技)にも身を投じるなど、体力的に大変な場面もあったのではないかと想像するが、のせりんは「何度も走って、何度も泳いで。“ラン・スイム・ラン”はさすがに大変でした!」と声を上げつつも、「楽しんでやることができました」と充実感をにじませる。

そして「自分の意外な一面を発見した」とも。「勇輝は“運動神経があまりよくない”というキャラクターなんです。みんなで泳ぐシーンでは、一番後ろからみんなを一生懸命に追いかけるという立場なんですが、意外と僕、泳ぐのが速くて」と破顔しながら、「監督からも“みんなを追い抜かないでね”と言われたりしながら泳いでいたんですが、スタートを遅らせても追い抜きそうになってしまうこともあって。思ったより泳ぐのが得意だったんだとわかったり、自分は意外と底力があるんだということに気づきました」とポジティブな気づきがあった様子だ。

「若狭和田ライフセービングクラブ」のリーダー・⽴⽯役を徳重聡、勇輝の伯父を⾵間トオル、地域を支える中心人物を⻄岡徳⾺が演じるなど、錚々たるベテランが脇を固めている。
のせりんは「徳重さんはものすごく寡黙な方で、一緒にご飯を食べに行った時など徳重さんが笑ってくださるとうれしくて。撮影中は怠ることなく、日々筋トレを行い、走り込みを行うなど、ものすごくストイックに体づくりや役作りに向き合っていました。風間さんもとてもやさしくて、お酒を飲みながらいろいろな話をしてくれました。撮影が終わったあとには、風間さんが一人で泳ぎに行かれたりしているのを目にすることもありました。そして西岡さんとは、2回目の共演です。久しぶりにお会いしましたが、僕のことも覚えていてくださってすごくうれしかったです。西岡さんとは、一緒に沖のほうに出るシーンがありました。西岡さんは海の美しさに大興奮で、写真を撮りまくっていました」と先輩たちと過ごした日々を懐かしみながら、「タフな先輩ばかりでした!皆さんエネルギッシュで、魂が燃えている感じがするんです。僕も見習いたいです」と受けた刺激を口にしていた。
■「アクションや時代劇をやってみたい!」

勇輝は仲間と切磋琢磨し、何度も壁にぶつかりながら、少しずつ成長を遂げていく。地域の人も映画づくりを支え、チーム一丸となった映画づくりを通して、のせりん自身も「ひとつ殻を破れた気がしています」と告白。
「最初は不安がありましたが、毎日が楽しく、参加できて本当によかったです。体力的にも、いろいろな経験ができました。僕は人見知りをしてしまうタイプだし、人生保守派というか。積極的にチャレンジできないタイプでもありましたが、本作を通して、“怖くても飛び込んでみるといいことがあるんだ”と感じることができました。保守派のままではおもしろくないかもしれないと思える、第一歩になったような気がしています」と清々しい表情を見せる。

もともと芸能の仕事に就くとは思っていなかったという彼だが、「ご縁や巡り合わせに恵まれてモデルを始めて、いま少しずつ、俳優のお仕事もさせていただけるようになりました。いまこのお仕事がすごく好きで、楽しいと思うことができている」とこれまでの道のりを辿る。本作の撮影現場では「作品をよりよいものにするために、監督を中心としてみんなが脳みそを使って、いろいろなアイデアを出し合っていました。これが映画づくりの醍醐味なんだと感じられた」と喜びを噛み締めながら、「僕もその一員になれていることがうれしい」と心を込める。
俳優としての今後について、「アクションをやってみたいです。剣や刀、銃を使ったアクションもいいですね!時代劇にも挑戦してみたいですし、いつか大河ドラマに出演できたらとてもうれしいです」と目標を掲げる。モットーは「“ありがとう”という感謝の言葉を、思った時にきちんと口にすること」だという、のせりん。誠実な姿には、いつでも人を惹きつける力がある。俳優業は「新しい自分を発見できるような日々でもある」という彼から、ますます目が離せない。
取材・文/成田おり枝
※西岡徳馬の「徳」は旧字体が正式表記
