空白の意味を、やっと言葉にできた
宿に荷物を置いたあと、彼女のほうから切り出してきました。
「しおりの係の欄、私のところだけ空欄だったよね」
それを聞いて、僕はようやく気づきました。彼女はあの空白を、ずっと気にしていたのだと。僕は慌てて答えました。
「気づいてたんだ。あの欄は、わざと空けてたんだよ」
それから、本当の気持ちを口にしました。「最近ずっと忙しそうだったから。何もしなくていい旅にしたかったんだ」
彼女の表情が、ふっとやわらぐのがわかりました。よかれと思って空けた欄も、言葉にしなければ、ただの冷たい余白に見えていたのだと、このとき初めて知りました。
そして...
あの欄を空けたのは、彼女を大切に思っていたからでした。それなのに、僕はその気持ちをひとことも添えませんでした。気遣いは、言葉にしなければ、相手には違った形として届いてしまう。当たり前のことに、ようやく気づかされました。
帰り道、彼女は「次の旅行では、私にも係をちょうだいね」と笑ってくれました。不器用な気遣いに、彼女が気づいてくれたこと。それが、この旅でいちばんの収穫でした。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
