プロ野球界に激震が走ったのは、5月25日夜のことだった。巨人を率いる阿部慎之助前監督が18歳の長女に暴行を加えたとして、警視庁に現行犯逮捕されたのだ。球団史上初となるシーズン中の監督退任劇は、後任人事の暗闘まで呼び込んで。
事件当夜の午後10時過ぎに第一報が出た前代未聞の逮捕劇は、「球界の盟主」を自負する巨人軍にとって崩壊危機を意味するはずだった。ところが、親会社の読売グループ本社が見せた事後処理のスピード感は、他球団関係者も目をみはるほど「驚異的」と言うほかないものだったのである。
日付が変わった5月26日午前0時過ぎに阿部慎之助前監督(47)が釈放されると、本来なら業務が滞る深夜帯にもかかわらず、裏では巨大な組織の歯車が猛烈に回転し始めていた。事件発覚から12時間も経たない翌朝、阿部前監督は東京・大手町の読売新聞本社を訪れ、待ち受けていた山口寿一オーナー(69)に直接謝罪して辞任を申し出た。球団側は間髪いれずに受理し、山口オーナーによる迅速な声明発表、さらには阿部前監督の緊急記者会見がセットされている。極め付きは、暴行を受けた長女が書いたとされる手紙の文面まで全面公開されたことだ。
その手紙には、父親の厳格な教育方針への理解と謝罪という、およそ18歳の女子高校生が書いたとは思えないほど理路整然とした文章が綴られていた。この鮮やかなメディアコントロールにより、ネット上では署名運動まで行われるなど、世論は急速に「阿部同情論」へと傾いていった。実際にセ・リーグ球団のフロント関係者は驚きを隠せず、こう本音を漏らしている。
「普通なら現役監督の逮捕となれば、事実確認などで数日は右往左往する。それを深夜の釈放から翌朝の辞任、オーナーコメント、本人の会見、娘の手紙の公表まで半日で完璧にパッケージ化して世に放った。世論を『かわいそうな父親』に誘導する手際のよさは、日本のメディア界を牛耳る読売グループ、巨人軍でなければ不可能な芸当です。裏でどれだけの人間が寝ずに動き、各方面に牽制を入れてシナリオを書いたのか想像もつかない」
しかし、どれだけ同情論が噴出しようとも、「阿部慎之助」の“ウラ素顔”を知る関係者の受け止め方は大きく異なるようだ。阿部前監督に近い巨人の有力OBが冷ややかに振り返る。
「世間は『熱血漢の父親が教育に悩んだ末の過ち』と見たがるが、起こるべくして起こった出来事にしか思えない。慎之助の根底にあるのは、アップデートされていない“昭和的な暴力体質”と強烈な感情の起伏。グラウンドでの横暴な態度がそのまま家庭に持ち込まれたと考えれば、すべて辻褄が合います」
実際、阿部前監督の野球人生は強権的なエピソードに事欠かない。現役時代の12年10月28日、日本シリーズ第2戦において、マウンド上で精彩を欠いた澤村拓一(38)の頭をポカリと殴りつけた一件はその本質を象徴している。
2軍監督時代も、“慎之助イズム”は健在だった。
「腑抜けたプレーが見られたり結果が伴わなかったりした若手に対し、メディアの目が届かない裏でどなりつけ、過酷な罰走を密かに命じることも少なくなかった。周囲にも『今の時代、暴力はハラスメントと言われるが、時と場合によっては愛のムチも必要。今の子供たちは甘い』と平然と口にすることが一度や二度ではなかった」(有力OB)

